上 下
615 / 743
第10話 空(うつほ)なる真実

ルアノンにて Episode:05

しおりを挟む
「謝らなくていいぞ。行こう」
「あ、はい」

 ルーフェイアがほっとした表情になった。

 ――我ながら、慣れてきたな。

 なんとなく泣くタイミングが分かってきたし、どうすれば泣かないかもだいたい分かる。

「ここはまっすぐか?」
「あ、えっと、こっちです」

 ルーフェイアの先導で、町を歩いていく。

 そうしてたどり着いたところは、町のお医者さんだった。
 けっこう大きな作りで、人の出入りも多く、賑わっている。

 医者が賑わうのはどうかと思うが、ともかくここは繁盛しているようだった。
 また扉が開いて、患者らしき人と、看護師らしき女性とが出てくる。

 と、向いた視線が私たちを捉えた。

「あらまぁ、もしかしなくても、ルーちゃんじゃない」

 すぐにこの子のことが、分かったらしい。

「あ、えっと、お久しぶり……で……」
「イマドイマドイマド、出てらっしゃいな。ルーちゃん来たわよー」

 こちらの話を、全く聞いていないようだ。

「あぁもう、あの子ったら。せっかく尋ねてきてくれたのに、出てもこないじゃしょうがないでしょうに。
 ルーちゃんごめんなさいね、呼んでくるからちょっと待ってて……ってあら、連れの方が居たのね」

 どうもこの人、聞こえていないどころか、見えてもいないようだ。

「えーと、ルーちゃん、どちらさま?」
「あ、その、学院の先輩です。旅行に……連れてきて、もらって」

 正直連れてきたかどうかには、少々疑問が残るが、旅行なのはたしかだろう。

「あらそうなの、よかったわねぇ」

 この女性、ルーフェイアのことを相当可愛がっているようだ。

「ともかくここじゃ何だから、お上がりなさいな。すぐイマドに、お茶用意させるわね」

 言って、私たちを中へ招き入れる。

(……イマド、かなりコキ使われてないか?)
(そうみたいです……)

 まぁそれでも自分から帰るのだから、それなりに楽しいのだろう。

「イマド、何してるの! 出てらっしゃいったら!」

 この女性があがりながら、また声をかけると、少し怒ったような声が返ってきた。

「だーかーら、メシ作ってんだから、手放せねぇっての!」

 まるで親子喧嘩だ。

 ――内容が少々、おかしい気はするが。

 ただ、羨ましいとも思った。
 実の両親ではないものの、こうして言い合える身内が居るイマドは、学院生としては十分恵まれている。
しおりを挟む

処理中です...