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カップリング
ほしまふが書きたい
しおりを挟む女たらし×人間嫌い
生徒会
ーーー
(真冬side)
やけに馴れ馴れしい先輩が嫌いだ。
「真冬、あんまり頑張りすぎないでくださいね、たまには休憩もして下さい。」
あの綺麗な黒髪の先輩のように優しくもない、
「もう大丈夫だ、…怖かったな、真冬」
あの大きくて短髪の先輩のように災害から守ってくれもしない、
「真冬みたいな子と絡むのは初めてだから、上手く距離が掴めないかもだけど、生徒会長さんに免じて許してくれる?」
あの生徒会長を唯一の個性にしている赤目の先輩のように上手く付き合う努力もしない、
「ね、真冬、ボクが真冬と、ずっと一緒にいてあげるからね」
あの友達のように、自分が好きな言葉を投げかけてもくれない、
そんな先輩が嫌いで苦手で、それなのに突き放せないのだ。
ーーー
瞬先輩みたいに
ーーー
「まーふゆっ、何やってんの?」
放課後の生徒会室。
「……」
「あ、ちょっと星奈先輩、真冬にちょっかいかけるのやめてください」
今日はちょっと忙しい日。
李世と一緒に仕事をしていると、星奈が来た。
「はいはーい、じゃ、星奈さんは女の子達に電話でもしてきますねー」
そう言ってテラスに出て、電話を始める。
…………本当に、他校から何しに来てるんだろう。
特に「お疲れ」とか「頑張ってるね」などの労いすらなく、まぁそれは女の扱いが上手い星奈が出来ないわけない事なので、
やっぱり自分は対象にならない男だからとか、だからおとす必要もない、労いの言葉すら必要ない、そう思われているんだと思った。
「……」
まぁ言う程こちらもそっちには期待していない。
無表情を貫き、仕事を再開した。
ーーー
いくらやっても終わる気配のない仕事量に、僕だけじゃなく李世にも疲れが見える。
それに向こうで仕事をしている生徒会長達も、なんだか疲れでイライラし始めている気がする。
そんな中、電話を終えたのか星奈が中に戻ってきた。
生徒会長がこういう時「ちょっと、女の匂いがするから入ってこないでよ」なんて言って、それに対して「電話してただけだよ?!」なんて、星奈が言うんだろうけど、
「…………はぁ………」
僕達の中でも一番仕事の多い生徒会長は、そんな事を言う余裕もなくため息をついていた。
「………」
そんな僕達を見て、星奈は、
「………!」ビク
「なんのお仕事?…あー、文化祭ね」
僕がやっていた仕事のプリントを一枚取って、見ていた。
「………」じ……
「で、何すればいいの?俺は」
………え
「…何って、星奈先輩手伝ってくれるんですかー?」
「別にー、ちょっとキョーミあるだけ?」
興味あるって………どういうこと、
「文化祭のポスター案を見てるんです、本当は行事委員に回す仕事なんですけどね、あんまり活動出来る人がいないみたいで」
…………なるほど。
「それなら星奈さんにも出来そうかな、どんな案があるのか見てみたかったんだよね~」
「……ぇ、あの」
そう言って僕の向かいに座り、案を色々見ていた。
「……ほら、これとかいいと思うよ、テーマ…にも合ってるみたいだし、綺麗な色使いだ」
…………確かにその案は僕も良いと思って候補に入れていた。
「……」
「…じゃあそれも候補に入れておきましょうね!次は~……」
ーーー
外が真っ暗になってきた頃、ようやく一通り終わった。
「はー…疲れましたぁ……でもっ、星奈先輩がテキパキやってくれたお陰で何とかまとまりましたね!」
「俺はどんな絵があるのかなって邪魔してただけー、…純也達の方もどう?」
そっちも何とか別の仕事だけど終わっていた。
「……星奈先輩、手伝ってくださってありがとうございました。ほら、真冬も!」
「……!」
あんまりこの人にお礼とか、言いたくないんだけど、
「……」ペコ
「もー、真冬……」
「あはは、お礼って受け取っておくねー」
…………まあ、仕方ない。
「李世、真冬、お疲れ様です。お菓子を買っておいたので、良かったら2人でどうぞ」
「瞬先輩~!!ありがとうございます!!」
やっぱり、こっちの先輩は優しい。
「……」ぐうぅ……
「お腹空いたね~、真冬、夜ご飯大丈夫なら一緒に食べよ!」
「……うん」
その後皆でお菓子食べた。
ーーー
二階堂先輩みたいに
ーーー
※災害要素あり 2020年のお話なのでパラレルです
