【完】愛が重いNo.1ホストに追いかけられています

由汰のらん

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再会という名の災悪

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春闘しゅんとう大会当日。

「朝8時半に迎えに行くから、8時半にはトイレ済ませて部屋の鍵閉めてアパートの前で小石蹴りながら待っとけ★」と西條さいじょうさんに言われていた私。

でもあの人に家の場所を知られたら絶対溜まり場にされそうなので、少し離れたコンビニで待ち合わせしていた。はずなのに。

なぜか8時にうちまで来られた。早い。早いしうっとうしい。

しかも西條さんと野口さんの二人で来られて、うちに押し入られそうになるを阻止するのに30分かかった。予定通り8時30分に出発である。


「成世、朝マック食べる?」

助手席に座る野口さんの呼吸が乱れている。うちへの押し入り攻防で暴れた30歳が、マックの紙袋を渡してきた。

「バーベキュー前に、マックグリドル3つですか?中年太りとか気にしないんですか?」

「僕、食べても太らないもーん。」

(女の大敵。でも35歳を過ぎれば思い知るタイプ。) 

車中のマック臭がえげつない。

私が窓を開ける。西條さんが、「俺の車にマック臭をつけるな!」と、マックグリドルを片手に頬張った。
  
 

    
西城秀樹のアカペラをBGMに1時間以上走れば、本日の春闘大会会場であるグリーンバレーに着いた。

大人用アスレチックも楽しめるアクティビティが充実した施設。イチゴ狩りまで楽しめるのだ。


車を降りるなり、突然、西城さんが野口さんの肩を抱いた。
 
「おい見ろよ野口。マリア先輩の車にダークホースが乗ってる。」

「まじ??マリア先輩とコキンちゃんって仲いいの?!」

「知らん!でも初めてマリア先輩がいい仕事したと思える!」  
  

コキンちゃんとは、古今冬歌ふるいまとうかさん(25)のことである。同じ支店の別フロア、主に個人客のサポート対応で、若いながらにしてサポートセンターのリーダーとして活躍しているのだ。

それでいて見た目は天使なのだから、当然男性社員は放っておかない。華奢で白くて小さくて、唇はぽってりと目元の涙袋までピュアを極めている。今日もお団子ヘアだ。

マリア先輩のハイエースには、課長や他の社員も乗り合わせていた。ロケバス並のハイエース運転できるとか、マリア先輩、仕事以外では本当に有能。

西條さんと野口さんが、自然を装う足取りでマリア専用ハイエースの元まで歩いていく。コキンちゃんに話かけにいったはずの二人は、すぐに課長と課長代理に捕まっていた。

ああみえて西城さんは中学から付き合っている彼女持ち、野口さんも確か、彼女がいたはずだ。彼女と一緒の時は、極力「カ行」は喋らないと言っていた。「結婚」のワードを出さないために。

 
コキンちゃんは、マリア先輩の後をちょこちょことついて行っている。ちょっとだけジェラシー。無能なマリア先輩は、私の教育係だったのだ。

女子校みたいな嫉妬を頭の中で繰り広げていれば、女子力高めなフィガロが駐車場に入ってきた。

白とエメグリのミルキー色。私に女子力はなくとも、「あの車可愛いじゃない」という思考は持ち合わせている。

まだまだ空きの多い駐車場。にも関わらず、一番奥の遠い場所に泊まったフィガロ。

カップルかな、と遠目で見ていれば、中からは黒髪の、黒いTシャツに黒いチノパンを着たメガネの男が現れた。

私のレーダーがすかさず彼をロックオンする。アイツだ。社内報に載っていた販売士試験満点の男。七三倉晩(笑)

身長は高そうだが、私に負けず劣らずの地味な雰囲気で、味噌汁は小ネギだけでも十分味噌汁だと言いそうな青年だ。どう見ても名前負けしている。

コキンちゃんにはジェラシー、黒いメガネ男にはライバル意識。

私の脳内も、大概朝からハジケている。

  

屋内のBBQスペース。本日の春闘、組合員約80名が集まる中、西條さんがギャランドゥ並のイケボを響かせる。

「地方組合員の皆様!現場で交渉に当たられた組合員の皆様、そして現在進行形で交渉にあたっている皆様のご奮闘に感謝し、敬意を表します!本当にありがとうございます!
      
