9 / 13
3章 「制限時間」
制限時間
しおりを挟む
闇の中、聡だけにライトが当たる。
(声が出ない……?)
聡は暗闇の中を彷徨う。
中央に、一人の女性が座っていた。青い光の円が彼女を包んでいる。聡の前妻、菜緒(なお)だった。
聡は驚愕し、近寄る。しかし、菜緒は聡の存在に全く気付かない。
何とか気付いてもらおうと、手をかざし、周りを回る。それでも菜緒は反応しない。
触れようと青い光の円に入った瞬間、体に激しい痛みが走る。触れられない。
菜緒はスマホを取り出し、電話をかけ始めた。
「あ、お母さん? ……ごめん、寝てたよね。急に目が覚めて、眠れなくて」
彼女の声だけが、静寂に響く。
「……心配しすぎ。いろいろありがとうね。……今度帰ったとき洗って返すよ。ううん、まだそういうのは無理。……分かってるけど、まだ気持ち整理ついてないの」
菜緒は言葉を続ける。
「うん……。一方的に別れちゃったけど、全部聡……相羽さんのせいにするの違ったなって」
(菜緒。)
声にならない声で呼びかける。
「……あ、後悔してるわけじゃないよ。あのまま一緒に居ても、上手くいかなかったもん。でも。ちゃんと話せばよかった。………えとね。多分、本音を言うのが怖かったから」
菜緒はため息をつく。
「まぁあんな別れ方としといて、もう連絡出来ないけど。……うん、そうだね」
なんで声、出ないの? 聡は絶望する。
「…あぁ。えっとね。……夢みたの。それで眠れなくなっちゃって。何だろうね? ……お父さんには言わないでよ? じゃあおやすみ」
スマホを切る。
お願い。どうか一言だけ。聡は祈る。
「何かあったのかな」
菜緒は聡に電話するか悩むが、やめた。
「……寝よ」
彼女は立ち上がり、去っていく。
(もう二度と話せないから。お願い。)
天に祈る。
この時を逃せば、二度と声はかけられない。
――菜緒は立ち去り、聡が一人、闇の中に取り残された。
照明が回復し、神殿の場面に戻る。ラドガストが冷徹に問いかけた。
『二年前の誕生日、何をしていましたか?』
「……仕事」
『一体何のために?』
聡は何も答えられない。
『自己犠牲は幸せに繋がりましたか?』
スクリーンに、過去の記録が投影される。
菜緒からの着信が十件以上。
オフィスのデジタル時計。[Tokyo: AM 03:30, NY: 14:30]。
そして、誕生日プレゼントの名刺入れと、離婚届。
「苦しんだ分しか、誰かを幸せにできないと思ってた」
ブーッ! ブーッ! ブーッ!
警告音ではない。黄色のサイレンが点灯する。
『聡さんは告白しました。ロックが解除されます』
カチッ、と青の鍵のロックが外れる音がした。
聡は恐る恐る鍵に触れ、右手で取ろうとするが、止まる。
『扉を開くためには、鍵を差し込んでください』
聡は鍵を取ろうとするが、触れられないでいる。
『聡さん? さぁ、鍵をどうぞ』
その時、央がラドガストの仕掛けた罠に気付いた。
「!」
「大丈夫か?」
晶が央の傍に行く。
「何でもない」
央は、晶の手を握らずにはいられなかった。
聡は再度、青の鍵の前に立つ。手を伸ばすが、やはり触れることができない。光が彼を拒絶している。
『どうしました? 扉を開くためには鍵が必要です』
「……っ」
央は無言で速足に青の鍵へ歩いていき、躊躇なくそれを手に取った。
「え? ……おい?」
央が扉に鍵を差し込み、『ガチャリ』と音を立てて回す。
天井の緑ランプが点滅し、部屋が振動する。
『……!』
ラドガストから、想定外の行動に対するバグのような音が漏れた。
「他の鍵に触っちゃダメっていった?」
『……青の鍵が差し込まれました。残りの鍵は三本です』
晶は、央の行動と、ここまでの全ての出来事から、真相に至る。
彼は意を決してマイクへ向かった。
(声が出ない……?)
