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神代 コウ

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キングの危惧

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 人の力だけで移動するには骨が折れる距離を飛んで来た筈のキングだったが、その着地の瞬間はまるで紙が空から降って来たかのように、静かで振動もなく降り立つ。キングは途中で見つけた“拾いモノ“を、ドサッと床に下ろす。彼が肩に担いで持って来たのは“人“だった。

 「船長、どうでしたか?」

 「ん~・・・。口から吐こうとしたブレスの時のように、能力向上効果を得ていたらいくら俺ちゃんでも、ちと厳しいかもしれねぇなぁ・・・」

 蟒蛇へ直接攻撃を仕掛けに行ったキングが、その手応えを語る。凄まじく強烈な攻撃を叩き込んでいたように思えた。確かにダメージは入っていただろう。だがそれは、無防備な状態であったからこそのモノだった。

 キングは、蟒蛇本来の実力の片鱗を垣間見た。それは、マクシムやロイクが決死の思いで阻止した高出力のブレスの時に見せた光。大口に集っていたエネルギーは、攻撃の為の前準備をしており、自身の能力を向上させる、所謂バフ効果をその巨体に宿していた。

 その間は、キングの能力も通り辛くなり、真面にダメージが与えられなかった。そして何より、直接蟒蛇に触れたキングだからこそ分かることがあった。蟒蛇が高出力のエネルギーで得ていたバフ効果は、偶然身に付けたものではなく、自分の意思で行っていた事だったのだ。

 つまり、このレイドボスである巨大蟒蛇は、モンスターのように本能で戦っているのではなく、意思を持って戦っているのだ。そこに一体なんの問題があるのか。要するに蟒蛇は、まだ全力で戦ってなどいなかったのだ。

 もしその気なら、初めからできたのではないだろうか。いや、出来ただろう。敢えてやってこなかったのは、手を抜いていたのか、それとも出来なかったのか。それは計り知れる事ではなかったが、蟒蛇の底知れぬ力を垣間見ることが出来ただけでも収穫だろう。

 それを収穫と言って良いものかは分からないが。

 「おぉ?ボス、戻ったんだな!?一人で抜け駆けなんて、連れねぇじゃねえの。・・・それで?今回は俺達だけでいけちゃいそうな相手だったんか?」

 戻って来たキングへ話しかけて来たのは、船員達と氷塊を溶かしていたジャウカーン。実力を買われている証拠だろうか、ボスであるキングとも親しげに話しかけている。キングも特にそれについて触れることもないことから、彼らの関係は長くに渡ってこのような形であったのだろう。

 「あぁ、ジャウカーンか。全くお前は、騒がしくなってこねぇとやる気にならねぇなぁ」

 「それりゃぁボスも同じだろう?」

 「否定はしねぇよ。けど、今回はちぃとばかし、やりたい放題でどうにかなる相手じゃなさそうなのよねぇ・・・」

 キングの言葉に、それまで陽気であったジャウカーンの表情が変わる。絶対的な力を持っているキングが、普段の調子が出ていないほど言葉に余裕がない。キングの力を持ってしても、苦戦を強いられる相手なのだろう。

 様子見に行ったキングが大人しくなって帰って来ただけで、その緊張感が伝わってくる。周囲にいた術師や船員達も、妙に様子の変わるジャウカーンに言葉を飲み込み、キングの話を待っていた。

 「・・・キング、他の奴らにも収集を掛けた方が良いのでは・・・?」

 表情だけでなく、言葉遣いまで変わるジャウカーン。事態を察したのかと気づいたキングも、いつもの飄々としてふざけた態度をとることもなく、状況と今後の戦略について考え、彼らに指示を出す。

 「いやぁ・・・一箇所に集まるのは良くねぇ・・・。ジャウカーン、お前も自分の船団に戻れ。各々先ずは、自分達に降り掛かる厄を対処することに尽力しろ。生き残ることを考えるんだ。攻勢に出るのは、他の海賊らが出揃った後だ・・・」

 キングの指示に、何も迷うことなく速やかに動き出す船員達。その中で一人、ジャウカーンだけが最後に残り、ある一つの疑問を彼に投げ掛ける。それは今、この戦場にある最大戦力を集結させることで、巨大蟒蛇を討伐出来ないかというものだった。

 「キング・・・一つだけ良いか?」

 「なぁに~?逃げたいなんてのは聞かないよ?」

 「ハッ・・・まさか。・・・他の海賊共を待つということは、エイヴリーの奴らを利用したとしても倒すのは厳しい。そういうことなのか・・・?」

 彼の質問に、キングは答えることなく暫くの沈黙が二人の中にあった。そして直ぐにキングは、余計なことを考えず、今出した指示に従えとジャウカーンに促す。それはキングの答えだった。

 例えエイヴリー海賊団の戦力と協力したところで、余裕を持って今回のレイド戦を乗り切れるかと問われたら、二つ返事で頷くことは出来なかったのだ。事態を重く見たジャウカーンは、静かに何度か頷き直ぐに自分の船団へ戻る為の準備へと入った。

 しかし、キングの船団が準備を整えるのを静かに待ってくれるほど、巨大蟒蛇は優しくはなかった。キングに海中へと押し込まれた蟒蛇は、暫しの沈黙を経て起き上がり、気絶から目覚めて海面へと再び頭部を持ち上げた。

 その体表は、キングの危惧していた青白い光に包まれていた。
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