【完】愛が重いNo.1ホストに追いかけられています

由汰のらん

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K点越えの限界期

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次の日、といっても朝方の4時頃。
 
ベッドボードに置いていたスマホの振動音で起こされた。
でも寝ぼけているせいで、上手く画面上がタップできない。
 
ようやく点灯できたスマホ画面をみれば、茂道さんからの着信履歴と、ラインにメッセージが入っていた。


〈明日の夜、ヘルプ求む。22時にQUONに来られたし。by茂道〉

私が鋼でできた超人かなにかだと思っているのだろうか。残業が当たり前の営業職。昼間の正社員でいっぱいいっぱいだというのに、どう夜の仕事を手伝えというのか。

果し状のようなメッセージを見送り、再び眠りについた。明日っていつのことなのか、考えるのさえ億劫だ。

ああ。そういうキラ君は、どうやって仕事をこなしているのだろう?よく身体が持つなあ。
 

そんな疑問も眠りから覚めれば消え去っている。

「茂道さんから聞いた?今QUON大変らしいじゃん。」

私が今日の営業先に出向こうと、オフィスを出た時だった。

モンスターエナジーを片手に持つ七三倉が、客引きのように私に話しかけてきた。そこのコンビニでいつも七三倉が買っているエナジードリンクだ。


「ラインきたけど、突然手伝えって言われても、」

「なんだっけ。サヤちゃんネエにコマキちゃん?2人とも体調崩して休んでるらしいよ。」

「そうなの?」

「ミウさんのお客さん、2人が頑張って持ってたらしいからキャパオーバーで倒れたんじゃね?」

「…………」     


まるで、私のせいで2人が体調を崩したのだと言いたげだ。

確かに、自分の最後は淡白なものだったと思う。本来なら自分を指名してくれていたお客さんのためにも、感謝の意を込めて卒業パーティーをするものなのに。私は茂道さん以外、誰にも言わずに辞めてしまったのだから。

だって、本当にあの時は、絶対に戻らないと思って内緒で辞めたのだ。中には私のように一粒も未練を残さず辞める人だっている。
 

「でもまあ?成世サンにとってはどうでもいいことかもしんないけど?」

「そうね。」

「逆に、軽蔑するわ。俺らみたいな住人の世界を蔑んでるのかよってね。」

誰もそんなこと、ひと言も言っていないのに。
    
私が、なにしたっていうのだろうか。そこまで非道い悪行でも働いたとでも言いたいのだろうか?

なんでだろう。やっぱり最近の私って、全然上手くいっていないし、笑えていない。

なにか七三倉に言い返してやればいいのに、何も言葉が出てこなかった。

センチメンタル期に入りかけている。この間から旭陽のことを考えないようにしていたのに。

どうしても思い出してしまう。
  
わたし、もしかして。これまで頑張って1位を獲ってきたのに、全然笑えない人生だったんじゃないの。

  
「(生理前かな)」


世間の27歳って、もっと愉しいはずなんじゃない? 

    
今日最後の仕事は、私が最も苦手とする鵜之内科への訪問だ。前回本浪一斗に邪魔をされてから、なかなか連絡出来ずにいたが、上手く約束を取り付けることができた。

ただ夜の診療が終わってからのため、19時以降の訪問となってしまった。

待合室が無人になるのを外で待とうかと病院の中を覗こうとする。そのタイミングで自動ドアが開けば、本浪さんが出てくるところだった。

なんという偶然という名の最悪のタイミング。

「あ、こ、こんばんは。」

「こんばんは。失礼します。」

本浪さんの手には、ビジネスバッグの他に、和菓子で有名な老舗の紙袋が提げられている。

きっと院長に、受け取ってもらえなかったのだろう。 
 
「あ、あの、本浪さん!」

「はい?」

特に気落ちしている様子のない背中だったものの、なんとなく呼び止めてしまった。

「この間の、総合病院での本浪さんのプレゼン。綿密な上に、とても分かりやすくて、なんだか嫉妬してしまいました。」

「…………」      
  
「だから、私ももっと頑張ります!本浪さんも頑張ってください。」

 
不審に思われたことだろう。

負けた競合相手から、無表情で励ましの言葉を投げられたのだから。  
    
でも院長に追い払われても挑む本浪さんを、応援したくなってしまったのだ。なんとなく、私に似ているというのも要因の一つだったかもしれない。

「ええ。あなたに言われなくとも。」

なんとも可愛くない。実にかわいくない!

