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「…じゃあ、あれかい?ポンコツは馬鹿娘に協力してただけってことかい?」
「…多分、そうです」
「で、ティアラが思う馬鹿娘の相手はあの坊やって事だね?」
「おそらく…」
「はー!!!馬鹿が揃うと碌でもないねぇ…」


 お祖母様は呆れたように空を仰いだ。
 私も深い溜息をつく。
 とんでも発想についていけない。



「でも、その方には既に婚約者がいらっしゃるじゃないですか…それが一番問題で…」
「昔から破綻はしてたけどねぇ。好き嫌い以前の問題で、水と油なんだよ」
「…ですよねぇ…」


 私もパーティーで見るたびに苦笑するほどの殺伐とした雰囲気だった。お互いに合わさない目、業務的な会話。政略結婚とはいえ、あまりにも相性が悪すぎる二人。


「だからって…解消したわけでもないのに、アリーシャに…その後の事がわからないわけでもないでしょうに…」
「恋は盲目とは言え、浅はか…いや、もう能無しだねぇ」
「そうですわね…婚約者がいながら不貞を…ただのクズじゃありませんか…」
「お、ティアラ、小さい頃に戻ったみたいだね」


 お祖母様はにこにこと懐かしそうに笑う。つられて私も笑ってしまうが、小さい頃って何だろう?


「あの、小さい頃の私とは…」
「あぁ、覚えてないか。ティアラは割と意見をはっきりいうタイプの子だったんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そう、ただ、あれを境に一歩引いてしまうようになった」
「あれ?」


 あれとは?うーん、覚えてないわ。
 首を傾げてお祖母様を見たら、「あれは…」と話し出す。


「池にアリーシャが落ちた時にね…」
「蛙の話ですか?」
「そうそう、それだよ。アリーシャとリュダールが危ない目に合って、リュダールが怪我をしたのは自分が止めたせいだって大泣きしてね」
「え?お父様は私が怒ったと言っていました」


 それで、二人を避けたんだと。でもお祖母様は私が泣いたと言っている。どうしてかしら。


「怒ってここに来たんだよ、ティアラだけ。最初は二人なんて知らない!って言ってたけど、だんだん元気がなくなって。どうしたのか聞いたら、泣き出してね。自分が止めなきゃ三人で行って、アリーシャが池に落ちる事もリュダールが怪我する事もなかったのにって」
「あぁ…」


 確かに、そうかも。アリーシャの動きは予測出来なかったから、三人ならまだマシだったかもね。


「それから、ティアラはあまり自分を出さなくなった」
「え…」
「後悔して、反省したんだろうね。それからは常に三人が楽しめるように考えて行動してた」
「まぁ…何て苦労性な…」


 自分の事だが笑ってしまう。小さな子供が頑張ったんだな、と褒めてあげたくなるわ。


「そんな子供の時から苦労してるんだから、今くらいは好きにやればいい。我慢なんてこれからしなきゃいけない事ばかりだから」
「ふふ…はい」


 お祖母様は優しく私の頭を撫でてくれた。
 それがくすぐったくもあり、嬉しかった。


「なのに、あの二人はいつまでも子供気取りで困ったね」
「そうですね」
「さぁ、何をしてやろうか?」
「そうですねぇ…とりあえず、遠慮はしないで私の気持ちを全て出し切ろうかと」
「ほぅ、そりゃ良いね。今までの溜まった物を吐き出してしまいな!」


 お祖母様は物凄く悪い顔でにやりと笑った。
 この表情のお祖母様には、逆らってはいけない、絶対。


 私は色々と考えていた計画を一旦、白紙に戻そうと思っていた。みんなの事を除外して、自分がどうしたいかを考えた時。


 その場でしたいようにしてみるのも良いんじゃないかって。


「その後がどうなろうが知った事じゃないわ」


 お祖母様が嬉しそうに笑った。
 モニカも力強く頷いてくれた。


 それが、何よりも自分の自信になった。


「お祖母様、モニカ、本当にありがとうございます」
「目に入れても痛くない孫だ、当たり前だよ」
「お嬢様、ガツンと言ってやりましょう!!私の分も上乗せして下さい!!」
「それ凄い量にならない!?」
「溜まりに溜まってえらい量ですよ!」


 モニカの中には蓄積されたナニかが渦巻いているらしい。たまに呪詛みたいにぶつぶつ言っていたけど…。


「私の代わりにいつも怒ってくれていたものね、ありがとう。モニカがいてくれて良かった」
「お嬢様……」


 私はみんなに愛されているんだな、と改めて知る。結局の所、あの二人が腹立たしいのには変わりがないが憎みは出来ないのだ。


 血の繋がった可愛いアリーシャ、未だに思い出しては切なくなるリュダール。


 切り離す事は、出来ない。


 でも、だからこそ。


 私だって手は抜かないわ。






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