氷血辺境伯の溺愛オメガ

ちんすこう

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 服を脱げって……ユージーンの目の前で?
 どうして。今から二人でお風呂に入るってこと?

 彼の意図を悟ると、すっと心が冷えていくのを感じた。

 ……ああ、そうか。ここでも僕はただのオメガなんだ。

 今さら気づいて、笑いそうになってしまう。
 前の国にいたときと違って、枷を外され、物腰の柔らかい貴族と話し、温かいベッドを与えられたことで勘違いしていた。
 僕はオメガで、この人は――アルファだ。
 色々と施してくれたのは何か目的があるからに決まってる。

「カナン。どこか痛い? 一人でできる?」
「……はい。大丈夫です」

 ぼうっと突っ立っていてもユージーンは苛立った様子もなく、そっと顔を覗き込んでくる。
 この人は優しい。叩いたり、蹴ったりしてこないだけで十分なはず。
 文句なんて言うのは生意気だ、と割り切ってするすると服を脱いでいった。手に残った服は足元のかごにまとめて置いて、裸でユージーンに向き直る。
 自分が脱いだら、相手の服を脱がせないといけない。領主様に躾けられたように。
 奴隷の襤褸布とは素材から違う、しっかりした生地のシャツに手を伸ばそうとすると、その手を掴んで引き剥がされた。

「……っ!」

 カナン、と艶やかな声が呼ぶ前に、地面に額をこすりつけて謝罪する。

「も、申し訳ありません……っ!」
「カナン!?」

 ざあっと顔から血の気が引いていく。三角形を作って床についた手が細かく震えていた。
 分からない。
 何も分からないけど、きっと何か粗相をしてしまったんだ……!
 アルファ様に失礼をしたら、オメガは厳しい折檻を受ける。
 僕は今まで何度も見てきたんだ。鞭で打たれる人、ご飯も水も取り上げられて三日間外で正座させられていた人……僕みたいな下等オメガだったら、罰で死んでも気にもとめられない。

「すみません! すみません! 僕がいけなかったです、僕が悪いんです。な、なんでもします! ご奉仕しますから、だからどうか殺さないで……! まだこの国にいさせてください……っ」

 額を床に押し当てたまま、ぎゅっと目を閉じた。
 髪を掴んで引き回されるか、蹴りつけるくらいはされるだろう。怪我は免れないとしても命だけは守りたい。北斗を犠牲にしてまで手にした自由をまだ失いたくない。

「どうか……どうか……っ」

 僕は指先から足まで震わせながら、声を絞り出す。痛いのは我慢するから、許してほしい……。

「……っ、ぅ……?」

 でも、想像していた衝撃はいつまで経ってもこなかった。不思議に思って、おそるおそる顔を上げてみると。
 ユージーンは、驚いたように目を見開いていた。

「ユージーン、様」
「様はつけなくていい」

 ぽつりと呟く。

 ――怒って、ない?

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