せっかく激冷の言葉を投げてやったというのに、私を見る目つきが鋭い。まるで私を突き放すような返され方をしてしまった。

やっぱり快く声をかけた自分は、間違っていたのかもしれない。
  
待合室から診察室に通されれば、院長は外来の疲れもあってか、今日も不機嫌だった。   

「君のとこの複合機ねえ、すぐに紙詰まり起こすし、目詰まりするしで製造工程がかなり雑なんじゃないの?」

私に製造ラインの話をされても困るけれど、この病院には恩がある。

何代か前の営業マンが飛び込みで、今月の数字をどうしても取らなければいけないと半ばしつこくせがんだらしい。

先代の院長が、突然の訪問にも関わらずその場で購入を決めてくれたのだそう。それからというもの、ここのOA機器や消耗品は全て当社で購入してもらっている。           


「どうせ海外の安い部品ばかり寄せ集めて組み合わせてるんでしょ?本体のコスト抑えるのもいいけどさ、多少高くてもいいもの作んないと意味ないよ?!」

「はい、ぜひ、勉強させて下さい。」


本日は挨拶も出来たし、菓子折りも受け取ってもらえたのだから良しとしよう。でも心の中はもやもや病で晴れず。

ようやく仕事が終わったと外に出れば、溝のあたりに見知った革製を見つけた。

拾ってみれば名刺入れだ。中身を確認すれば、やっぱり本浪さんのものだと確信する。


(今日は歩きで来てたはず。同じ駅から来たのかな。)

このまま走るよりも、本浪さんの名刺入れに入っていた名刺の番号に連絡した方が早いだろう。

そう思いながらも、駅の方へと走りながら電話をかけようとする。週末とあってか、夜の街は賑やかで溢れていた。

居酒屋のある通りを抜けていけば、途中で本浪さんらしき人物の背中を見つけて、思わず駆け寄った。

「本浪さん!」

「え、成世さん?!」

  
息が上がるのをどうにか落ち着かせようと、膝に手をつき整える。すると自分が今日はスカートだったことに今気がついた。院長に少しでも機嫌よく迎えてもらおうと、スカートで来てしまったのだ。

大股を広げて全力で走って、私は何をしているのか。        


「ハア。これ、本浪さんの、名刺入れ……」

「あ、ああ!わざわざ、走って来たんですか?」 

「はい。もしかして、この後も本浪さん、どこか取引先に行くと困るかと思って……」


曲げていた膝をゆっくり伸ばして、息を大きく吸いながら真っ直ぐに前を見据える。

本浪さんの向こうには

旭陽と、知らない女の人の姿があって――――
   
「ありがとうございます。でもそんなことで走る必要はないと思いますよ。連絡でもしてもらえればそれで良かったのに――――」


本浪さんの声が、遠のいていく。

旭陽と、ポニーテールを揺らす女の人が

手を繋いで駅前のホテルへと入っていく――――  


自分の両目に、その姿がじんわりと焼き付かれていく

焼印をぎゅっと押し当てられるような

きっと、そのくらい濃厚な背景が、目の前にあって


「――――成世さんっ?!!」

気がつけば、自分の目からは涙が流れていた。

本浪さんがなぜか慌てふためいている姿がぼやけて、その向こうには鮮明に旭陽の姿が見える。
 
「ちょ、まっ!うっ……いや。あああのっっ」

「っ、」 
 
私には、言ったじゃん。「そんなんじゃない」って、「そんなの、秋奈じゃない」って、言ったじゃん。    
  
自分だって彼氏がいる好きな人と、不純なことしてる癖に

なんで……わたしは受け入れてくれなかったの……

きっと旭陽は、わたしなんかよりもずっと純粋で

心と身体が比例するように、恋とセックスも比例しているんだろうね  

ねえ。なんでわたしって、こんなに人より劣ってるのかなあ


「成世さん!俺がキツイ言い方しちゃって、本当ごめんなさい!あの、とにかく。ですね。。」

「っっぅ」

「とにかく、ええと。なんだ?こういう時は、そうだ!甘いもの!!甘いものでも食べましょう!!」   
  

ただしゃくり上げながら泣き続ける私を、本浪さんがそっと誘導してくれる。

この賑やかな通りではあまりにも目立ちすぎると、裏道のカフェに連れて行ってくれた。

ああ、本当に我慢はよくない。ちゃんと甘えたい時は、誰かに甘えておかないと。電池が前触れなく切れてしまう。せっかくキラ君が迎えに来てくれたあの日、もっとかわいく縋っていれば良かったのだと今になって反省した。



 


 
  
  
      
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