手を振る朝

サンズイモドル

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3章 「制限時間」

【真実】/【嘘】

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 神殿に四人の姿が戻る。緑の光が消え、晶が立ち上がる。

 ピコッ。

 再び、ポップアップ通知音。遥が慌ててスマホの電源を切ろうとする。

『遥さん、MDMからの通知です』

 スクリーンに新たな情報が投影される。それは、聡のスマートフォンの監視記録だった。

『04:00 3104pixcel9pro
 現在地:杉並区成田東4丁目付近
 新規メッセージ2件「気を付けてね」「明日は11時に」
 新規メール作成(1)
 宛先:(nao70@skymail.com)
 件名:「あと一週間で」
 本文:「区切りがつけられそう」』

「え……? ちょっと待って。なに、これ……?」

 聡は愕然とする。遥は神殿の隅に逃げ、壁を向いた。

「ねぇ、遥!」

 聡が追う。遥は彼を見ることができず、下を向く。

「どうして?」
「……誰と会ってたの?」

 遥が振り返る。

「え?」
「私が寝た後、出かけてたでしょ?」
「ちょっと、用事あって」

 聡は遥から逃げる。

「夜中に?」

 遥が追う。

「……ちょっと待て。さっきから、何の話?」

 央が割って入る。

「監視アプリ……だろ?」

 晶が遥に軽蔑の視線を向けた。遥は答えない。

「犯罪だぞ」
「……浮気は?」

 晶は何も言い返せなかった。
 遥がマイクへ向かう。

『遥さん、質問をどうぞ』
「【……昨日、誰と居たの?】」

 聡は応答を拒否し、逃げる。

「ねぇ! 答えて」

 遥が追いかける。

 ズン……! 部屋が振動し、天井の赤ランプと緑ランプが同時に点滅した。
 スクリーンに、銀行口座の残高が映し出される。110万円。

 ノイズ音。別の場面が再生される。家事代行サービスの仕事中のようだ。

『大丈夫? ちょっと休んだら?』

 同僚のせいらの声。

『ううん。大丈夫』

 聡がバスケットから洗濯したタオルを取り出し、笑顔で渡す音。

『早く帰りたいんでしょ?』
『あはっ』

 手際よくフローリングをワイパーで拭く音。

『いいなぁ幸せそうで。でも顔色悪いよ?』
『大丈夫。あと何かすることある?』
『もう上がって。あれ、いつまでだっけ?』
『あと一週間』

 聡が玄関へ向かい、ヘルメットを取る。

『寂しくなるなー。運転、気を付けてね?』
『ありがとう。また明日』

 ノイズが途切れる。

「……え?」

 聡は沈黙している。

「ね、何のため? もう式とかの分、全部貯まったでしょ?」
『遥さんの一言が』
「違う。俺が、決めたんだ。」

 聡はラドガストの声を遮った。

 ノイズ音。今度は遥自身の声。結婚式の打ち合わせ中の会話。

『ごめん。急に悲しくなっちゃって』
『大丈夫? 何か気になることあった?』
『そうじゃない。…けど』
『プランナーさん?』
『違うの!――二回目なんだなと思ったら、悲しくなっちゃって』
『……そっか』
『私にとっては初めてなのに』

 ノイズが途切れる。

「結納は、始めてなんだ」
「そのために?」
「うん」
「菜緒さんへのメールは?」
「変な癖で。ときどきメール書いて下書きに保存してた。送ったこと、ないんだ」

 遥はマイクに向かう。すがるような声だった。

「【これからはずっと一緒に居てくれる?】」

 聡もマイクに向かう。

「【傍にいるよ。ずっと】」

 緑ランプと赤ランプが同時に点滅する。

『聡さんが語ったのは【真実】/【嘘】です』

 ラドガストの声が二重に響いた。真実であり、嘘でもある。

 その矛盾を孕んだ宣告と共に、神殿全体が暗転した。
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