14 / 45
13 アリーシャ視点
しおりを挟む
パーティーの次の日、私は酷い二日酔いで昼まで起き上がれなかった。お酒をあんなに飲んだのは初めてで、お義兄様が隣にいてくれて良かったと思った。
「私達は結ばれないのかしら…」
自分が呟いた言葉に、心臓を深く抉られた気がした。親が決めた婚約、それが私の前に立ち塞がっていて越えられない。
「愛してるよ、なんて…信じちゃいけなかったの…?」
姿を見れば嬉しくなって、声を聞いて、視線を合わせば熱に浮かされるみたいになる。
「私にくれたプレゼントも…ただの遊びの延長線?」
箱を開ければキラキラと輝く宝石が、センスのいいデザインに行儀よく座っている。
「でも…これは特別だって…だから大丈夫だって…信じて…待っていたのに…」
わかっている。
本当はちゃんとわかっているの。
婚約者がいる人を好きになっちゃいけないって。
「こんなに好きになっちゃって…私はどうすればいいの…」
涙が頬を伝う。窓の外を見れば、雨が降り出していた。ザァザァと窓に当たる水滴が流れるのを眺めながら、私の想いも一緒に流れたら良いのにと思った。
「この雨に当たれば、全て流してくれないかしら」
気付けば窓に近寄って、暗い空を見つめる。次第に強くなって来た雨は、庭園の花に潤いを与えるのだろう。
「私の潤いは何なのかしらね」
報われない、禁じられた恋。
叶う事がなくても良いと思えていた。でも、それでも。
目が合うたび恋をして、人目を忍んで話をするたび愛が生まれた。
「…無理な事はわかっていたのにね…」
私は庭園の花に目を移した。綺麗に咲いて、人知れず枯れるその花に自分の想いを重ねてしまった。
「お姉様の庭園は綺麗な花がいつも咲くわね……え…?」
ふとお姉様がお世話をしている薔薇園を見たら、激しく降る雨の中に立ち尽くす人が見えた。誰かしら、雨でよく見えないけれど…不審者かしら…。
「誰かしら……え!?」
鈍く光るあの色は、まさか。
私は慌てて部屋を出た。
そこに立ち尽くしているのは、お義兄様だった。
「お義兄様!!!」
私は傘を持ち、ドレスが汚れるのも構わず走った。
どうしたの、今日はお姉様とランチだったはず。
こんな雨の中…風邪でも引いたら…!
「お義兄様!!?……っ!?」
お義兄様の所にたどり着いた私は、その顔を見た瞬間に言葉を失った。
お義兄様はずぶ濡れになったまま、呆然と空いた椅子を見ている。料理は雨でぐしゃぐしゃになっていた。お義兄様を改めて見ると目に生気は無く、薄く開いた口からは「ティアラ…」と囁くような声が聞こえた。
「お義兄様!?どうしたの!?お義兄様!?」
「……嫌だ……俺……」
「お義兄様!?お姉様はどうしたの!?ねぇったら!!」
「……ティ……行かな……」
「ん、もう!!!しっかりしなさいよ!!!」
ばちん!!!私はずぶ濡れになりながら、譫言を繰り返すお義兄様の頬を力一杯叩いた。
ぐらり、とお義兄様の身体が揺れて、ばしゃんとその場に尻餅をつく。
「お姉様はどうしたの!!」
「あ…アリーシャ…ティアラ…ティアラが……」
「お姉様が!?」
「こ、婚約を解消したいって……俺…」
「はぁ!?何でそうなるのよ!!!」
ぶるぶると震えているお義兄様は寒いのか、それともショックで震えているのか。ただ、どちらにせよいつもの頼りになるお義兄様はどこにもいなかった。
怯えて、現実を受け入れられないような、そんな感じだ。
「…中に入りましょう、このままじゃいけないわ」
座り込んだまま魂が抜けたようなお義兄様を半ば引きずるようにして、屋敷の近くまで来た時使用人が気付いて手を貸してくれた。
「とりあえずお義兄様をお風呂に。私もお風呂に入るわ、ずぶ濡れだから」
「お、お嬢様!!きゃあっ!!大変!!」
侍女のリナが顔を真っ青にして私を浴室に連れて行く。びしょ濡れのドレスを脱がし、温かい湯に浸けられた。
「どうされたんですか、お嬢様。リュダール様もずぶ濡れで」
「ねぇ、お姉様は?」
「え?ティアラお嬢様は少し前に、お出掛けになりましたよ?」
「…え?」
ぞわり、と嫌な感じがした。温かい湯に浸かっているのにまるで冬の池に落ちたみたいに身体が冷えて行く。
「私…この感覚…どこかで…」
いけない、と直感的に思った。
私は、人生の中でこの時ほど慌てて浴室から飛び出した事はない。
「私達は結ばれないのかしら…」
自分が呟いた言葉に、心臓を深く抉られた気がした。親が決めた婚約、それが私の前に立ち塞がっていて越えられない。
「愛してるよ、なんて…信じちゃいけなかったの…?」
姿を見れば嬉しくなって、声を聞いて、視線を合わせば熱に浮かされるみたいになる。
「私にくれたプレゼントも…ただの遊びの延長線?」
箱を開ければキラキラと輝く宝石が、センスのいいデザインに行儀よく座っている。
「でも…これは特別だって…だから大丈夫だって…信じて…待っていたのに…」
わかっている。
本当はちゃんとわかっているの。
婚約者がいる人を好きになっちゃいけないって。
「こんなに好きになっちゃって…私はどうすればいいの…」
涙が頬を伝う。窓の外を見れば、雨が降り出していた。ザァザァと窓に当たる水滴が流れるのを眺めながら、私の想いも一緒に流れたら良いのにと思った。
「この雨に当たれば、全て流してくれないかしら」
気付けば窓に近寄って、暗い空を見つめる。次第に強くなって来た雨は、庭園の花に潤いを与えるのだろう。
「私の潤いは何なのかしらね」
報われない、禁じられた恋。
叶う事がなくても良いと思えていた。でも、それでも。
目が合うたび恋をして、人目を忍んで話をするたび愛が生まれた。
「…無理な事はわかっていたのにね…」
私は庭園の花に目を移した。綺麗に咲いて、人知れず枯れるその花に自分の想いを重ねてしまった。
「お姉様の庭園は綺麗な花がいつも咲くわね……え…?」
ふとお姉様がお世話をしている薔薇園を見たら、激しく降る雨の中に立ち尽くす人が見えた。誰かしら、雨でよく見えないけれど…不審者かしら…。
「誰かしら……え!?」
鈍く光るあの色は、まさか。
私は慌てて部屋を出た。
そこに立ち尽くしているのは、お義兄様だった。
「お義兄様!!!」
私は傘を持ち、ドレスが汚れるのも構わず走った。
どうしたの、今日はお姉様とランチだったはず。
こんな雨の中…風邪でも引いたら…!