聡は暗闇の中を彷徨う。
中央に、一人の女性が座っていた。青い光の円が彼女を包んでいる。聡の前妻、菜緒(なお)だった。
聡は驚愕し、近寄る。しかし、菜緒は聡の存在に全く気付かない。
何とか気付いてもらおうと、手をかざし、周りを回る。それでも菜緒は反応しない。
触れようと青い光の円に入った瞬間、体に激しい痛みが走る。触れられない。
菜緒はスマホを取り出し、電話をかけ始めた。
「あ、お母さん? ……ごめん、寝てたよね。急に目が覚めて、眠れなくて」
彼女の声だけが、静寂に響く。
「……心配しすぎ。いろいろありがとうね。……今度帰ったとき洗って返すよ。ううん、まだそういうのは無理。……分かってるけど、まだ気持ち整理ついてないの」
菜緒は言葉を続ける。
「うん……。一方的に別れちゃったけど、全部聡……相羽さんのせいにするの違ったなって」
(菜緒。)
声にならない声で呼びかける。
「……あ、後悔してるわけじゃないよ。あのまま一緒に居ても、上手くいかなかったもん。でも。ちゃんと話せばよかった。………えとね。多分、本音を言うのが怖かったから」
菜緒はため息をつく。
「まぁあんな別れ方としといて、もう連絡出来ないけど。……うん、そうだね」
なんで声、出ないの? 聡は絶望する。
「…あぁ。えっとね。……夢みたの。それで眠れなくなっちゃって。何だろうね? ……お父さんには言わないでよ? じゃあおやすみ」
スマホを切る。
お願い。どうか一言だけ。聡は祈る。
「何かあったのかな」
菜緒は聡に電話するか悩むが、やめた。
「……寝よ」
彼女は立ち上がり、去っていく。
(もう二度と話せないから。お願い。)
天に祈る。
この時を逃せば、二度と声はかけられない。
――菜緒は立ち去り、聡が一人、闇の中に取り残された。
照明が回復し、神殿の場面に戻る。ラドガストが冷徹に問いかけた。
『二年前の誕生日、何をしていましたか?』
「……仕事」
『一体何のために?』
聡は何も答えられない。
『自己犠牲は幸せに繋がりましたか?』
スクリーンに、過去の記録が投影される。
菜緒からの着信が十件以上。
オフィスのデジタル時計。[Tokyo: AM 03:30, NY: 14:30]。
そして、誕生日プレゼントの名刺入れと、離婚届。
「苦しんだ分しか、誰かを幸せにできないと思ってた」
ブーッ! ブーッ! ブーッ!
警告音ではない。黄色のサイレンが点灯する。
『聡さんは告白しました。ロックが解除されます』
カチッ、と青の鍵のロックが外れる音がした。
聡は恐る恐る鍵に触れ、右手で取ろうとするが、止まる。
『扉を開くためには、鍵を差し込んでください』
聡は鍵を取ろうとするが、触れられないでいる。
『聡さん? さぁ、鍵をどうぞ』
その時、央がラドガストの仕掛けた罠に気付いた。
「!」
「大丈夫か?」
晶が央の傍に行く。
「何でもない」
央は、晶の手を握らずにはいられなかった。
聡は再度、青の鍵の前に立つ。手を伸ばすが、やはり触れることができない。光が彼を拒絶している。
『どうしました? 扉を開くためには鍵が必要です』
「……っ」
央は無言で速足に青の鍵へ歩いていき、躊躇なくそれを手に取った。
「え? ……おい?」
央が扉に鍵を差し込み、『ガチャリ』と音を立てて回す。
天井の緑ランプが点滅し、部屋が振動する。
『……!』
ラドガストから、想定外の行動に対するバグのような音が漏れた。
「他の鍵に触っちゃダメっていった?」
『……青の鍵が差し込まれました。残りの鍵は三本です』
晶は、央の行動と、ここまでの全ての出来事から、真相に至る。
彼は意を決してマイクへ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる