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しおりを挟む「この病院には特別なお風呂があるんだ。湯に癒しの魔力が溶かし込んであるから、傷に効く」
ガチガチに固まる僕をよそに、ユージーンは颯爽と部屋を縦断する。いやいやいや、下ろしてほしいんだけど!
「ユ、ユージーンさん! お風呂はいいですけど、これ恥ずかしいですっ! 重いだろうし……っ」
ユージーンは感情が読めない顔のまま、平然と部屋を出た。
「軽いに決まってるよ。カナンはこんなに小っちゃくて可愛いんだから」
「可愛っ……う、うぅ……!」
病室と同じく白い廊下を進んでいくと、すれ違う看護師さんやお医者さんらしき人たちが皆びっくりして僕たちを凝視する。
「僕、子どもみたいっ……」
「子どもでしょ?」
そうじゃなくてもっと小さい子のことで、と言い返したかったけど、運んでくれている人にあまり強くは言えない。
「細い体でたくさん頑張ったんだから、遠慮せず僕に甘えるといい」
「……う」
「ほら、首にしがみついて。落ちちゃうよ」
腕を彼の白い首に回して、きゅ、と抱きつく。必然的に顔も近付いて、ふわふわした甘い香りが濃くなった。
――ユージーンさんの匂いだ。なんか、すごく安心する……。
一番人通りの多かった階を降りて【B1】とプレートがかかった地下に着くと、大きな扉が目に入った。
「あそこがお風呂なんですか?」
「そう。VIP専用だから鍵がないと入れない」
そんな施設を利用できるこの人は、何者なんだろう?
疑問に思っている間に部屋が解錠されて、誰もいない浴場に連れ込まれた。
お風呂場の前に、白い煙がうっすらと漂う更衣室がある。
そこでユージーンは僕を下ろした。
「一人で立てる?」
「はい、なんとか」
はー……やっと下ろしてもらえたよ。たくさん人に見られて、めちゃくちゃ恥ずかしかった……。
「わ、っとと」
ふらつく足でどうにか踏ん張ると、立てるようになった。
それで、どうするんだろう……と彼の顔を窺い見ると、冷たい瞳にじっと見下ろされていた。
「え……?」
なんだろう。
漠然とした不安を感じたとき、ユージーンが淡々と言った。
「服を脱いで」
肩に手を置かれて、着ていた服の裾を掴まれる。ぎくりと体が強張ると、それを宥めるように手のひらが動いた。
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