ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん

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知らない国から知らない国へ

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しばらくダンさんの黒い髪を撫でていた。

ゆるくうねった髪はフワフワだ。 

まるで私の手にすり寄るみたいに愛らしい。上から目線のダンさんからは想像もつかない。 

(もしかして、お酒に弱いのかな。)
 
ウトウトしながらも、ダンさんは仕事のことを色々と話してくれた。

この国には王族に務める近衛騎士団という騎士と、この国境沿いにあるダンピール騎士団という警備兵がいるらしい。

近衛騎士団は王宮や王都周辺の警護をするのが役目なのに対し、ダンピール騎士団は辺境地の森に済む魔物を討伐するのが仕事なのだそう。

どう考えてもダンピール騎士団の方がリスクが大きい。にも関わらず、ダンピールは王宮どころか王都にすら無断で入ることは禁じられている。

ここのところ王都に魔物が入り込む事件が多発しているらしく、そのダンさんはその処理に追われているとのことだった。 

魔物討伐時だけ王都への入都が許可されるため、王宮には都合よく使われているらしい。    

「あの小癪なモンソニー王子はダンピールのことを『不穏分子』だとほざいたのだ。なぜいつの時代も人間の方が優位だと思い知らされなければならない……」
 
なんとなく、この国ではダンピールが差別を受けているのだということが理解できた。   

それにダンさんが人間に反抗心を抱く理由も。

 
本当に眠ってしまったのか、ようやくダンさんから寝息が聞こえ始める。

人前では眠らないようなことを言っていたけれど、けっこうあっさり眠ってしまった。

よく見れば大きなベッドだ。背の高いダンさんでも余裕で眠れるほどのサイズ。ここはダンさんの家? でもこの小屋はあまり生活感がないように思う。
 
まだまだ聞きたいことは山ほどある。この先、私はどうやって暮らしていけばいいのだろう。

(よく見たら私、ブランケット一枚。どうしよう。服、とりあえず洗った方がいいよね?)

ジーパンは見当たらないし、さっきお酒で濡れたパーカーを洗おうとキッチンに行く。

異世界のキッチンには見慣れない食材が並んでいる。

一瞬、カタツムリや蜘蛛のような生物のホルマリン漬けを見てしまった。気持ち悪くてすぐに視線を反らす。待って、ダンピールって虫食べるの? 

ワインボトルのような瓶もたくさんあるし、中身の液体は色彩豊かだ。     

ガーリックのような匂いの瓶もあるし、さっき食べたシーフードのスープもとっても美味しかった。案外元いた世界と変わらないものも多い。

例えばカフェとか、料理店とか営んだら暮らしていけるだろうか?

そんなことを考えていれば、玄関の扉を叩く音が聞こえる。

トントン、トントン

どうしよう。といってもさすがに出るわけにはいかない。

だって今私、ブランケット一枚だし。それに勝手に誰かを入れたらダンさんに怒られそう。

トントン、トントン、トントン

「…………」 
  
そういえばこの小屋ってなんなのだろう? キッチンやベッドルーム、シャワールームはあっても、どれも簡易的なものに見える。
 
2階に続く階段も、階段というよりハシゴに近い。
 
玄関には警棒のようなものと、壁には防寒具なのかコートが2着かけられている。

ダンさんかスキュラさんの家かと思っていたけれど、もしかして騎士団の警備室のような場所なのだろうか?

ドンドンドン、ドンドンドン  

扉を叩く音が大きくなり、どこからか外が見える窓がないかを探す。

(もしかして、2階に窓があるのかな。)

2階に続くハシゴを登ろうとした時だった。

外から声が聞こえた。

「スキュラにございます。今この監視小屋は、中から開けていただかなければ開かない魔法がかけられております。」
 
スキュラさんの声だ!

「すみません! 今開けます!」
「おや、ダン様はいらっしゃらないのですか?」 
「実は、ダンさんは眠ってしまって!」  

玄関にかかっているコートを着て、扉の取っ手に手をかける。

「いやはや。こんな監視小屋で眠るなど聞いて呆れる」

「えっ?」

取っ手を引いてしまった時だった。

外にいた人物に腕を引かれて表へ出される。

「――――っな」
 
瞬時にして背後をとらわれ、後ろから腕で首を拘束された。

ヒヤリとした殺気を感じ、隣を見れば太い針のようなものが首に突きつけられている。

あまりに素早い動きに、拒絶反応が追いつかない。 


     
「騒ぐなよ。騒げば君の首を毒針で貫く。」
「っッ」
    
冷たい声で囁かれて、身の毛もよだつほどの恐怖を覚えた。今にも息が止まりそう。

歯音が鳴りそうなほどの緊張感の中、私の目の前には、また別の男性が立っていた。

ダンさんが着ている制服と同じ黒い軍服姿。帽子の形もシャツの色も同じ。

でも今私の目の前にいる男性は、センター分けの銀髪だ。細くも、美しい翡翠色の瞳がゆっくりと開眼する。

「悠長にダンが寝てるってほんとぉ? お前、ボクの適当な演技に騙されるとか下等にも程があるよ。」

「だ、誰ですか?!」
 
思わず声を出せば、背後の男性に耳たぶをかじられた。

信じがたい行為に肩が震える。

こんなこと、ストーカーにもされたことない!
     
