36 / 65
7
しおりを挟む「なんでもありません、サー。彼に質問されたので答えていただけです。無視するのは失礼でしょう」
「ほう」
答えを聞くと、男性は薄い唇をいびつに緩めた。
近くで見たら北斗より、いや、ユージーンよりも大きな男の人だった。
黒いコートに包まれた筋肉が発達しているから、なおさらそう見えるのかもしれない。硬そうな銀髪の下で、ライトブルーの瞳がぎらついている。左の目は眼帯で覆われていた。
「なにか揉めていたようだが?」
「いいえ。俺の裾口についた埃を取っていただいたのがそう見えたのでは」
北斗の表情は硬い。サーと呼ばれた彼は薄笑いを浮かべて、三歩でこっちに歩いてきた。視線を合わせようと思ったら、僕は首を曲げて見上げないといけない。
「うちの者が失礼した」
「え? え、はい。大丈夫です」
彼が近付くと、周りの空気がびりりっと震えた。
――分かりやすいアルファだ。
こんなにオーラが濃いアルファに会ったのは、初めてかもしれない。……怖い。
どこからどう見ても位の高い軍人だ。ちゃんと挨拶しないと引っぱたかれそう……なんて計算を素早くすると、ぎこちない笑顔を作りながら上目遣いに相手を見上げた。
「こ、こんにちは」
「フッ」
鼻で笑われた!?
衝撃を受けていると、『サー』はくつくつと喉で笑いながら僕を見下ろした。
「なるほど。君が例の……」
可笑しそうなのに、目が全然笑ってなかった。瞳は色そのままに冷たく、僕を捕らえ続けている。
こ、この人、めちゃくちゃ怖いぃ……!
びくびくしながら笑いかけていると、サーさんはおもむろに手を出してきた。
「私はユスラ王立軍所属のウォールデンだ。軍では少佐だが、普段は侯爵と呼ばれることもある。好きなように呼んでくれたまえ」
「ウォールデン、さん」
震える声で呟くと、サーさんもとい少佐は口元だけで笑った。
「なるほど、プラウ? お前が気に入るわけだ。お前好みの従順で、純朴そうな可愛い子ちゃん」
「……少佐。仰る意味がよく分からない……」
北斗が言い終わる前にぐっと手を引き寄せられて、冷たい瞳の真下に連れ込まれる。
「え、え……っ!?」
「そうか? いらないなら私が手を出しても問題あるまい」
反対の手が伸びてきて、指先が僕の頬に触れそうになったとき、その腕を北斗が止めた。
「やめろ。こいつに手を出すな」
二色の瞳がウォールデンをきつく睨みつける。
男の視線が僕から外れて、彼を睨みつける北斗のものと絡み合った。
「やはり知り合いだったな? 私に虚偽報告をして、そのうえ上官に命令するとは。ずいぶんな態度だな」
「黙れ」
――どういうことなんだ。
少佐はユスラ国の軍人だって言っていた。つまり、ダチュラ国に戻された北斗を助けてこの国に連れてきたのは、この人じゃないのか?
北斗はどうしてその恩人を殺意のこもった目で睨みつけるのか。
二人を見守っていると、しばらく睨み合った後でウォールデンがふん、と鼻を鳴らした。
「まあいい。この場で折檻するわけにもいかんからな。帰ったら覚えていろ、その憎まれ口をもっとも屈辱的な方法で塞いでやる」
「やれるもんならやってみろ、噛み千切ってやるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」
慌てて割り込むと、二人が『ああん!?』と同時に振り返った。
「ヒッ!」
40
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番に囲われ逃げられない
ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。
結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる