ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん

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知らない国から知らない国へ

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(ハア、ハアっ、ハア、ハア……)
 
一つに縛った髪を振り乱してただひたすら走る。眼鏡が何度もずり落ちそうになる。

少しでも他人に成りすまそうと、フードを被った。 


『はあ、はあ。待って、待ってよそんなに急がないで、ねえってばあ』


後ろを振り返るのが怖くて、とにかく膝を限界まで動かした。

(なんで……なんで私ばっかこんな目に……!!)

現実世界が怖すぎる。

ただ真面目に目立たず生きているだけだというのに。

足音が真後ろまで迫っている。 

レンズの分厚い眼鏡とフードだけでは、簡単に正体がバレてしまうらしい。

『だいじょうぶ、大丈夫だよ。怖がらなくていいんだよハルちゃん。』

(ひいっ……!!)

知り合いでもなんでもない男に名前を呼ばれて背筋が凍る。

『ほら、ハアハア、つーかまーえた~』

後ろの首の関節がカクンと曲がる。フードを引っ張られた時だった。
 
まばゆい光が一気に襲いくる。

(な、なにッ?!!)

真っ白な閃光に目も当てられず。腕を顔を覆ったまましゃがんでうずくまる。   
  
前からも後ろからも危機的状況に迫らられて、私は現実から目を背けようとただ目をつむることしかできなかった。



 
「おお!!!」
「召喚は成功したぞ!!!」


周りからどよめきが聞こえる。

(男はどうなったの? もしかして、誰かが助けてくれた??)

足がすくんで動けない。震えてうずくまっていれば、すぐ傍で優しい声が聞こえた。

「失礼。賢者の森より召喚されし者。我が名はエリシア王国第一王子、モンソニー・エリシアと申します。」

「…………」

「突然のことできっと気が動転しておられるでしょう。どうか私どもに説明をさせてはもらえませんか? 聖魔道士様。」

「え!?」
 
ぱっと顔を上げれば、そこには見目麗しいアッシュブロンドの男性が手を差し出している。

目鼻立ちの整った美しい顔立ち、エメラルドの瞳、不安そうな顔を傾ける彼の髪が綺麗に流れた。

服装はえんじ色の……燕尾服?? ところどころに宝石のようなボタンがあしらわれた服は、スーツよりも数百倍きらびやかだ。       
    
「大丈夫ですか? どうぞ、お手を。」

「あ、ありがとうございます。」

思わず手を取り立ち上がる。

足元の赤い絨毯は、ペルシャ絨毯のように繊細な刺繍があしらわれている。

真上を見れば、ビクトリア宮殿さながらの、金を施した神々の絵が円状に描かれている。

周りの人々も、今私の手を取った彼も、まさに中世ヨーロッパのような出で立ち。       

私は今、夢を見ているのだろうか?

フードを取り、分厚いレンズの眼鏡を持ち上げる。一つ結びの髪が乱れていないか頭を触る。

「……おや、このようなみすぼらしい格好でどうされたのでしょう? 聖魔道士様。」   

「はい??」

「聖魔道士様は神に最も近い存在。伝承より伝えられし、荘厳な魔導服はどうされたのです? あの服には守護の加護も与えられているのだとか。」

「…………」 
  
自分の格好を見下ろせば、大きなパーカーにジーパン。膝の生地はすでに薄くなっており、パーカーも袖周りがよれている。

確かに『みすぼらしい格好』だ。 

 
さっきまでストーカーに追いかけられていたというのに。一転して訳のわからないシチュエーションに頭がおかしくなりそう。
 
周りが再びざわつき始め、前からは牧師さんのような、白い礼装の格好をしたお爺さんが近づいてきた。

神官しんかん殿、至急確認を。」
「モンソニー王子、かしこまりました。」
 
白く長いヒゲと、金の十字架が施された帽子を被っている。それを見てようやくこの状況が理解できた。

このお爺さんの格好、どこかで見た映画にも出てきた。ここってもしかして、ファンタジーの世界なんじゃ……

「お若い方、どうかそのまま動かないでくだされ。」

「えっ? は、はい!」

緊張で声が上ずってしまうも、姿勢だけは正そうと背筋を伸ばした。

『神官殿』と呼ばれたお爺さんが、先端にある丸い水晶のような杖を私にかざす。

『使者セイレーンよ、そなたの歌声により真実を暴きたまへ』
 
神官が呪文のように唱えた瞬間、丸い水晶が真っ赤に光り始める。そして美しい歌声が鳴り響いた。

それを見た周りの人々が、驚きの表情を見せどよめいた。

「神官殿、今のは、まさか」

「え、ええ。そのまさかでございます。彼女は賢者の森より召喚されし者ではございません。」

「ということは、聖魔道士でもないということか?」
        
涼音のような落ち着いた声の王子が、お爺さんをじっと見据える。

すると神官が途端に恐れおののくように後退りをして膝をついた。
 
「さ、左様にございます!」

その瞬間、か細い悲鳴が沸き、慌てて部屋から出ていこうとする人たちがいた。

白と赤の礼服をまとった人たちだ。

突然どうしたのか、周りが騒然とし始める。すると王子が、落ち着いた声で言った。

「捕らえよ。」    

壁際に立っていた、鎧をまとう兵士たちが、逃げようとする人たちを追う。

部屋の外からはやはり悲鳴が聞こえ、恐らく兵士に捕らえられたのだと悟った。

(なに……? どういうことなの?!)