「お義兄様!!?……っ!?」
お義兄様の所にたどり着いた私は、その顔を見た瞬間に言葉を失った。
お義兄様はずぶ濡れになったまま、呆然と空いた椅子を見ている。料理は雨でぐしゃぐしゃになっていた。お義兄様を改めて見ると目に生気は無く、薄く開いた口からは「ティアラ…」と囁くような声が聞こえた。
「お義兄様!?どうしたの!?お義兄様!?」
「……嫌だ……俺……」
「お義兄様!?お姉様はどうしたの!?ねぇったら!!」
「……ティ……行かな……」
「ん、もう!!!しっかりしなさいよ!!!」
ばちん!!!私はずぶ濡れになりながら、譫言を繰り返すお義兄様の頬を力一杯叩いた。
ぐらり、とお義兄様の身体が揺れて、ばしゃんとその場に尻餅をつく。
「お姉様はどうしたの!!」
「あ…アリーシャ…ティアラ…ティアラが……」
「お姉様が!?」
「こ、婚約を解消したいって……俺…」
「はぁ!?何でそうなるのよ!!!」
ぶるぶると震えているお義兄様は寒いのか、それともショックで震えているのか。ただ、どちらにせよいつもの頼りになるお義兄様はどこにもいなかった。
怯えて、現実を受け入れられないような、そんな感じだ。
「…中に入りましょう、このままじゃいけないわ」
座り込んだまま魂が抜けたようなお義兄様を半ば引きずるようにして、屋敷の近くまで来た時使用人が気付いて手を貸してくれた。
「とりあえずお義兄様をお風呂に。私もお風呂に入るわ、ずぶ濡れだから」
「お、お嬢様!!きゃあっ!!大変!!」
侍女のリナが顔を真っ青にして私を浴室に連れて行く。びしょ濡れのドレスを脱がし、温かい湯に浸けられた。
「どうされたんですか、お嬢様。リュダール様もずぶ濡れで」
「ねぇ、お姉様は?」
「え?ティアラお嬢様は少し前に、お出掛けになりましたよ?」
「…え?」
ぞわり、と嫌な感じがした。温かい湯に浸かっているのにまるで冬の池に落ちたみたいに身体が冷えて行く。
「私…この感覚…どこかで…」
いけない、と直感的に思った。
私は、人生の中でこの時ほど慌てて浴室から飛び出した事はない。
2,698
あなたにおすすめの小説
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
〖完結〗婚約者の私より幼馴染みが大切なあなたを、捨てようと思います。
藍川みいな
恋愛
婚約者のハリソン様は、私を愛していない。それどころか、お金を出す道具としか思っていなかった。会いに来るのは、お金が必要な時だけ。
お金を借りに来る理由は毎回同じで、幼馴染みのマーシャさんの体調が悪いと言ってくる。2年間も同じことを繰り返して来たのだから、いい加減うんざりだ。
私は彼と別れる決心をした。2人には、今まで私を利用して来たことを後悔させてあげる。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全12話で完結になります。
誤字報告ありがとうございます!承認不要との事でしたので、こちらでお礼を言わせていただきます。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。
藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。
5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。
アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。
だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。
ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。
精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ!
と、アンソニーはジョアンナを捨てた。
その結果は、すぐに思い知る事になる。
設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。
全10話で完結になります。
(番外編1話追加)
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
〖完結〗旦那様は私よりも愛人を選ぶそうです。
藍川みいな
恋愛
愛していると言った旦那様は、結婚して3年が経ったある日、愛人を連れて来ました。
旦那様が愛していたのは、私ではなく、聖女の力だったようです。3年間平和だった事から、私の力など必要ないと勘違いされたようで…
「もうお前は必要ない。出て行け。」と、言われたので出ていきます。
私がいなくなったら結界は消滅してしまいますけど、大丈夫なのですよね? それならば、二度と私を頼らないでください!
シャーロットの力のおかげで、子爵から伯爵になれたのに、あっけなく捨てるルーク。
結界が消滅しそうになり、街が魔物に囲まれた事でルークはシャーロットを連れ戻そうとするが…
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる