636 / 743
第10話 空(うつほ)なる真実
ノネ湖にて Episode:13
しおりを挟む
「……石碑?」
草の中に平たい黒い石が、見え隠れしている。
「あぁ、あれかい? いつの間にかここに、置かれたんだよな。
名前が刻まれてるから、誰かの墓らしい」
近づいてみると、誰かが供えたのだろう、置かれた花が朽ちていた。
表面に刻まれた文字を、読んでみる。
「ローズ……リュゥローン?!」
それと、馴染みのない名前がもう二つ。
動けなくなった。
タシュアはいつも夏休みになると、すぐに1週間ほど出かける。
ただ彼がどこへ行くのかは、私は知らなかった。
以前訊いたことがあるが、「墓参りに」と言うだけで、具体的にどことは言わなかったのだ。
ただ身内を亡くしたというような話は昔聞いたことがあったから、たぶんそれだろうと思っていた。
もちろん、姓が同じだけで関係がない人、という可能性もある。
だがリュゥローンという姓は珍しいし、タシュアがシエラの傭兵隊に保護されたのは、たしかこのノネ湖の周辺だ。
そういったことを考え合わせると、おそらく間違いないだろう。
見てはいけないものを、見てしまった気分だった。
「先輩、これ……」
刻まれている名前の意味を、悟ったのだろう。
ルーフェイアも何ともいえない表情になる。
「ルーフェイア、ここへ来たこと……タシュアには内緒に、してくれないか?」
「――はい」
偶然知ったからといって、咎めるタシュアではない。
それは分かっているが、ここは彼だけの場所にしておきたかった。
「おーい、早くしないと日が暮れるぞー」
もともとは気のいい人らしい運転手が、向こうから大声で呼ぶ。
「すみません、今行きます!」
答えて、この場所を後にした。
乗り込んだ車が動き出す。
だが風にそよぐ草の中の墓石が、脳裏から離れなかった。
「……あの」
「え?」
見ればルーフェイアが、真っ直ぐな視線で私を見上げている。
「どうした?」
聞き返すと少しの間があって、この子が口を開いた。
「明日、ダメですか? えっと、その、花を……持って」
思わず微笑む。
数日前、私が言ったのと同じ言葉だ。
きっと、気を遣ってくれたのだろう。
「いい子だな、ルーフェイアは」
抱き寄せて頭を撫でると、この子が嬉しそうに体重を預けてきた。
ほんとうに甘えん坊だ。
そのあとは、どちらもなんとなく黙ったままで、やがて車が止まった。
草の中に平たい黒い石が、見え隠れしている。
「あぁ、あれかい? いつの間にかここに、置かれたんだよな。
名前が刻まれてるから、誰かの墓らしい」
近づいてみると、誰かが供えたのだろう、置かれた花が朽ちていた。
表面に刻まれた文字を、読んでみる。
「ローズ……リュゥローン?!」
それと、馴染みのない名前がもう二つ。
動けなくなった。
タシュアはいつも夏休みになると、すぐに1週間ほど出かける。
ただ彼がどこへ行くのかは、私は知らなかった。
以前訊いたことがあるが、「墓参りに」と言うだけで、具体的にどことは言わなかったのだ。
ただ身内を亡くしたというような話は昔聞いたことがあったから、たぶんそれだろうと思っていた。
もちろん、姓が同じだけで関係がない人、という可能性もある。
だがリュゥローンという姓は珍しいし、タシュアがシエラの傭兵隊に保護されたのは、たしかこのノネ湖の周辺だ。
そういったことを考え合わせると、おそらく間違いないだろう。
見てはいけないものを、見てしまった気分だった。
「先輩、これ……」
刻まれている名前の意味を、悟ったのだろう。
ルーフェイアも何ともいえない表情になる。
「ルーフェイア、ここへ来たこと……タシュアには内緒に、してくれないか?」
「――はい」
偶然知ったからといって、咎めるタシュアではない。
それは分かっているが、ここは彼だけの場所にしておきたかった。
「おーい、早くしないと日が暮れるぞー」
もともとは気のいい人らしい運転手が、向こうから大声で呼ぶ。
「すみません、今行きます!」
答えて、この場所を後にした。
乗り込んだ車が動き出す。
だが風にそよぐ草の中の墓石が、脳裏から離れなかった。
「……あの」
「え?」
見ればルーフェイアが、真っ直ぐな視線で私を見上げている。
「どうした?」
聞き返すと少しの間があって、この子が口を開いた。
「明日、ダメですか? えっと、その、花を……持って」
思わず微笑む。
数日前、私が言ったのと同じ言葉だ。
きっと、気を遣ってくれたのだろう。
「いい子だな、ルーフェイアは」
抱き寄せて頭を撫でると、この子が嬉しそうに体重を預けてきた。
ほんとうに甘えん坊だ。
そのあとは、どちらもなんとなく黙ったままで、やがて車が止まった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる