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第四章:The Catcher in the "Lie"
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「ここで引かねぇなら、お前の素性を公開する!」
伊吹の蹴りを軽い身のこなしでかわしていた水無月が、一瞬動きを止めた。
だが、飛んできた右フックを難なくかわし、せせら笑う。
「勝手にすればいい、ここでお前らを殺せば済む話だ」
ミフユはチ、と小さく舌を打った。水無月の弱点は間違いなく、彼の正体そのものだ。
ならばそれを『何も知らないお前の客に広める』と脅すことで交渉材料になるのではないかと思っていたが――水無月ははなから自分たちを生きて返すつもりなどない。一度交戦が始まったのなら、もう交渉しようもなかった。
そこへ、
「また引っ掻き回してくれますネェ」
「ゲッ……」
角刈りの偉丈夫が現れて、ミフユは顔を引き攣らせた。
(来やがった)
「ン?」と声を上げた偉丈夫は、ミフユの姿を見てニタリと笑う。
「オヤ、いつぞやのレディボーイ。今日は男の格好ですか。
あれで少しは懲りてまともに生きる覚悟ができましたカ? まあ――ただ、どちらにせよ服の趣味はワルイネ」
――李だ。
高い頬骨にがっしりとした顎。その精悍な顔に嵌る、野生の獣じみた鋭い瞳を見るだけでその強靭さが窺える。
いま最も見たくなかった顔に、ミフユは引き笑いを浮かべた。
李はその場の状況をざっと見渡したうえで、あらためてこちらに視線を戻す。
「ナルホド。貴方、意外と動けるのネ。それとも水無月サンの部下が使えないのか」
ゆったりとした、けれども隙のない足取りで近付いてきた男は右の拳を左掌にぶつけて打ち鳴らし、太い首をゴキリと回した。
「今日は【禁じられた果実】の引き渡しのために来たのにネェ。肉体労働させられるの、不本意デスヨ」
狙撃事件のときにいた仲間の黒服は、今日のところは二人しか連れていなかった。あくまで最低限の身辺警護に充てていたのだろう。
「ま、貴方相手ならワタシ、さほど手こずらないヨ。何度やっても結果は同じ。ワタシが勝者で貴方は負け犬ネ」
「ゴリラ、鳥ときて次は犬ね。じゃあさしずめアンタは鬼ってとこかしら」
桃太郎の話は通じなかったらしく李は訝しげな顔をしたが、わざわざ教えてはやらず、互いの戦力を計った。
数が少ないのは僥倖だが、この男一人で他の数人分には匹敵する。
対してこちらは伊吹の助力は望めず、すでに疲労が蓄積しているミフユ一人で相手をしなければならない。
不利な形勢だったが――ミフユが危機感を覚えたのは一瞬のことで、血に塗れた顔に挑戦的な笑みを浮かべた。
「ちょうどよかった。てめえには借りがあったんでな」
「ほう?」
面白そうにしながら拳法の構えをとる李に、ミフユは笑んだまま強く拳を握り締めた。
「アンタ、一回ぶっ潰さなきゃ気が済まないわ」
伊吹の蹴りを軽い身のこなしでかわしていた水無月が、一瞬動きを止めた。
だが、飛んできた右フックを難なくかわし、せせら笑う。
「勝手にすればいい、ここでお前らを殺せば済む話だ」
ミフユはチ、と小さく舌を打った。水無月の弱点は間違いなく、彼の正体そのものだ。
ならばそれを『何も知らないお前の客に広める』と脅すことで交渉材料になるのではないかと思っていたが――水無月ははなから自分たちを生きて返すつもりなどない。一度交戦が始まったのなら、もう交渉しようもなかった。
そこへ、
「また引っ掻き回してくれますネェ」
「ゲッ……」
角刈りの偉丈夫が現れて、ミフユは顔を引き攣らせた。
(来やがった)
「ン?」と声を上げた偉丈夫は、ミフユの姿を見てニタリと笑う。
「オヤ、いつぞやのレディボーイ。今日は男の格好ですか。
あれで少しは懲りてまともに生きる覚悟ができましたカ? まあ――ただ、どちらにせよ服の趣味はワルイネ」
――李だ。
高い頬骨にがっしりとした顎。その精悍な顔に嵌る、野生の獣じみた鋭い瞳を見るだけでその強靭さが窺える。
いま最も見たくなかった顔に、ミフユは引き笑いを浮かべた。
李はその場の状況をざっと見渡したうえで、あらためてこちらに視線を戻す。
「ナルホド。貴方、意外と動けるのネ。それとも水無月サンの部下が使えないのか」
ゆったりとした、けれども隙のない足取りで近付いてきた男は右の拳を左掌にぶつけて打ち鳴らし、太い首をゴキリと回した。
「今日は【禁じられた果実】の引き渡しのために来たのにネェ。肉体労働させられるの、不本意デスヨ」
狙撃事件のときにいた仲間の黒服は、今日のところは二人しか連れていなかった。あくまで最低限の身辺警護に充てていたのだろう。
「ま、貴方相手ならワタシ、さほど手こずらないヨ。何度やっても結果は同じ。ワタシが勝者で貴方は負け犬ネ」
「ゴリラ、鳥ときて次は犬ね。じゃあさしずめアンタは鬼ってとこかしら」
桃太郎の話は通じなかったらしく李は訝しげな顔をしたが、わざわざ教えてはやらず、互いの戦力を計った。
数が少ないのは僥倖だが、この男一人で他の数人分には匹敵する。
対してこちらは伊吹の助力は望めず、すでに疲労が蓄積しているミフユ一人で相手をしなければならない。
不利な形勢だったが――ミフユが危機感を覚えたのは一瞬のことで、血に塗れた顔に挑戦的な笑みを浮かべた。
「ちょうどよかった。てめえには借りがあったんでな」
「ほう?」
面白そうにしながら拳法の構えをとる李に、ミフユは笑んだまま強く拳を握り締めた。
「アンタ、一回ぶっ潰さなきゃ気が済まないわ」
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