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一番弟子、防御の剣
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「どうしたどうした! そんなことでは、グレンを打ち負かすなど夢物語ですぞ!」
「ぐぐ……っ!」
グレンとの試合が決まってから一週間。
サイラス将軍の訓練はさらに激しさを増し、容赦ない一撃に僕は膝を折る。
やはり、皇国の盾だけあって、本気を出した時の一撃の重みは半端ない。
僕の身体が小さいこともあり、防御しても受け止めることすらままならない状態だ。
一度目の人生でも、僕の身長は一六五センチで頭打ちだったから、これ以上の成長は見込めないだろう。
だからって。
「ああああああああああああッッッ!」
そんなことが、グレンとの勝負に敗れる理由になってたまるものか。
そんなことが、諦める理由になってたまるものか。
「ハッハ! よい気迫ですぞ!」
剛剣を必死で押し返した僕を見て、サイラス将軍は豪快に笑った。
だけど……彼に師事するようになって数か月。両手を使わせるだけでなく、ようやく僕の攻撃もかするようになってきた。
グレン以上の防御の達人である彼に、一撃を見舞う。
それができれば、たとえ相手がグレンでも勝機をつかむことができるんだ。
「ふう……今日はここまでにしておきましょう」
「ハア……ハア……ありがとう、ございました……」
ようやく訓練が終わり、僕はいつものように地面にぶっ倒れた。
でも、最初の頃と明らかに違うのは、サイラス将軍に打ち込まれることがほとんどなくなったということ。
「うむうむ。ギュスターヴ殿下も、私の剣を身につけつつありますな」
「そ、そうですかね……」
サイラス将軍の剣と言われても、正直ピンとこない。
僕の身体は小さいけど、サイラス将軍は一九〇センチ以上もあるし筋骨隆々だ。
これだけの体格差がある以上、戦い方だって必然的に違ってくるからなあ……どうなんだろう?
「む……ひょっとして、嫌なのですかな?」
「い、いえ! そんなことは決して!」
ジト目で睨まれ、僕は慌てて否定した。
正直、『難攻不落』と呼ばれるサイラス将軍と同じ剣だと認めてもらえることは、とても名誉なことだし。
「いやあ、サイラス閣下の剣に似るのは当然でしょう」
「そうそう。ギュスターヴ殿下は、閣下の一番弟子ですからね」
「え……あ、そ、そっか……」
騎士達に『一番弟子』と言われ、思わず僕は口元を緩めてしまう。
これまで僕は、誰にも認めてもらったことがないから、すごく嬉しかった。
「ハッハ! もちろん、グレンを倒すにはまだまだ! だから……これからも、ビシビシ鍛えますぞ! ギュスターヴ殿下!」
「はい!」
サイラス将軍が、僕の頭を乱暴に撫でる。
そのごつごつした大きな手は、温かくて、とても優しかった。
◇
「マ、マリエット、本当に大丈夫かな……」
「ご安心ください。これなら、たとえ皇王陛下の前でも決して恥ずかしくありません」
鏡に映る姿を眺め尋ねる僕に、マリエットは笑顔で頷く。
実はこれから、エドワード王との会食をするのだ。
それも、僕とエドワード王の、二人きりで。
用件はもちろん、例の『二つのお願い』に関連してのものだと思うけど、さすがにこれはあからさま過ぎじゃないかな……。
すると。
「ギュスターヴ殿下」
不安そうな表情で部屋にやって来たのは、もちろんアビゲイル皇女だ。
その後ろには、クレアが控えている。
「その……本当によろしいのですか? もしあれでしたら、強引にでも私もご一緒に……」
「大丈夫です。皇王陛下は、きっと僕のことを無下に扱ったりはしません」
洗礼祭でのエドワード王との密談を、彼女は知らないからね。
こうやって心配するのも当然だ。
とはいえ、エドワード王が何を考えているか分からない以上、警戒しておくに越したことはないし、それに……ブリジットも気になる。
あの女は僕とエドワード王の密談を把握しているはずなのに、今日まで向こうからなんの接触もなかった。あったのは、クレアに襲われてアビゲイル皇女との婚約解消を強要されたくらいだ。
……まあ、さすがにそう考えるのは早計か。
とにかく、今日のエドワード王との会食のこともあの女はつかんでいるはずだから、ひょっとしたら、食事の最中に何食わぬ顔で乗り込んでくるくらいのことがあるかも。
アビゲイル皇女と違い、ブリジットはエドワード王に可愛がられているから。
「ギュスターヴ殿下、そろそろ……」
「わかった」
僕は最後に鏡をチェックし、部屋を出る……んだけど。
「あはは……食堂まで、ご一緒いたしますか?」
「はい」
苦笑して右手を差し出すと、アビゲイル皇女は強く頷いて小さな手を添えた。
ちょっと心配性で過保護なんじゃないかな。
なんて心の中で悪態を吐いてみるけど、本当は彼女の優しさが嬉しかったりする。
もちろん、この移動の時間を一緒にいられることも。
そして。
「では、行ってまいります」
「ギュスターヴ殿下、お気をつけて」
「会食するだけですから、何もありませんよ」
真紅の瞳を潤ませ、名残惜しそうにお辞儀をするアビゲイル皇女に見送られ、僕は騎士によって開かれたエドワード王専用の食堂の扉をくぐると。
