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第10話 空(うつほ)なる真実

ノネ湖にて Episode:13

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「……石碑?」

 草の中に平たい黒い石が、見え隠れしている。

「あぁ、あれかい? いつの間にかここに、置かれたんだよな。
 名前が刻まれてるから、誰かの墓らしい」

 近づいてみると、誰かが供えたのだろう、置かれた花が朽ちていた。
 表面に刻まれた文字を、読んでみる。

「ローズ……リュゥローン?!」

 それと、馴染みのない名前がもう二つ。

 動けなくなった。

 タシュアはいつも夏休みになると、すぐに1週間ほど出かける。
 ただ彼がどこへ行くのかは、私は知らなかった。

 以前訊いたことがあるが、「墓参りに」と言うだけで、具体的にどことは言わなかったのだ。
 ただ身内を亡くしたというような話は昔聞いたことがあったから、たぶんそれだろうと思っていた。

 もちろん、姓が同じだけで関係がない人、という可能性もある。

 だがリュゥローンという姓は珍しいし、タシュアがシエラの傭兵隊に保護されたのは、たしかこのノネ湖の周辺だ。
 そういったことを考え合わせると、おそらく間違いないだろう。

 見てはいけないものを、見てしまった気分だった。

「先輩、これ……」

 刻まれている名前の意味を、悟ったのだろう。
 ルーフェイアも何ともいえない表情になる。

「ルーフェイア、ここへ来たこと……タシュアには内緒に、してくれないか?」
「――はい」

 偶然知ったからといって、咎めるタシュアではない。
 それは分かっているが、ここは彼だけの場所にしておきたかった。

「おーい、早くしないと日が暮れるぞー」

 もともとは気のいい人らしい運転手が、向こうから大声で呼ぶ。

「すみません、今行きます!」

 答えて、この場所を後にした。

 乗り込んだ車が動き出す。
 だが風にそよぐ草の中の墓石が、脳裏から離れなかった。

「……あの」
「え?」

 見ればルーフェイアが、真っ直ぐな視線で私を見上げている。

「どうした?」

 聞き返すと少しの間があって、この子が口を開いた。

「明日、ダメですか? えっと、その、花を……持って」

 思わず微笑む。

 数日前、私が言ったのと同じ言葉だ。
 きっと、気を遣ってくれたのだろう。

「いい子だな、ルーフェイアは」

 抱き寄せて頭を撫でると、この子が嬉しそうに体重を預けてきた。
 ほんとうに甘えん坊だ。

 そのあとは、どちらもなんとなく黙ったままで、やがて車が止まった。
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