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「カナン、嫌じゃない?」
ちゅく、と鼓膜に音が響いて、舌が入ってくる。ぞわぞわぞわ、って、さっきより強い刺激がそこから流れ込んできた。
「ひぁっ♡ い、やじゃない、ですけど……っ!」
ちゅくちゅく♡ ちゅぷ♡ れるっ♡
「んぅっ♡ くすぐったい……っ♡」
耳たぶを甘噛みされて、唇がどんどん下に降りてくる。こめかみの横を通り、顎を滑って、首筋に落ちる。
ちゅ♡ ちゅっ♡ ぷちゅっ♡
「ユージーン、さん……っ」
「さん、なんて遠い呼び方しないで」
美しい顔を僕の首元に埋めて、熱っぽく囁く。そこで匂いを嗅がれている気がして、恥ずかしくてたまらなかった。
「ユージーン……っ」
「君が、ずっと僕の側にいればいいのにな」
ユージーンは、僕の背中をぽんぽんと叩いてゆっくり体を離した。頬を撫でられ、微笑を向けられる。
――逃がしてもらえた。
なんとなく、そう思った。
「ねえカナン。これからの一週間、ここを出て僕の家で過ごさない?」
乱れた息を整えていると、突然そんな提案をされて、僕はぽかんと口を開けた。
「僕が……あなたのおうちに?」
「そう。駄目なら無理強いはしないけど。君はこれから先、他にゆく宛ては?」
「ないです。僕は奴隷館に売られて、そこから脱走してきたので……」
分かっていたという風にユージーンが頷く。未だに彼の話を信じられないでいる僕に、追いこみをかけるように続ける。
「なら、一週間と言わずにうちの屋敷を新しいすみかにすればいい。僕といるのは嫌?」
嫌なわけがなかった。それどころか魅力的すぎる話で、本当に自分に向けられた言葉なのか疑いたくなる。
辺境伯様の邸宅に雇われるなんて、とんでもないことだ。普通なら、僕なんて下働きすらさせてもらえない。
だけどユージーンの顔は真剣で、冗談を言っているとは思えなかった。
「まさか。ただ、驚いちゃって……僕なんかでよければ、住ませてもらえますか?」
「君がいいんだ」
ユージーンが頷いてくれたのが嬉しくて、飛び上がるようだった。もちろんそれは我慢したけど、感謝の言葉はもっと伝えたくて彼の目を見つめて笑いかけた。
「本当は……もっとユージーンと一緒にいられたらいいのにって、思ってたんです。せっかく出会えたのに、退院したらおしまいってちょっと寂しいなって。だから、すごく嬉しい」
僕の顔を包み込んでいた手がぴくりと揺れる。僕は自然と緩んでしまう口元を引き締めると、その手を両手で包んで息巻いた。
「あの、僕っ。お屋敷に入れていただけたら、お仕事たくさん頑張りますね! 館ではランクの低いオメガは雑用をさせられてましたから、きっと役に立てますよ!」
ユージーンは薄く笑って、無言で僕の頭を撫でてくれた。きっと、『存分に働きたまえ』って意味だろう。この人のためなら冬場の洗い物も洗濯も、なんだって頑張れそう。
こんなチャンスがもらえるなんて、館を脱走した直後は思いもしなかった。
「かわいいね、カナン」
僕が掴んでいるのとは反対の手が、肩に置かれた。
「そうと決まれば、さっそく手配をしてくるよ。万全の体制で君を受け入れたいからね」
「ありがとうございます。ご主人様」
頭を下げると、ユージーンは「普通に呼んでくれていいってば」と苦笑した。
ちゅく、と鼓膜に音が響いて、舌が入ってくる。ぞわぞわぞわ、って、さっきより強い刺激がそこから流れ込んできた。
「ひぁっ♡ い、やじゃない、ですけど……っ!」
ちゅくちゅく♡ ちゅぷ♡ れるっ♡
「んぅっ♡ くすぐったい……っ♡」
耳たぶを甘噛みされて、唇がどんどん下に降りてくる。こめかみの横を通り、顎を滑って、首筋に落ちる。
ちゅ♡ ちゅっ♡ ぷちゅっ♡
「ユージーン、さん……っ」
「さん、なんて遠い呼び方しないで」
美しい顔を僕の首元に埋めて、熱っぽく囁く。そこで匂いを嗅がれている気がして、恥ずかしくてたまらなかった。
「ユージーン……っ」
「君が、ずっと僕の側にいればいいのにな」
ユージーンは、僕の背中をぽんぽんと叩いてゆっくり体を離した。頬を撫でられ、微笑を向けられる。
――逃がしてもらえた。
なんとなく、そう思った。
「ねえカナン。これからの一週間、ここを出て僕の家で過ごさない?」
乱れた息を整えていると、突然そんな提案をされて、僕はぽかんと口を開けた。
「僕が……あなたのおうちに?」
「そう。駄目なら無理強いはしないけど。君はこれから先、他にゆく宛ては?」
「ないです。僕は奴隷館に売られて、そこから脱走してきたので……」
分かっていたという風にユージーンが頷く。未だに彼の話を信じられないでいる僕に、追いこみをかけるように続ける。
「なら、一週間と言わずにうちの屋敷を新しいすみかにすればいい。僕といるのは嫌?」
嫌なわけがなかった。それどころか魅力的すぎる話で、本当に自分に向けられた言葉なのか疑いたくなる。
辺境伯様の邸宅に雇われるなんて、とんでもないことだ。普通なら、僕なんて下働きすらさせてもらえない。
だけどユージーンの顔は真剣で、冗談を言っているとは思えなかった。
「まさか。ただ、驚いちゃって……僕なんかでよければ、住ませてもらえますか?」
「君がいいんだ」
ユージーンが頷いてくれたのが嬉しくて、飛び上がるようだった。もちろんそれは我慢したけど、感謝の言葉はもっと伝えたくて彼の目を見つめて笑いかけた。
「本当は……もっとユージーンと一緒にいられたらいいのにって、思ってたんです。せっかく出会えたのに、退院したらおしまいってちょっと寂しいなって。だから、すごく嬉しい」
僕の顔を包み込んでいた手がぴくりと揺れる。僕は自然と緩んでしまう口元を引き締めると、その手を両手で包んで息巻いた。
「あの、僕っ。お屋敷に入れていただけたら、お仕事たくさん頑張りますね! 館ではランクの低いオメガは雑用をさせられてましたから、きっと役に立てますよ!」
ユージーンは薄く笑って、無言で僕の頭を撫でてくれた。きっと、『存分に働きたまえ』って意味だろう。この人のためなら冬場の洗い物も洗濯も、なんだって頑張れそう。
こんなチャンスがもらえるなんて、館を脱走した直後は思いもしなかった。
「かわいいね、カナン」
僕が掴んでいるのとは反対の手が、肩に置かれた。
「そうと決まれば、さっそく手配をしてくるよ。万全の体制で君を受け入れたいからね」
「ありがとうございます。ご主人様」
頭を下げると、ユージーンは「普通に呼んでくれていいってば」と苦笑した。
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