「待っていたぞ」
既に席に着くエドワード王が、ワインがなみなみと注がれたグラスを掲げて笑顔で迎えた。
「ぐぐ……っ!」
グレンとの試合が決まってから一週間。
サイラス将軍の訓練はさらに激しさを増し、容赦ない一撃に僕は膝を折る。
やはり、皇国の盾だけあって、本気を出した時の一撃の重みは半端ない。
僕の身体が小さいこともあり、防御しても受け止めることすらままならない状態だ。
一度目の人生でも、僕の身長は一六五センチで頭打ちだったから、これ以上の成長は見込めないだろう。
だからって。
「ああああああああああああッッッ!」
そんなことが、グレンとの勝負に敗れる理由になってたまるものか。
そんなことが、諦める理由になってたまるものか。
「ハッハ! よい気迫ですぞ!」
剛剣を必死で押し返した僕を見て、サイラス将軍は豪快に笑った。
だけど……彼に師事するようになって数か月。両手を使わせるだけでなく、ようやく僕の攻撃もかするようになってきた。
グレン以上の防御の達人である彼に、一撃を見舞う。
それができれば、たとえ相手がグレンでも勝機をつかむことができるんだ。
「ふう……今日はここまでにしておきましょう」
「ハア……ハア……ありがとう、ございました……」
ようやく訓練が終わり、僕はいつものように地面にぶっ倒れた。
でも、最初の頃と明らかに違うのは、サイラス将軍に打ち込まれることがほとんどなくなったということ。
「うむうむ。ギュスターヴ殿下も、私の剣を身につけつつありますな」
「そ、そうですかね……」
サイラス将軍の剣と言われても、正直ピンとこない。
僕の身体は小さいけど、サイラス将軍は一九〇センチ以上もあるし筋骨隆々だ。
これだけの体格差がある以上、戦い方だって必然的に違ってくるからなあ……どうなんだろう?
「む……ひょっとして、嫌なのですかな?」
「い、いえ! そんなことは決して!」
ジト目で睨まれ、僕は慌てて否定した。
正直、『難攻不落』と呼ばれるサイラス将軍と同じ剣だと認めてもらえることは、とても名誉なことだし。
「いやあ、サイラス閣下の剣に似るのは当然でしょう」
「そうそう。ギュスターヴ殿下は、閣下の一番弟子ですからね」
「え……あ、そ、そっか……」
騎士達に『一番弟子』と言われ、思わず僕は口元を緩めてしまう。
これまで僕は、誰にも認めてもらったことがないから、すごく嬉しかった。
「ハッハ! もちろん、グレンを倒すにはまだまだ! だから……これからも、ビシビシ鍛えますぞ! ギュスターヴ殿下!」
「はい!」
サイラス将軍が、僕の頭を乱暴に撫でる。
そのごつごつした大きな手は、温かくて、とても優しかった。
◇
「マ、マリエット、本当に大丈夫かな……」
「ご安心ください。これなら、たとえ皇王陛下の前でも決して恥ずかしくありません」
鏡に映る姿を眺め尋ねる僕に、マリエットは笑顔で頷く。
実はこれから、エドワード王との会食をするのだ。
それも、僕とエドワード王の、二人きりで。
用件はもちろん、例の『二つのお願い』に関連してのものだと思うけど、さすがにこれはあからさま過ぎじゃないかな……。
すると。
「ギュスターヴ殿下」
不安そうな表情で部屋にやって来たのは、もちろんアビゲイル皇女だ。
その後ろには、クレアが控えている。
「その……本当によろしいのですか? もしあれでしたら、強引にでも私もご一緒に……」
「大丈夫です。皇王陛下は、きっと僕のことを無下に扱ったりはしません」
洗礼祭でのエドワード王との密談を、彼女は知らないからね。
こうやって心配するのも当然だ。
とはいえ、エドワード王が何を考えているか分からない以上、警戒しておくに越したことはないし、それに……ブリジットも気になる。
あの女は僕とエドワード王の密談を把握しているはずなのに、今日まで向こうからなんの接触もなかった。あったのは、クレアに襲われてアビゲイル皇女との婚約解消を強要されたくらいだ。
……まあ、さすがにそう考えるのは早計か。
とにかく、今日のエドワード王との会食のこともあの女はつかんでいるはずだから、ひょっとしたら、食事の最中に何食わぬ顔で乗り込んでくるくらいのことがあるかも。
アビゲイル皇女と違い、ブリジットはエドワード王に可愛がられているから。
「ギュスターヴ殿下、そろそろ……」
「わかった」
僕は最後に鏡をチェックし、部屋を出る……んだけど。
「あはは……食堂まで、ご一緒いたしますか?」
「はい」
苦笑して右手を差し出すと、アビゲイル皇女は強く頷いて小さな手を添えた。
ちょっと心配性で過保護なんじゃないかな。
なんて心の中で悪態を吐いてみるけど、本当は彼女の優しさが嬉しかったりする。
もちろん、この移動の時間を一緒にいられることも。
そして。
「では、行ってまいります」
「ギュスターヴ殿下、お気をつけて」
「会食するだけですから、何もありませんよ」
真紅の瞳を潤ませ、名残惜しそうにお辞儀をするアビゲイル皇女に見送られ、僕は騎士によって開かれたエドワード王専用の食堂の扉をくぐると。
「待っていたぞ」
既に席に着くエドワード王が、ワインがなみなみと注がれたグラスを掲げて笑顔で迎えた。
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