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第10話 空(うつほ)なる真実

孤島にて Episode:02

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「ここを道なりに行くと、庭というか広場があるんです。
 グレイス様は、そこにいらっしゃいますよ」

「ありがとうございます。でもその前に、身体を流したいので……」

 海から上がってきたばかりで、着替えないことには始まらない。

「あ、すみません、気がつかなくて。すぐに準備しますから、いつもの離れへどうぞ」
「こちらこそすみません」

 預けておいた着替えを受け取り、屋敷の脇にあるシャワー室――お茶まで飲める――で身体を洗う。
 それから着替えて髪を乾かして、気づけばだいぶ時間が過ぎていた。

 さすがにもう、裏庭にはルーフェイアは居ないだろう。
 そう思いながら、なんとなく行ってみる。

「あ、先輩!」

 意外にも何人もの子といっしょに、金髪の姿がそこにはあった。
 その子たちを見て、足が止まる。

「先輩?」

 不思議そうに問いかけてきたルーフェイアに、私は笑顔を作って答えた。

「ずっと、ここに居たのか?」
「はい」

 自然な表情のルーフェイア。
 構えてしまう自分が、ひどく情けなくなる。

 ルーフェイアの周りに居るのは……どう見ても、何か障害を持つ子ばかりだった。
 それも、知的なものだろう。

「この子たちは?」

 訊くと、少女が視線を落として答える。

「うちの子たち、なんです。
 身体が弱い子が多くて……ここでよく、静養してて」

 詳しくは分からないが、どうやら関係者の子供たちで、ここへ静養をかねて遊びに来ているらしい。
 慣れているのだろう、「あーあー」と言葉にならない声をあげる子に、ルーフェイアは優しく微笑んだ。

「もう、お部屋に帰る? お腹空いたでしょ?」

 驚いたことに、話しかけられた子たちが嬉しそうに笑った。

「……先輩?」
「いやその……こういうふうに、笑うんだな」

 シエラには、こういう子は居ない。
 だからこの年まで、こんなに間近にこういう子たちを、見たこともない。

 たまに町で遠目に見ながら、何も分かっていないのではないか、そう思っていた。

 だが、それが間違いだったと気づく。
 この子がルーフェイアに向けた笑顔は、限られた能力で意思を伝えようとしていることを、はっきり示していた。
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