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第四章:The Catcher in the "Lie"
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しおりを挟む「“自分が水無月であると知られると、不都合なことが起きる”。
ではなく、“それを知られること自体が不都合”だったらどうでしょうか。
彼が、そう考えていたとしたら」
「どういう意味……?」
尋ねながらも、ミフユはどこかで腑に落ちていた。
「遥斗さんは、今の仕事が天職だって言ってたんです。
もし極道よりも先にホストをやっていたら、組になんて入らなかったかもって……。
あの人にとってそれだけ【EDEN】という居場所は大切なんだってことだと思います。だとすると」
「じつはヤクザですなんて明かされたら、今ほどお客は集まらないかもね」
それに、キャメロンたちが『テレビでも見かける』とはしゃいでいた。メディアは反社の人間を歓迎はしない。
だから水無月は、自分の秘密を知る者を炙り出すことにこだわるのだ。
自分がヤクザだと知られること、それ自体が不都合だから。
そう考えると、竹下という影武者を立てていたことにも合点がいく。
実際の仕事は水無月本人が行うにせよ、名義さえ竹下に貸しておけば、自分は遥斗として自由に振る舞える。
極道という本当の顔を隠したい心理。
それは、長年『ヤクザの如月美冬』という過去を伏せ続けて、もっと前には『伊吹の親友』を演じていたミフユには分かる。
長い間『千場晃博』という少年のふりをしていたアキもそうだ。
「あの人がいま一番恐れていることは、薬の取引が潰れることでも、師走さんたちと揉めることでもなくて――世間に水無月だとバレて、遥斗の顔を失うことなのかもしれません」
「……それだわ」
だから、竹下は水無月に撃たれたのだ。
あのとき水無月は、同じ組の者を殺めることよりも、遥斗の正体が伊吹たちにバレることの方が問題だった。
彩極の組長がどのくらい状況を把握しているかは知れないが、遥斗が【禁じられた果実】の売買で巨額の金を生んでいたのは間違いない。
彼が利益を生み出す以上は、上層部も多少のわがままには目を瞑るかもしれなかった。
あの男の目論見が見えないのは当然だ。
水無月は、自分の感情で動いているのだから。
「じゃあ、あいつを潰すことができれば」
ようやく相手の目的が分かった今、すべきことがはっきりした。
【禁じられた果実】は水無月がそのほとんどを手配しているらしい。おそらくは中国マフィアとの取引も彼が先導していることだろう。
ならば、彼が潰れたときに彩極のトップがとる態度はおおよそ想像がつく。
――蜥蜴のしっぽ切りだ。
『これはうちの馬鹿な組員が独断でやったことで、彩極組は関知していない。
鳳凰組のシマを荒らすつもりもなかったので、ぜひ償いたい。きちんとケジメをつけさせてほしい』
と、水無月の首を差し出すはずだ。
すべて承知していたと認めてこちらと全面抗争する選択肢もあるが、鳳凰組はクスリをご法度としているため、彩極の情報を簡単に警察へ流すことができる。
そうなれば、司法が介入してくる。
暴力団の取り締まりが厳格化している昨今、警察は喜んで彩極組長を捕まえにくるだろう。
だから向こうとしてはここで鳳凰と抗争するよりも、水無月ひとりを生け贄にしたほうが得なのだ。
(水無月のやり方にはこうなるリスクがあったのを、彩極の連中は知ってたはず。
だから、水無月以外の幹部は今回出てこない)
つまり、的は水無月に絞られた。
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