今後も賃上げの意思表示を団結して叫んでいきましょう!ギャランドゥ!間違えた!えいえい、オーーー!!」


西條さんの後に続き、やる気のない声がまばらに上がる。

野口さんが「よっ。令和の西城秀樹!」とフォローで繋いだ。この後に挨拶をする私の身にもなってほしい。

「では続きましてー、新しい組合員様から挨拶がございます。千葉支部営業3課の、成世秋奈様、お願いします!」

野口さんからマイクを受け取った私。野口さんには『笑顔笑顔。コラ。』と表情を指摘された。

十分私の心は笑顔です。 

「幕張地区組合員の皆様、初めまして。この度派遣より社員として新たなスタートを切ることとなりました、成世秋奈と申します。」

ポーカーフェイス。無表情。でも声はハキハキと。成世はこういった挨拶にも特に動揺することはない。

結婚式のスピーチは頼まれないけれど、AI音声の声真似には自信がある。抑揚のない成世のスピーチは、いつの時代かAIの代役として使われると信じている。 

むしろ、今は宣戦布告の場としてふさわしいではないか。

「“仕事は円滑に、ダサくとも結果が全て”をモットーに掲げる精神で、ALISSの業績は私に任せて頂ければと思う所存です。」

春闘の場で何を言っているのか。目の前に広がる社員たちの顔がそう言っている。話のスケールがでかい。でも面白い。いいぞ成世、もっとやれ。

挨拶とは、いかに自分の話に耳を傾けさせるかがポイントだ。

結婚式のスピーチで、長々と温和な文章を連ねるよりも、「今しがた上がった花火のように、お二人の愛が散らないことを祈ります!」と言った方が断然ウケがいい。
 

無感情な私の挨拶が終わり、野口さんにマイクを渡そうと差し出せば。後ろに控えていた男にマイクを奪われた。

野口さんが慌てて「成世さんありがとうございました!では次!次は……メガネ君からの挨拶です!」と地声で叫んだ。

そしてマイクを奪った張本人、うねる黒髪のメガネが、マイクを持ち、成世秋奈を見てこう言ったのだ。

「ALISSの業績は、この俺、七三倉と皆さんで着々と上げていきましょう。成世さんが勝手に一人で意気込んでもどうにもなりませーん。協調性がない上に話のスケールがでかすぎてドン引きでーす。」

どっと、会場内が湧き上がる。

私の時は皆失笑していたのに、今この男の挨拶は爆笑だ。

芸人並のステージを目指しているわけではないけれど、オーディエンスの反応は実直な結果の全てだ。

悔しくて、七三倉に睨みを利かせて。それからマイクをぶん取った私は、感情的なパンチラインをお見舞いする。
 
「地味と純朴さと営業成績では負けませんから!」  
 
七三倉晩。じっと、そのメガネの奥を見据えてやる。メガネグラスの向こうには、ヘーゼルイエローの瞳。私の視界が、何かを瞬間的に感じ取る。

――――な。

やだ。

嘘ー…………うそ。

野口さんのルールに従い、私も「カ行」の源氏名は絶対に言いたくない。とりあえず不意に視線を反らしーの、そこからまたチラリと彼の顔を覗き込む。

『ミ』『ウ』『さ』『ん』『。』

口パクで私の夜の名を口にする、夜の男。一気に心臓をつかみ上げられた気分。カツアゲするくらいなら上層部に賃上げ要求すべき。

黒黒しい恰好にトパーズがはめ込まれたDOLLのような姿。このようなレクリエーション広場でも人間味がない。

色々言いたい、ようで、やっぱり今すぐコメダに退避したい。でもとりあえずこれだけは言いたい。言わせてほしい。オレの話を聞け。

七三倉って何。

七三倉って名前なのに、なんで今日は髪型、七三じゃないの――――?

マイクを持つ手が震える。

周りから「いいぞ成世もっとやれ!!」などと野次が飛ばされる。

そして目の前の彼、七三倉晩には小声で囁かれた。


『地味と純朴?笑わせるなよNo.1さま。』


七三倉晩こと、キラ君が私を見下し口角を一気に吊り上げる。本性を現したな、魔界の帝王。 

あんたを笑わせる気はサラサラない。むしろ根っこから潰してやろうじゃないの。私の処女を買った男。

私の表情が久しく引きつった。

 
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