【完】愛が重いNo.1ホストに追いかけられています

由汰のらん

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「あの、落ち着きましたか?」

「あびがどうございまず、本浪ざん。」

軒並み居酒屋オンタイムが並ぶ通りを抜けて、駅裏まで連れてこられた成世秋奈。とぼとぼと、まるで叱られた子供のように本浪さんの後をついて行った。

ご飯時にカフェを利用する人は少ないのか、お客さんは私達を含めて2組だった。

ひっそりと暖灯が灯るオシャンカフェで私に失恋話をさせようとするなんて、本浪さんてば鬼畜かもしれない。    


「本当に、すみませんでした。俺がきつい言い方しか出来ないばかりに、」

「違うんです、本浪さんのせいじゃありません。私、最近幼馴染に振られて、自分の不甲斐なさが嫌になっただけなんです。」

「お、おさななじみ、ですか。」

こんな話をされても困るだろうに。ライバル会社の人間に私は何を言っているのやら。

でも本浪さんは、真剣な表情で口を開いた。 

「なんというか、世の中のありとあらゆる2次元作品を恨みたくもなりますよね。」

「はい。私も幼馴染とは上手くいくフラグしかないと思っていましたから。」

「分かります。俺の友達に、親の再婚である日突然義理の妹ができたってやつがいるんです。」

「どこかで聞いたシチュエーションですね。」

「でもその義理の妹は、ジャイ子そっくりだったそうなんですよ。」

「やっぱり、2次元と3次元は別ものなんですね。心中お察しします。」    
  

ラフなゆるい私服姿のウェイターさんが、ケーキを運んできてくれた。適当に本浪さんが注文してくれたものだ。

テーブルにはミルクレープと黒胡麻ブリュレと青カビチーズスフレときな粉モンブランとチャイのポットとカフェモカが置かれた。  
          
「どれが好みか分からなかったので、ショーケースに並んでいたものを全部頼んでしまいました。」

「はい、嬉しいです。こういう大人買いをしてくれる本浪さんはいい男だと思います。」

2人で全部食べれる自信があるかないか、そんなことを考える暇があったら全部食べよう。そう心に決め第一投にミルクレープを口に運んだ。

「はあ。美味しい!こんなにおいひいミルクレープ、この先もう二度と味わえる気がしません!」

「未来、の話ですか。」

「はい!こんなに本浪さんの優しさが詰まったミルクレープはこれしかありません!今日が最初で最後ですから!」 

私が構わずぱくぱく食べ進めていると、目の前の本浪さんにじっと見つめられた。あ、もしかしてこのミルクレープ、本浪さんのものだったのだろうか?

「すみません、勝手にミルクレープ食べちゃって。」

「あ、いえ。違うんです。成世さんがあんまりにも美味しそうに食べるので。」

「え?そ、そうですか?」

「はい。なんというか、仕事の時とはまるで雰囲気が違いますよね。」

「え?」     

「今までは表情が強張っている感じがあったので。今みたいに表情豊かに食べているのを見て、なんだか安心したと言いますか。つい見入ってしまいました。」

「そ、そうですか…。」

本浪さんに言われて気付いた、今の自分の表情。

赤の他人である彼の前で、こんな失態を晒してしまったことが嘘のよう。自分の顔を確認したい。メイクが取れて非道い状態だろう。

でもライバルだと思っていた本浪さんとの壁が、一気に取り払われるような、ベルリンの壁感覚だ。

「と言っても、俺も表情はつい硬くなりがちで。」

「本浪さんって、なんとなくですけれど、女性が苦手だったりします?」

「えっ、なんで分かるんですか?」

「なんとなくです。鵜之内科の院長には必死なのに、受付の女性に対しては素っ気ない感じだったので。」

カフェモカのカップを置いた本浪さんが、私から視線を外す。熱かったのか、まだカフェモカは減っていない。

カップの取っ手を持つ指がマドラーを取って、ゆっくりとカフェモカをかき回す。この沈黙の間から、どこか躊躇う様子がうかがえる。

「実は、昔バイト先で接客してる最中に何度か言い寄られることがありまして。気味が悪いっていったら失礼ですけど、女性特有の纏わりつくような空気にいい印象を持てなくって。」

