氷血辺境伯の溺愛オメガ

ちんすこう

文字の大きさ
上 下
18 / 65

しおりを挟む
「カナン、嫌じゃない?」

 ちゅく、と鼓膜に音が響いて、舌が入ってくる。ぞわぞわぞわ、って、さっきより強い刺激がそこから流れ込んできた。

「ひぁっ♡ い、やじゃない、ですけど……っ!」

 ちゅくちゅく♡ ちゅぷ♡ れるっ♡

「んぅっ♡ くすぐったい……っ♡」

 耳たぶを甘噛みされて、唇がどんどん下に降りてくる。こめかみの横を通り、顎を滑って、首筋に落ちる。

 ちゅ♡ ちゅっ♡ ぷちゅっ♡

「ユージーン、さん……っ」
「さん、なんて遠い呼び方しないで」

 美しい顔を僕の首元に埋めて、熱っぽく囁く。そこで匂いを嗅がれている気がして、恥ずかしくてたまらなかった。

「ユージーン……っ」
「君が、ずっと僕の側にいればいいのにな」

 ユージーンは、僕の背中をぽんぽんと叩いてゆっくり体を離した。頬を撫でられ、微笑を向けられる。

 ――逃がしてもらえた。

 なんとなく、そう思った。


「ねえカナン。これからの一週間、ここを出て僕の家で過ごさない?」

 乱れた息を整えていると、突然そんな提案をされて、僕はぽかんと口を開けた。

「僕が……あなたのおうちに?」
「そう。駄目なら無理強いはしないけど。君はこれから先、他にゆく宛ては?」
「ないです。僕は奴隷館に売られて、そこから脱走してきたので……」

 分かっていたという風にユージーンが頷く。未だに彼の話を信じられないでいる僕に、追いこみをかけるように続ける。

「なら、一週間と言わずにうちの屋敷を新しいすみかにすればいい。僕といるのは嫌?」

 嫌なわけがなかった。それどころか魅力的すぎる話で、本当に自分に向けられた言葉なのか疑いたくなる。
 辺境伯様の邸宅に雇われるなんて、とんでもないことだ。普通なら、僕なんて下働きすらさせてもらえない。
 だけどユージーンの顔は真剣で、冗談を言っているとは思えなかった。

「まさか。ただ、驚いちゃって……僕なんかでよければ、住ませてもらえますか?」
「君がいいんだ」

 ユージーンが頷いてくれたのが嬉しくて、飛び上がるようだった。もちろんそれは我慢したけど、感謝の言葉はもっと伝えたくて彼の目を見つめて笑いかけた。

「本当は……もっとユージーンと一緒にいられたらいいのにって、思ってたんです。せっかく出会えたのに、退院したらおしまいってちょっと寂しいなって。だから、すごく嬉しい」

 僕の顔を包み込んでいた手がぴくりと揺れる。僕は自然と緩んでしまう口元を引き締めると、その手を両手で包んで息巻いた。

「あの、僕っ。お屋敷に入れていただけたら、お仕事たくさん頑張りますね! 館ではランクの低いオメガは雑用をさせられてましたから、きっと役に立てますよ!」

 ユージーンは薄く笑って、無言で僕の頭を撫でてくれた。きっと、『存分に働きたまえ』って意味だろう。この人のためなら冬場の洗い物も洗濯も、なんだって頑張れそう。
 こんなチャンスがもらえるなんて、館を脱走した直後は思いもしなかった。

「かわいいね、カナン」

 僕が掴んでいるのとは反対の手が、肩に置かれた。

「そうと決まれば、さっそく手配をしてくるよ。万全の体制で君を受け入れたいからね」
「ありがとうございます。ご主人様」

 頭を下げると、ユージーンは「普通に呼んでくれていいってば」と苦笑した。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

カップルチャンネルでひたすらエロいことしてるだけ

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:40

真実の愛の為に

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:126

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:505pt お気に入り:139

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,528pt お気に入り:846

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99,921pt お気に入り:4,856

処理中です...