夏休み中、文化祭の1週間前。
「大分出来てきたね~真冬!」
「……」コク
とりあえずクラスの出し物は大丈夫そう。
「ボク達生徒会行ってくるね!」
「おー、…って待ってお前らがいなくなったら癒しg」
李世と3階への階段を昇って生徒会室に入った。
「…お、お疲れ、そっちも順調みたいだね」
「お疲れ様です…っ!はい!いい感じです!」
李世がいると何でも答えてくれるから助かる。
「…ふふ、さて…こっちも仕事、いっぱいやってもらおうかな?」
「もう嫌です…………」
最近…休めてない。
「李世、申し訳ないんですけどこっちを手伝っていただけませんか?」
「瞬先輩!はい!力仕事以外ならお任せ下さいっ!」
「真冬…、その、書記の方に仕事が回っててな」
「……」
李世は瞬先輩のところ、僕は二階堂のところ。
そんな立ち位置で仕事をして、しばらくすると部屋の扉が開いた。
「こんにちはー☆夏休みでも現れる☆皆大好き星奈さんだよっ☆」
……☆は3個もいらない。
「星奈、早く出ていくか雑用全部押し付けられるのどっちか選んで」
「どっちもいやでーす笑……そんなことより、すごい進んだねー、東高も!」
そうにこにこしながら話す星奈は、ここまで来る途中準備を進める人混みに同化しながら進み具合を見に来たのだろう。
「まぁ俺らも負けてないよー、なんてったって俺のクラスの出し物は女装メイド喫茶!誰にも「その話詳しく!!!」…李世はそういうの好きだねぇ」
「真冬も好きですよぉ」…って、そうだけど巻き込まないで欲しい。
なんて思っていた、次の瞬間。
「……?」
カタカタと音が聞こえて、足元で揺れを感じた。
「……ッ!」
「あれ…地震…?揺れてないですか?」
李世もそれに気付いて、また次の瞬間全員のスマホが鳴った。
『地震です 地震です』
そのアラームと同時に、揺れも強くなってくる。
「やば…ッ、皆、机の下とかに隠れて!」
西原先輩はそう言うけど、揺れの強さに歩くことすらままならなかった。
「っやだ…、怖いです、」
李世の不安そうな声でさらに不安が増してしまう。
…………それに僕は、
『逃げろ!!早く高台まで逃げるんだ!!!』
『嘘!?もうあんなところまで…………』
これに対して、酷いトラウマがあった。
「李世、瞬、こっち!俺の手掴んで」
窓の近くにいた2人を真っ先に机の下に避難させる先輩。
1分以上の長い揺れで、動くことも出来ず怯えていたら、
「「……」」
西原先輩と二階堂先輩がアイコンタクトのようなものをして、それからいきなり先輩が僕を覆うように庇った。
「……せんぱい…?」
「真冬…大丈夫だ、また怖い思いなんてさせない、安心しろ」
…………また、なんて。
(覚えてるんだ、9年前のこと。)
あの日、この人は僕を助けてくれた。
「…ちょっと星奈、何してんのお前も机の下に、」
「机3つしかないのに俺が優先されるわけにいかないでしょ、こっちは大丈夫だから純也が入りなよ」
そう言って本棚などを抑える星奈先輩。
「本当なら俺が抑えた方がいいんだろうな…悪い、星奈」
「…ん、なんも悪くないよー?」
収まっては来たもののまだ揺れが続いている中、へらへら笑う星奈を見て、少し恐ろしさすら感じた。
…………そしてようやく、揺れが止まった。
「…………はぁ…はぁ、」
「…はぁ…怖かったです……」
落ち着いた後、星奈がスマホを確認する。
「……震度5弱かぁ、ちょっと大きかったね」
「大きいし長いし、…これは下は大変な事になってるよねぇ」
二階堂先輩が僕から離れて、「怪我は無いか?」って心配してきた。
大丈夫と首を振って、そのまま床にしゃがみこむ。
「…!真冬!?大丈夫か?!」
「……」コクン
……なんて、あまり大丈夫じゃないけど。
「とりあえず俺とりゅーきで下の様子見てくるよ、瞬と星奈で後輩のメンタルケアお願いね」
「はい、分かりました…!」
「おっけー」
先輩2人が出て行って、4人だけになった。
「…李世、真冬!もう大丈夫ですよ、怖い事なんてありません!」
「そうだね、…あ、とりあえずバラバラになってないで固まろ?そっちの方が安心だし」
僕の周りに集まった。
「ねぇ李世、李世達のクラスって出し物は何するの?」
「展示です!だから当日は結構自由でー……」
「羨ましいです、僕のクラスは教室常駐なので…………」
会話には混ざらず、トラウマを一旦忘れようと必死になっていた。