「本浪さん、女性にモテそうですもんね。誠実そうなイメージが強いですし。」

「でも無愛想だし、変に真面目だし、何がいいんだか。」

「そこがいいんですよ。チャラくなさそうなところ?っていうんですかね。」    
  
「はあ。でも、やっぱり女性は苦手です。」   

チャラくなさそう、というよりも、女性に興味のなさそうな男性客がキャバクラに来ることはたまにあった。

会社の上司や先輩に、少しでも克服させようと無理やり連れてこられてしまった男性客は少なくない。だからなんとなく本浪さんのことも分かってしまった。

しかしながら今私を慰めてくれている本浪さんは、割と私に対して拒絶反応がない。それはきっと私を女性としてみていないからなのだろう。

同業のライバルとして、同じ土俵に立つ者同士として認識してくれているというのは嬉しいことである。本浪さんの前で泣いてしまったのは不覚だったけれどね。

   
「あの、そういえば本浪さんと七三倉はどういう関係だったんですか?友達、だったんですよね?」

私が3つ目のケーキに手をつければ、本浪さんがお水のおかわりを頼んでくれた。

無意識に3つ目に手をつけてしまった罪悪感に「あ、」と声を発すれば、本浪さんに「どうぞどうぞ」と快く促された。

「まあ、そうですね。実は七三倉とはそのバイト先で出会ったんですけど、色々あって。今は連絡を取っていないんです。」

「そう、だったんですか。それって、どんなバイトだったんです?」

「それは内緒です。」
     
内緒なんだ。

だからさ、余計に気になるんだって。 

私が4つ目のケーキを見つめれば、本浪さんに、「全部成世さんのために頼んだものですのでどうぞ。」と言われて食べた。

幼馴染に失恋をしたその日の夕飯は、ケーキ4つとなった。甘いものが沢山補給できて大満足だ。でも七三倉と本浪さんの関係が不透明なのにはちょっぴり不服。

とは言っても本浪さんはお腹を空かせていることだと思う。あまり長くなってはいけないと、改めてお礼を伝えた。

お会計のカウンターで、本浪さんがお金を払ってくれる。でもどう考えたって今日のことは、私が迷惑をかけただけだ。

外に出て、お金を返そうとお財布を取り出せば、自分の名刺入れが落ちてしまった。

「あ、落ちましたよ。」

「すみません、ありがとうございます。」

名刺入れを手渡された私が、カフェ代のお金を差し出す。

お金を受け取らない本浪さんは、なぜか名刺入れを持つ手を離してくれない。

指の牽引力が強い。
      
「前も思ったんですけど、成世さんの名刺入れって味があっていいですよね。」

「そうですかね?むしろ古臭いしヨレヨレですけど。」
  
まさか、お婆ちゃんの形見の名刺入れを褒めてもらえると思わず、嬉しいのと恥ずかしいのとで、いい感じに感情がシェイクされる。本浪さんの株が現在爆上がり傾向にある。

なんせ七三倉にはバカにされたのだから。お世辞だとしても嬉しい。七三倉の株は大暴落だ。


「あの、お金はいらないんで、良ければ名刺入れを交換してもらえませんか?」

「へっ?」
  
「あ、嫌ならいいんです。成世さんにとって大事なものかもしれませんし。」

「い、いえ。嫌というわけでは。むしろこんな古臭いものもらってもゴミになるだけじゃありませんか?」

「ゴミだなんてとんでもない。ヴィンテージものが好きなんですよ、俺。」  

本浪さんは本当にヴィンテージものが好きなのかもしれないし、ただ私に気を遣って言ってくれているだけなのかもしれない。

でもお金を受け取ってもらえないなら、せめて何かを受け取ってほしい。だから自分の名刺入れの中から名刺を取り出し、空になった名刺入れを本浪さんに渡した。
  
「こんなもので良ければ、いいですよ。どうぞ!」

すると本浪さんも自分の名刺入れを取り出し、中身を空にして渡してきた。

「ありがとうございます。俺のはこんな普通のやつですけど、」

「いえいえ。」  

こんなビジネスアイテムの物々交換は前代未聞。やっぱり本浪さんって、ただ仕事に熱い男なだけじゃなく、ポテンシャルの高い人間じゃないだろうか。

だって、お婆ちゃんのジンクスから私を引きずり出してくれたのだから。

勢いで手放してしまえば、意外と清々しいものなのだ。
      

駅で別れて電車に乗り込めば、まだ帰宅時間ではないのか、座れる席が空いている。窓際では部活帰りの高校生らが、「こいつ彼女にフられてさあ~」と軽く人の失恋を公言していた。

でもその軽さが、なんだか悪いことには思えず。今の私にはそれくらいがちょうどいいのだろうと感じた。 

端のほうに座り、本浪さんと交換した名刺入れを取り出してみる。表面はダークブルーなのに、中身はキャメル色で可愛い。

そして本浪さん、ポテンシャル高いというよりも、うっかりさんなのかもしれない。

自分の名刺は全て取り出されているのに、上側には取引先の名刺がいくつか入っている。

(取引先の名刺がないとまずいのでは?)

連絡しようにも、本浪さんの名刺は誰かさんに破られてしまったことを思い出す。どうしたものかしら。
 




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