氷血辺境伯の溺愛オメガ

ちんすこう

文字の大きさ
27 / 65

しおりを挟む


◇七日目

 七日目の昼に目が覚めると、やっと身体の熱が引いていく感じがした。
 夕方ごろには気怠さも抜けてきて、自分で食事もとれるだろうと思った。
 でも部屋は情事の名残りが色濃く残っていて恥ずかしいので、料理を運び込んでもらうわけにはいかない。そこで、下に降りて食べることにしたけど……。

「か、カナン様。お身体の具合はよろしいですか?」
「ぇ……?」

 三日目以降のセックスが凄すぎて、椅子に座っていてもまだお尻になにかが入ってる感覚がする。
 途中から記憶があやふやになっていて、何をしていたのか覚えていないけれど――ひたすら気持ち良かったことだけは脳に刻み込まれてしまっていた。

「僕、どこか変ですか……?」
「い、いえ! そんなことはけっして! ただお伺いしただけでして……!」

 夕飯の準備をしてくれているフットマンが、なぜか挙動不審だった。顔が赤くてどもりがちで……。よく見ると他の執事やメイドも、時たまチラチラ僕を盗み見てはのぼせた顔をしている。

「……?」
「カーナーン、さーまっ」

 ぽーっと座ったまま首を傾げていると、横から明るい声が飛んできた。

「あ、くれあ……♡」
「わ、顔トロットロ」

 銀の水差しを持ったクレアが立っていた。
 やっと話しかけてくれる人が来てくれて嬉しくて、猫目のニコニコ顔に笑いかける。

「ひさしぶり、くれあ。お話できて、うれしい」
「あはー。舌ったらず可愛い~♡ ヒート明けたんですよね? お疲れさまでした」

「きつかったでしょう?」と訊きながらクレアは僕のコップに水を入れてくれる。

「うん。でもね、あの人がずっとそばにいてくれたから――……」

 辛くはなかったよ、と言おうとして、自分が何を言おうとしたのか気づいた。
 ユージーンがいつも僕を抱いて、中出しし続けてくれてたから気持ち良かった――なんて言えるわけない! いや屋敷の人みんな知ってるだろうけど!
 ぼぼぼ、と火を噴きながら俯くと、クレアはケラケラ笑って流してくれた。

「ええ、ええ。承知していますわ。カナン様は意識が飛んでて覚えていないでしょうけれど、わたし何度かお部屋にお邪魔いたしましたから」
「え、そうなの!?」
「はい。だって、カナン様は裸だけど旦那様のお召し替えは必要ですし、ベッドのシーツも毎日替えなければなりませんからね。お食事も運びましたよ。そういう雑用を旦那様にさせるわけにもいきませんから」

 そういえば、ユージーンは仕事でほんの一瞬部屋を空けるとき以外に僕から離れなかったように思う。
 ぼんやりしてるけど、何度か他の人が部屋に出入りしてたような……。

「あ、あんな恥ずかしいところ、人に見られてたなんて」
 愕然とする僕に、クレアは声を潜めて話しかけた。
「安心して。期間中にジギタリスに入ったのはオレだけですから」
「クレアだけ……?」
「そう。あの男は、てめえの屋敷の使用人すら誰も信じちゃいないから。先代が雇った連中だからね。自分の目で見繕ってきたオレが最低限の妥協ラインってわけ」
「どうして? 自分の家の人たちなのに……」

 クレアはいたずらっぽい笑みをふっと消した。真顔になると案外男の子らしい顔つきになる。

「それはね……」

 薄くリップが塗られた唇が、重大な秘密を明かすように小さく囁いたとき。


「ほら、カナン。こうしたほうが温かいでしょう」


 後ろから、ふわりとブランケットが掛けられた。



しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...