……まぁ、いつも通りの無表情だったから周りには分からないだろうけど。
でも何となく察されているのか、単に元から喋らないからそういうものだと思われているのか、多分後者で無理に会話に混ぜさせられるような事はなかった。
「……」
2人とも気を紛らわせる為の会話に夢中になって少しの変化にも気付かなくなりそうだった、そんな時、
「……!」
ふと、背中の上あたりと頭に違和感を感じた。
(ぇ……なんで、)
まるで安心させるかのように優しい手つきで、星奈に頭を撫でられていた。
ふとそっちを見ても目が合わないのはきっと、李世達に見つかりやすくなるのを防ぐ為。
だって李世にそんなのが見つかったら僕が怒るから、なんて思ってるんだろう。
…………けどそんな素っ気なさと優しさが、この時の僕には酷く安心できた。
不思議と、恐怖も無くなっていた。
「…………星奈先輩、真冬にセクハラするのやめてもらえます?」
「えっ」
でも李世にすぐバレた。
ーーー
西原先輩みたいに
ーーー
文化祭当日。
地震の影響はあったけど、なんとか予定通り出来た。
「へぇ…そういう先輩はデートですかぁ?」
「な…ッ!、ちが、そんなんじゃ」
海斗先輩達で遊んだ後は西原先輩。
「西原先輩っ、何事も無くて良かったですね!」
「そうだねぇ、李世達が頑張ってくれたお陰だよ、…真冬も、ありがとね。」
……こっちにまで声を掛けられるとは思わなかった。
「………」ペコ
「……!ふふ、じゃあ楽しんでおいで」
先輩が僕を見る時ちょっとだけ表情を変えたのに気付いた。
(気を使ってくれてるんだろうな……)
あの人の他の人への対応と僕への対応はまるで違う。
僕みたいな人に出会った事がないから、難しいのだろう。
西原先輩と別れた後、
「やっほー後輩達」
また知ってる人にあった。
「星奈先輩!おはよーございますっ!」
「おはよー李世、ね、2人とも、瞬見なかった?一緒にまわる約束してたんだけど」
まだ見ていない。それは李世も同じだったようで、
「まだ見てませんね……良かったら一緒に探しますか?」
なんて、
「ぁ……うん!それなら寂しくないし、ご一緒させてもらおうかな!」
それに了承して、一緒に行動することに。
「あ、見てりせまふ、お化け屋敷あるね」
何故か僕の隣に来たせいで、僕が真ん中という苦手すぎるポジションに。
「……!」ピク
「ほんとですね!…って、星奈先輩!真冬にセクハラはやめてくださいって言ってるじゃないですかぁ!」
李世が可愛く怒ると、先輩は驚いた顔をした。
「……!あれ、ほんとだ、無意識に肩に手置いちゃってたね」
…………それが無意識というのなら、一体何回やって無意識になるまで慣れているのか。
「ごめんねー」頭撫で
「先輩、学習って出来ますか??」
そろそろ殴りたい。
(……でも何でだろう、あんまり嫌じゃない、というか)
この前の地震の時に、この人に触れられるのが安心出来るものだと錯覚してしまったらしい。
……こんな先輩、嫌いなはずなのに。
「星奈!やっと見つけました……」
「…!あ、瞬……!」
タイミングよく瞬先輩が現れた。
それと同時に頭から手が離れる。
(あ…………)
それが何故か少し寂しかった。
「………またね、後輩達。」
この気持ちは、何なんだろう。
「ふぅ……星奈先輩は西原先輩と違って距離近すぎるよねぇ、…ねぇ真冬。…………真冬?」
「……!…なに?」
ーーー
李世みたいに
ーーー
文化祭が終わり、休日をはさんだあと放課後までかけて片付けをした。
「星奈先輩………もうここの生徒かってくらい当たり前に現れますねぇ」
「もう生徒指導の先生とは親友みたいなものだしね♪」
でもそれなら、ここじゃなくて瞬先輩の持ち場に行けばいいのに。
それは李世も思っていたようで、
「3年生の方に行かないんですか?」
「んーん、最初に行ってきたから後はここでいいかなって」
……それだったら先輩はかなり早くからここに来ていたという事になる。
そんなに早くに学校は終わるものなのか、それにこの先輩の通う高校は遠すぎるとも言えないけど近いとも言えないところ。
まぁ、そんな事僕の知った事では無いんだけど。
「結構大きい物とか片付けるんだね」
「はい!展示と言っても装飾にはこだわってたので、大分片付け大変なんですよねぇ」
それに教室だけじゃなくて体育館とか、共用部の片付けもあったから思う程早くには終わらない。
