LEAFー愛は信頼の先にー

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誠意の波

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静かに幕を下ろしたその夜は、やがて多くの声に包まれていくこととなった。
発端は、ホテルの関係者が匿名で語った一言だった。
「あるカップルが、医師の診断書と弁護士の立会いのもと、何かを“合意”していた」
それは、ゴシップ誌の片隅に小さく掲載された一文だったが、あまりにも現代的で、あまりにも“整いすぎていた”その内容は、一部の記者の好奇心を大きく揺さぶった。
週刊誌『現代トレンド』が最初に取り上げたのは、三週間後だった。
《「すべてが記録された夜」──合意の未来が変わる?》
記事は「関係の前に行われた法的確認」「診断書の提示」「姉と弁護士の立会い」「録音記録と署名」といったディテールを、まるで契約の新形態であるかのように報じた。
やがて、テレビ局がその“記録された恋愛”を社会現象として取り上げ始めた。コメンテーターたちは賛否を織り交ぜながら、こう語った。
「これは、相手を信じているからこそできる“可視化された誠意”だと思います」 
「でも、ここまで形式化することに違和感を覚える人も少なくないでしょう」
SNSでは《#記録する恋愛》《#合意のかたち》《#誠意は書面に宿る》といったタグが生まれ、若年層の間で特に大きな話題となった。
中には、自らの恋愛経験と比較して語る投稿もあった。
《昔、嫌だったことをうまく伝えられなかった。こういう方法があれば、もっと安心できたかもしれない》
《“信じる”って不安なこともあるけど、“信じた”って記録が残るなら、それはすごく強い》
そして、報道の熱量が頂点を迎えたのは、綾音と江口の実名が報じられたときだった。
二人は記者会見を開く決断をした。
綾音は落ち着いた声で語った。
「私たちは、ただ、お互いに安心できる形を作りたかった。それが結果的に多くの方に注目されることになって、戸惑いもありました。でも、もしこれが“誰かの不安を減らすヒント”になるなら、意味はあると思っています」
江口も続けた。
「形式じゃなくて、意志なんです。“あなたに触れたい”って言葉を、ちゃんと伝えられる形にしたかっただけなんです」
その会見は、多くのメディアで繰り返し放送され、ふたりの行動は、“合意の尊重”という概念そのものを社会に投げかけた。
こうして、制度のない場所から始まった一夜の記録は、やがて日本社会全体を巻き込むうねりへと変わっていく──。
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