「君、やたら甘い匂いがする。右耳一つ失くなってもいい?」

「あ…………」
 
耳たぶを舐められて、心臓が萎縮してしまう。
 
「キモいよグレコ。お前の人間の喰い方汚いんだよ。パーツごとに食い千切って並べてさ、マジ食欲失せるって。」
   
「すんません隊長。でもこの人間、やたら芳醇で香ばしい甘さが漂ってるし、ちょっと我慢できなかったです。」

「さて、お利口なグレコに戻ろうか。」
  
目の前の銀髪さんが、腰から銃を取り引き金を引く。そしてもう片方の手にも銃を持った。

銃口が私に向けられる。

でも背後にいる男性が喉を鳴らした。もしかしたら銀髪さんは、背後の彼を狙っているのかもしれない。

「嘘だよウソウソ。こうも動かない的を狙うとかボクの趣味じゃないしねえ。はは。」

銀髪さんが笑いながら引き金部分に指を入れ、くるくると銃を回した。

彼の耳も尖っている。ダンさんと同じ、ダンピール騎士団の人? でもダンさんよりもずっと恐怖を感じる。

「お前、さっき崖でダンに血を飲ませてたよねえ?」

「…………」 
    
「あのダンが? 女の血を飲むとかどうしちゃったんだろうねえ?」

それは怪我をしていたから、妥協で私の血を飲んだに過ぎない。

それよりも私、なんでこの人たちに脅されてるのだろう? そもそも騎士団ってなに? ファンタジー本で読んだような、人々を守る警察のような存在ではないのだろうか?

「あ、あのっ、お二人とも、ダンさんと同じダンピール騎士団の方なんですか……?」

「そうだよ? でもボクたちは第3部隊なんだよ。生易しい第2部隊とは違う。」

そういえばダンさんは第2部隊の隊長だと言っていた。騎士団の中でも細分化されているんだ。会社の部署のようなものなのかな。
 
「ところでお前、」
「ひャっッ」        
   
いつの間に距離を詰めたのか。銀髪の彼が間近で顔を覗き込んできてビックリした。

開眼した翡翠の細目が、まばたきもせずじっと私の瞳を射抜く。

「…………随分と……小汚いね。」 
  
「そ、そうですか……」

「え? なにホッとしてんの?」

「そ、そんなことありません……」

「ふうん。随分と唇はかさついてるし、」
        
ふと、銀髪の彼が私の服装をジロジロと見下す。

銃を喉元に突きつけられた。

そのまま腕で隠していたコートの開閉部を銃で広げられる。

怖くて、示唆する彼の行動に従うしかなかった。

コートの中の下着が顕になり、顔を赤くする暇もなく彼が大きく舌打ちをする。

「なんだよ。この人間の肉を喰らおうかと思ったけど殺せなくなったじゃん!」

「え、」

「ボクおっぱいのおっきい子めっちゃ好みじゃんね。」

「…………」   
 
「てかお前ヘンタイなの? コートの下、下着じゃん。ちょっと狂ってるの?」 
       
どうしよう、反応に戸惑う。

これはまた、特殊な痴漢の類かもしれない。思考が迷走する。
 
「やばいな。肌の色とかさ、ああ乳首の色までベビーピンクじゃん!」
「ひっッ"」 
 
ブラの上を指で捲られて確認される。
 
「隊長、おっぱい星人ですもんね。」
「うん!」
 
すごい。なんて素直な返事……。
  
背後に男性までもが身を乗り出してきた。2人の男性に、じっと胸ばかりを見つめられて硬直する。 

(ヘンタイにヘンタイだって言われちゃった……)  

とにかく、命を奪われるような危険は回避できたってことだろうか?

 
「おやおや、まさか第3部隊の隊長自らおでましとは。これはおもてなしをしないわけには参りませんね?」

後ろから声が聞こえた。

スキュラさんの声だ。

銀髪の彼が後方に視線をやり、「いつの間に」とつぶやいた。 
       
「ハル様、そこから離れてこちらへ。」
「は、はいっ」 
  
すでに背後の男性の拘束は解かれていた。

振り返れば、やたら前髪の長い金髪の男性だ。髪と髪の合間から見える瞳は、うつろに瞼が半分下りている。 
 
両手を軽く上げる金髪さんの後ろには、スキュラさんがいた。金髪さんのこめかみにナイフを突きつけている。
 
「スキュラさんっ!」

「ハル様、遅くなり申し訳ありません。ですが勝手に招かれざる客を招くのは感心致しません。」  

「ご、ごめんなさい……」  

スキュラさんの後ろに身を隠し、そっと前を覗いてみる。

でもその瞬間、銀髪の男性が構える銃が私に向けられた。
  
「ハル様下がって!!」  

パァンッッ"と銃の引き金が引かれる音が鳴り響く。

気付けば私はスキュラさんの温かい胸の中にいた。

私を庇おうと、咄嗟に抱きしめたらしい。

スキュラさんが膝から崩れ落ちていく。

「うッ"……」    
「スキュラさん?!!」

まさか本気で撃つなんて!
 
