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しおりを挟む「俺の目的は第一に、果南。おまえを逃がすことだったんだ。それが叶って、ユスラ国でこうして元気に生きてるんだから、俺の夢は達成できた。それを喜んでも、恨むなんてことあるもんか」
「北斗……」
驚きながら、おずおずと抱き返す。
北斗の体は思ったより厚みがあって、背丈も僕よりだいぶ大きかった。というより、少し背が伸びた気がする。
「すごい。ユージーンが言った通りだ」
昔みたいに話せているのが嬉しくて、そう呟くと、北斗の肩がぴくりと揺れた。
「……リベラ辺境伯のことか?」
「知ってるの?」
「ああ……」
頭に添えられた手に、力がこもった気がした。
「もちろん。俺もこの国に来て二ヶ月弱になるんだ……色々噂は聞いてる。お前によくしてくれてるのか?」
「うん。すごく優しいんだ」
新しい国で出逢った新しい人、大好きな人のことを北斗に知ってほしくて、たくさん話した。
「昨日、たまたま君の話になってね。自分と関係ない話なんてつまんないだろうに、ユージーンはずっと聞いてくれてたんだ。楽しい思い出ばかりでもないのに……。奴隷館を出たときの話もして……僕が君を守れなかったことを後悔してるって話したら、『これから強くなればいいんだ』って言ってくれたんだよ」
「そうか」
北斗がどんな顔をしてるのかは、見えなかった。
「それで、果南は……? リベラ卿の番になった、のか?」
僕の首輪を撫でて、言葉を変えた。
「ああ、違うな。これからなるのか?」
「どうだろう。ユージーンはそうしたいって言ったけど、僕の答えが出るのを待ってくれるって」
北斗が体を離して、僕を見下ろした。
両手は僕の肩を掴んだままで、ぎり、ときつく握られる。
「北斗……?」
「――お前はあの人に惚れてるのか?」
訊かれた瞬間、顔に熱が集まった。
真正面から問われたからか、相手が北斗だからかは分からない。ただ、はぐらかすことはできなかった。
「そうか」
答えられないでいると、北斗がなにかを察したように呟いた。
その顔から表情が抜け落ちて、何を考えているのか読み取れない。
「お前が幸せならそれでいい」
――本当にそう思ってる?
訊けずにいると、北斗は複雑な笑みを浮かべて言った。
「俺は、ユスラ軍の人間になった」
「……うん」
「俺はテオ……ウォールデン少佐の傘下に入ったんだ。そして、お前はリベラ辺境伯の身内になるという。これが、どういう意味か分かるか」
視線で問うと、北斗はそのまま話を続けた。
「ユスラに来て俺たちは二人とも自由になった。そこで、俺と果南の道も、ここで別れるということだ」
「なんで?」
思ってもなかった言葉をぶつけられて、がばりと体を引き離した。
「どうしてそんな、お別れみたいに言うの?」
見つめると、北斗は困ったように笑った。聞き分けのない子供を諭す兄みたいに。
「お別れなんだよ。奴隷館にいたころのように、常に一緒に暮らせるわけじゃない。俺たちは赤の他人だから、別々の人生を生きていくんだ。でも、それは当たり前なことで、何も悲しくない」
そう言って、泣きそうになっている僕の顔を手で包み込んだ。
「俺がお前を突き放そうとしたのは……果南の新しい人生には、俺がいないほうがいいと思ったからだ」
「そんなのないよ! 僕は、どこにいてもずっと君のこと考えてたんだからっ」
「ああ、その考えは間違ってた。お前が勇敢にもあの少佐にケンカ売ってるのを見て、目が覚めたよ」
北斗は素直に認めた。眉を寄せて、二つの瞳を僕に向ける。
「俺はお前と別れられない。これからも会えるときにはいつでも会おう。お互い、別の人生を生きながら……。俺は平気だ。あんな変態上司の下だが、自分でなんとかやれてる」
「北斗、なんか嫌だ。寂しいよ、そんな言い方」
「大丈夫だ。離れていても、俺はいつも果南を想う」
どうしてそんなに苦しそうに笑うんだろう。
「北斗、やだ……っ」
なおも駄々をこねようとすると。
北斗は僕に唇を寄せて、額にキスを落とした。
それは、そよ風に撫でられたような微かなぬくもりで、一瞬で離れていってしまう。
「俺はお前を愛してる。
だから、ずっと見守っている」
そう言って、明るい光のほうへ去っていってしまった。
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