目の前で跪く神官は震えている。震わせた声でゆっくりと声を紡いだ。      

「お、恐れながらモンソニー王子……。彼ら、近衛魔道士はどうなるのでしょう?」
 
隣の王子を見れば、口角を上げ柔らかく微笑んだ。
 
「無論、処刑だよ。」

「っ、」

「召喚に失敗したのだからこれくらいは当然だろう? なに? なにか私に反論でもあるのかな?」

「い、いえ! とんでもございません!!」  

自分の背筋が凍りつく。

この王子、柔和な雰囲気に反して、言うことがかなり残酷だ。

(まさか、処刑だなんて! 信じられない……。)

そんな仕打ちがあることすら知らなかった私は、つい口出ししてしまったのだ。

「あ、あのっ! 王子、さま!!」

普段、職場では波風立てず、平穏に過ごしている私が、まさかわけのわからない世界で口を出せるなんて、思いもしなかった。
 
「……なんだい? なにか私に用かな?」

「あの……、さ、さすがにその、処刑というのは、やりすぎなのではないかと、思い、ます……。」

すくめた肩が震えた。せめてもと、腰の前で手を組み震えを止めようとする。それでも膝がガクガクと揺れているのが分かった。

自信のなさがそのまま言動に表れてしまう。

それでも人の死がかかっているかと思うと、何もせずにはいられなかった。

そっと王子を見上げれば、優しい瞳が弧を描いた。

「なるほど。この私に歯向かう者がいるとは、驚いたものだね。」
「きょ、恐縮です……」  
「確かに、あなたの言う通りだ。」
  
どうやら分かってくれたらしい。

ほっと胸を撫で下ろせば、王子が壁際に向かって声を上げた。

「この者はもう我が国に不要だ。今すぐ追放しろ。」  
  
呆気に取られる私に、王子は妖艶に笑いかける。  

右も左も分からない世界で、こんな仕打ちってあんまりではないだろうか?

「おいお前! 大人しく我々に従え!」
「ひッ」

私はここに来てからずっと大人しくしているというのに。兵士にそれぞれ腕を掴まれ、有無を言わさぬ力で連行されてしまう。

両側から持ち上げられた反動で、分厚いレンズの眼鏡がずれた。
 
「あ、あのっっ!! それよりここは一体どこなのですか?!」

肩越しに振り返って王子を見ようとすれば、眼鏡が床に落ちてしまう。

「あっ……! 私の眼鏡!」

しかし私の声など届いていないのか、誰も私の眼鏡を拾おうとはしてくれなかった。

「…………なぜ、その顔をこんな眼鏡で隠す……?」     
   
「も、モンソニー王子! すぐに次の召喚に取りかかる準備をいたします!」

王子が何かつぶやいた気がしたけれど、神官や、他の人たちの声に掻き消された。

やっぱりこれは悪い夢だ。

(勝手に人を召喚しておいて、間違えたからって即追放だなんて……!)

みすぼらしい格好だから追放された? いや、きっとさっき神官が持っていた杖の反応が、彼らが望んでいる召喚者じゃなかったことを示したんだ。
 
兵士らが前を見据えたまま、大きな歩幅であっという間に私を外へと連れ出す。

出た先には、荷馬車のようなものが用意されていた。ただし庭の向こうに並んでいるきらびやかな馬車とは様子が違う。

簡易的な布のような半円を描く屋根がついている。
 
「おい、モンソニー王子のご命令だ。この者を国外へ追放しろ。」
「分かりました!」
  
4頭もいる荷馬車の手綱を握る男が、ハんチング帽のつばを持ち、軽く会釈した。

荷馬車の中に詰め込まれ、よろめいた身体を木の椅子に寄りかかり、なんとか支える。

すぐに鉄格子が下ろされ、まるで牢屋に閉じ込められた感じだ。

恐怖が募り、思わず鉄格子に手をかけ、兵士の方を見る。

「あ、あの!!! 追放って、一体私はどこに……?!!」

せめて場所くらい誰か教えて欲しい。   
   
(あれ? でもこれってある意味、ストーカーに怯えることなく平穏な生活が送れるんじゃ……)

そんなことが頭をよぎったが、荷馬車は大きな揺れを伴い発車する。

そして私を見守る兵士たちが、なぜか口を開いたまま私を見つめていた。

「…………嘘だろ。なんと勿体ないことを!」

声が聞こえた気がした。でも馬車のスピードが早すぎて、あっという間に門の外へ出てしまった。



  

     
      
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