同じ騎士団なのに、なぜこんなことになっているのか――――

(どうしようっ、私のせいだ……。背中から血が流れて……!)

スキュラさんは足首も怪我したままだし、そうまでして私を守る義理なんてどこにもないのに。

無力な自分が不甲斐なさすぎる。

息も絶え絶えになるスキュラさんを前に、目の前が滲みかけた。
 
「ダンの犬、そのままじゃ出血多量で死ぬよ?」
  
「く、糞……」 

「さっさとその子で回復してみなよ。歪血、だっけ? 『歪血者えけつしゃ』かどうか確かめたいんだよ。」

「はい? 『歪血者』など何百年も昔に語られた神話に過ぎませんよ」
 
「グレコの視力を舐めるなよ? 見たんだよ、あれだけ怪我をしていたダンが、その子の血を飲んで回復するのを。」 

「ただの止血ですよ。」

「ただの止血かどうか今ここで確かめてあげる。」    
 
なんの話をしているのか。

『歪血者』? 人間のことを言っているのだろうか。

なんにせよ今はスキュラさんの治癒が先決だ。

「スキュラさんも私の血を飲めば怪我が治るんですか? それなら飲んで下さい!」

「……わ、わたしは、人間の血は飲んだことがありません。というか、人間の血など飲みたくもない」

「え?」

「分かりませんか? 私は人間に恨みがあるのです。だから人間の血など飲むに値しないのです。」

「そ、そんな……」  

「ハル様、あなたは少し自惚れていませんか? 自分が綺麗な存在だとでも思っているのですか?」
   
ずっと紳士だと思っていたスキュラさんが、初めて見せる顔。皮肉を紡ぐ彼の口からは血が吐き出された。

「スキュラさんっ!!」
 
彼の骨ばった背中をさする。

大きくて背が高くとも体全体が骨ばった作り。絶体絶命の状況だというのに、普段からちゃんとご飯を食べられているのかと心配になった。

ふと、地面に落ちたスキュラさんのナイフが目に入る。 

(これで自分の腕を切って、無理矢理飲んでもらえば……!)

でも全て見透かされていたのか、スキュラさんがギッと私を睨んだ。
 
「あ、あなたが、自分で血を流したとしても、私は断固として飲みません……。それくらい、私は人間が嫌いなのですから」 

それは優しさで言ってくれているものとは違う気がした。本当に、心から人間を憎んでいるような鋭い目。黒目がなくとも威圧感が伝わる。

自分もそれだけ嫌われていたのかと思うと気落ちする。
     
「ねえ、早く飲まなきゃもう一発ぶち込むよ?」
  
銀髪の彼が2丁の銃を構える。
  
(いやだ、スキュラさんが死んじゃう……!!)

無我夢中でスキュラさんを抱きしめた。

どうせ殺されるなら一緒に死んだほうがマシだ。
   
「な、なにを……! ハルさま……」

「いいです! 人間を嫌いなままでいいですよ! だって私はこんなにも非力なんだから……」
   
フワリと、スキュラさんの黒紫色の体毛が頬を撫でる。

怖くて悲しくて、でも一人で死なれるよりは全然いい。私の自己満足かもしれないけれど、ただ死んでいくのは見ていられない。

その時、耳元で声が囁かれた。
 
『ハル様、今ここであなたの血を飲めば、あなたの正体がバレて上層部に報告されてしまいます。ダン様には決してバレないようにと、』    

『しょ、正体?』

『嫌かもしれませんが、私の指を少し口に咥えていただけませんか?』

『それは、一体どういう、』
   
意味が分からずも、スキュラさんの中指が口に入れられる。

大きな指のせいか、一瞬えづきそうになった。でもすぐに口から抜かれて、スキュラさんがその指を自分で咥えた。

関節キスのようなやり取りについ顔を赤くする。

するとスキュラさんが微笑んだ。
 
「あなたは、私のような醜い幻獣でもそのような顔を見せてくれるのですね。」

「え?」

「どうかこのまま私から離れずに。

 『月下の無双突きルミナスピアレス――――』」
 

スキュラさんの声と共に、目の前がまばゆく光っている事に気がついた。

360度四方が黒く光った槍のようなものに囲まれている。

銀髪と金髪の彼らが、目を見張り、脚を後退させる。

「な、なにこれぇ?? は? その怪我でこれだけの魔力が残ってたのお前?!」

「普段よりダン様に鍛えられてますからね……これしきのこと、」

「フン、いいよ。グレコ帰るよ!」

その場から木に飛び乗った2人が、木々を伝いどこかへ行ってしまう。

黒い槍が砕け散るように消え、すぐにスキュラさんが私にもたれかかるようにして倒れた。

「な、なにが、どうなって……?!」

もう本当に訳が分からない。今の黒い槍はスキュラさんの魔法なの?  
 
とにかくスキュラさんを小屋の中に運ぼうと、腋に手を入れ引きずった。
      
 

 
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