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資金の出どころ
しおりを挟む西村佳奈子はそんな瀬良の一連の話を、心のなかで「(そう言うことが起きていたんですね・・・まぁ)」と呟きながら聞いていた。
そして間を見計らって、手元の冷酒のお銚子を瀬良に・・そっと差し出した。
「ありがとう」
佳奈子がついでくれたそれを瀬良は一息で飲んだ・・・
(嫌な思い出だよなぁ)と言うような表情を見せながら。
「ま、完全な『取り込み詐欺』だったわけですよ。最初から五千万円の木材は、ウラのルートに売っぱらってしまおうと言う魂胆の」
そして
「それ以降の、現在までに至るまでの詳しいところは、自分には分からないんですよねぇ」
と二人に言った。
その訳は、この一連の事件の勃発から二か月後に、瀬良は人事異動にひっかかり、本店に移ったためだった。
「倒産を予期した、取り込み詐欺、計画的・・・・だな」続けて
「さっきの話の四千二百万円に加えて、その他の納入分の手形も、当然のごとく不渡りになっただろうから、斉藤木材は、合計で一億円は横鷹ホーム事件で溶かしているな」
そう言う彰司を見ながら、佳奈子も
「それって、ちょっと、金額・・・おおすぎません・・・」
と少しばかり真面目な顔をして言った。
彰司は付け加えた。
「その木材は関西の方で、たちまち安い金で現金化されたんだろうな。そしてその金は首謀者の懐(ふところ)へ入ったってことだろう」
「全くそうなったと思いますよ・・・」瀬良が低い声でそう応えた。
会話が一瞬途切れた時に、彰司はちらっと時計を見た。
もう、時計の針は九時半近くをさしていた。
「おっ、二時間半も飲んじゃったな。そろそろ・・」
「そうっすね。色々と話をしていると、本当、時間はあっという間に過ぎますね」
瀬良が一連のことをしゃべったあと、食事も一通り出尽くしたので、今日の三人の会合はお開きとなった。
東郷が「とりあえず、ここは俺が代表して払っておくので・・・」と言って、まだ店のレジの所にいる間に、表に出た佳奈子はふと瀬良に聞いた。
「さっきのお話しの中で、四千二百万円の手形買い戻し資金を、良子会長が小切手の形で、すんなりバッグからお出しになったってことだったけれど・・・どこからそのお金は出ていたの」
もっともな質問だった。
先程はその部分は端折って瀬良は話をしたのだが、
「斉藤木材会長の良子さんは、横鷹に関する不穏な報道の発生時から、そう遠くない将来の、横鷹ホームの破綻と、自社への影響額を綿密に試算していたというんだ」
佳奈子はふーんと言う顔をした
「で・・?」
「相談役さ」
「相談役?えっ、そうだったの!」
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