「この装飾とか、李世達くらいなら隠れられそうじゃない?」
「なんで隠れる必要あるんですか…かくれんぼでもするんですか?」
なんて呆れながら笑う李世を見つつ、掃除をした。
「……あ、真冬、そこ気を付けてね、画鋲とか置いてあるから」
「真冬、そこ行っちゃ駄目だって言ったよね?……ごめんね、危ないよ。」
「あ、いいよ、そこ大変だからボクがやっておくね」
…………李世はたまに過保護で優しい。
それが気まぐれか何なのかは分からないけど、本当にたまに。
ただ、たまにしかないそれが、案外大事にされてるようで嬉しかったりする。
「あ、わり、雪島」
「……!」
人にぶつかって、よろけた。
「……真冬!」
李世が支えてくれる、なんて思っていたけど、
「………っと、…大丈夫…?」
支えてくれたのは星奈だった。
「……」コク
「先輩……」
まぁ、李世より星奈の方が近くにいたから、当然のことではあるんだろうけど。
「気を付けてね~」
なんて猫みたいな緩い表情で笑って、手が離れた。
(あ…………)
また、離れた。
その度に来るこの寂しさは何なんだろう。
自覚するまで、あと数分。
ーーー
「後はこのでっかい奴ら運べば終わりだなー」
片付けもあと少しで終わるという時、
「真冬、1人で持てる?」
「小柄な奴は2人で運べよー、落としたら危ないから」
なんて言われた。小柄というところは悔しいけどクラスの中で一番背が低いという事実は認めざるを得ない。
「………李世と真冬じゃ危ないし、俺は真冬の持つよ」
「わかりました、じゃ、ボクは他の人と持ちますねぇ」
そう言って重くて持てなかったそれを星奈がひょい、と持ち上げた。
「……」む…
何故…………
「これを倉庫まで持っていってくれ」
倉庫は下なので階段も降りたりを考えると1人じゃ危ない。
「気を付けてね、足元見て」
頑張って見ようとはしたけど、重くて余裕が無い。
他の人も後ろから来てるから、急ごうとそっちに気がいってしまった。
「…………ぁ、」
ふと、手が滑って持っていたものが手から離れた。
「危ない……!!」
倒れそうになるそれを、星奈が支えてくれた。
情けない事に腰が抜けて座り込んでしまった僕と、それが倒れてこないようにしゃがんで支えてくれた星奈の目が合った。
「ぁ……ごめんなさ、」
怒られる
「………大丈夫?怪我は?」
…………あれ
(怒られない……?)
「……」フルフル
「良かったぁ……、……あ、真冬」
ぽかんとしていると、いきなり先輩の目が近付いた。
「………ぇ、……んっ、」
それから突然口が塞がれた感覚がして、驚いて目を見開くとそれは星奈の口で塞がれてた。
「………ッんん、…は、……ぇ…?」
すぐに口は離れたけど、
なんで…………
「先輩…………?」
「危ない事したお仕置き、ちゃんと前は見ようね」
お仕置き、って………………
「雪島!と知らない人!!大丈夫か!!」
運んでいたもので隠れて周りからは見えてなかった。
「………っ……」
「大丈夫!…さて、真冬、倉庫まで運んじゃおっか」
自覚してしまう。
(これは………嫌じゃない。)
そんな風に優しい目で、優しく微笑まれてしまったら、
この気持ちを、嫌でも自覚してしまうのだ。
(先輩とも李世とも違う、この優しさが、すごく居心地がいい)
僕はこの人が、…………好きなんだと。
ーーー
おまけ……
星奈と李世だけの生徒会室。
「ねー、李世、真冬貰ってもいい?」
「何ですか急に、そもそも真冬が拒絶しますよー」
「…でも、真冬きっと俺の事好きだよ」
「なんでそう思うんですか?そもそも真冬に好きなんて感情あると思いますか?」
「え…だって真冬って李世大好きじゃん」
「好きとかじゃないですよ、ボク達は」
「どういうこと~?理解出来ないや」
「…ボクだって星奈先輩の事理解出来ないですけどね~!」ニコッ
「李世…なんか怒ってる?怖いよ?」
「…ボクは真冬と先輩、どっちが大切なんでしょうね」
「…?李世が好きなのは李世でしょ??」
「なんでボクをナルシストにしようとしてるんですか!!ボクはボクの事は可愛いとは思いますけど好きではないですよ!!」
「えぇ~………わかんないよぉ…………」
「ボクもわかんないです~」
gdgd(^o^ )
ーーー
真冬が星奈への気持ちを自覚する1ヶ月間です。
星奈は亭主関白っぽい。
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