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7 ジュード・アーミステッド
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フィオナははじめ、ジュードにキャロルのことを相談するつもりはなかった。
いくら王都へ来るたびフィオナに妻になってほしいと言ってくる御人でも、ジュードは大貴族の子息。爵位は違えど同じ貴族という枠内の屋敷で起こった身内の不審死を、相談できるとも思えなかった。
フィオナは、こうなったらメイドとしてアレクシス邸へ潜り込み、キャロルのことを探るしかないと考えるようになっていた。
両親は塞ぎ込んだままで、フィオナが潜入の決意を固めた頃、ジュードは、どこからかキャロルのことを嗅ぎつけてきた。
「よかったら相談にのるよ」
決して押し付けがましくなく、そっといたわるような物言いに、フィオナはこらえていたものが崩壊した。気がつけばキャロルの死を知らせる1枚の書面が来たところから一気にジュードに話していた。
最後まで聞き終えたジュードは、しばらくじっと一点を見つめ考え事をしていたが、フィオナの視線に気が付き、ふっと微笑んだ。
「大変だったね。君の気持ちは痛いほど伝わったよ」
そのまま手を伸ばすと、長い指でくしゃっとフィオナの髪を撫でた。
「それに、君がいま考えていることもわかるよ。アレクシス邸へメイドとして潜入しようとしているだろう」
見事に言い当てられた。止められるのだろうかと思ったが、ジュードは
「止めやしないよ。君の納得の行くまでやるといい。ただそれは今すぐじゃない。そうだな、あと一月。メイドとして働きに行くのはあと一月待て。いいね?」
「あの、それはどうして?」
「君ひとりをそんな危険な場所に放り込むわけにはいかない。それとなく君を見守れるよう、私の手の者をその前に潜入させる。そのための準備期間だ」
「それは心強いけれど…。そんなことまでしてもらうなんて…」
公爵子息に払えるような対価はない。
「そんな怯えた目をしなくても大丈夫だ。この件で君に見返りを求めたりしない。それではフェアじゃないからね」
「でも、それではジュード様には何の益もありません」
「そんなこと、気にしなくていいんだけどね。君の役に立てれば私はそれでいいんだよ。でも、そうだな。君がそれでもと気にするなら、この件が落ち着いたら私とのことを真剣に考えると約束してくれないか?」
「わたしなんかジュード様のお相手にふさわしくありません。ほかにもっと―――」
「―――私は君がいいんだ。そうずっと言っているつもりだけれど伝わっていなかったかい? 君に妻になってほしいというのは、嘘じゃない。君は私が冗談で言っていると思っているだろう?」
「それは、その…」
全くその通りだ。そんな考えまで読まれている。
「わかってるさ。君がそう思うのも無理はないとね。ただ、毎回冗談だと思われるのは、それはそれで私もつらい。こちらは大真面目の本気なんでね。そうでなければ王都へ来るたび足しげく通ったりしない。だからこの件が落ち着いたなら私とのことを真剣に考えると約束してくれないか?」
受け入れろ、ではなく考えてほしい。
貴族でありながら平民のフィオナに対して居丈高な態度は決してとらない。考えた末、お断りしてもジュードはきっとすんなり身を引いてくれるに違いない…。
フィオナに否やはなかった。ジュードの条件をのんでも、フィオナに損は一つもない。それに一人で潜入するのは、正直怖かった。ジュードが後ろ盾となって見守ってくれるのなら、これほど心強いことはない。
フィオナはジュードとの約束通り、約一月の後にアレクシス邸のメイドとなった。
誰がジュードの送り込んだ「味方」なのか。ジュードは教えてくれなかった。その代わり、頻繁に「兄」宛で手紙を書くようフィオナに提案した。
「メイドの手紙は、メイド長ベラのところで検閲されるから、屋敷内の、特に主人アレクシスの名は出してはいけないよ。私のところまで届かなくなってしまうからね」
アレクシス・コールドウェルは秘密主義だ。内々のことが外に漏れ出ることを嫌う。
アレクシスのことをよく知っているかのようなジュードの口ぶりだ。同じ貴族なのだから、顔を合わせることもあるのだろう。フィオナがそう言うと、
「向こうは私の顔は知らないかもしれないがね。私は君の知っている通り、辺境伯なのでね。王都にはたまにしか顔を出さないから、私の顔を知らない者は大勢いるさ」
ジュードはそう言ったが、人の目を引き付ける容姿の持ち主が、こっそりと王都を出入りできているとは思えない。本人が思う以上に、ジュードの顔を知る者は多いのではないか。フィオナはジュードの端正な顔を見上げながら、密かに考えた。
「手紙での決まり事を作っておこうか。私は君のことはフィオナと呼び捨てに、君は私のことはお兄様と書くと良い。あとはそうだな―――」
ジュードはアレクシス邸内の大まかな人物たちを紙に書き出していった。
アレクシス・コールドウェル 黒
アレクシス・アンジェリカ 紫
コリン・コールドウェル 猫
ベラ メイド長 赤
ルーカス執事 茶
ケイシー メイド ピンク
ピーター 庭師 白
シンディー メイド 黄
セシリア メイド うさぎ
クリス 料理人 つばめ
「いつも君に監視が付くよう手配したが、君も自分から危険な真似はしないようにね。君のことは必ず私が守る」
ジュードとの約束通り、フィオナはメイドとして潜入してから欠かさず「兄」宛てで手紙をしたためた。
潜入してから三月経つが芳しい情報も得られぬまま、日々メイドとしての仕事をこなす毎日。ジュードへの手紙を書いたり読んだりする時間は、今のフィオナの支えだった。
いくら王都へ来るたびフィオナに妻になってほしいと言ってくる御人でも、ジュードは大貴族の子息。爵位は違えど同じ貴族という枠内の屋敷で起こった身内の不審死を、相談できるとも思えなかった。
フィオナは、こうなったらメイドとしてアレクシス邸へ潜り込み、キャロルのことを探るしかないと考えるようになっていた。
両親は塞ぎ込んだままで、フィオナが潜入の決意を固めた頃、ジュードは、どこからかキャロルのことを嗅ぎつけてきた。
「よかったら相談にのるよ」
決して押し付けがましくなく、そっといたわるような物言いに、フィオナはこらえていたものが崩壊した。気がつけばキャロルの死を知らせる1枚の書面が来たところから一気にジュードに話していた。
最後まで聞き終えたジュードは、しばらくじっと一点を見つめ考え事をしていたが、フィオナの視線に気が付き、ふっと微笑んだ。
「大変だったね。君の気持ちは痛いほど伝わったよ」
そのまま手を伸ばすと、長い指でくしゃっとフィオナの髪を撫でた。
「それに、君がいま考えていることもわかるよ。アレクシス邸へメイドとして潜入しようとしているだろう」
見事に言い当てられた。止められるのだろうかと思ったが、ジュードは
「止めやしないよ。君の納得の行くまでやるといい。ただそれは今すぐじゃない。そうだな、あと一月。メイドとして働きに行くのはあと一月待て。いいね?」
「あの、それはどうして?」
「君ひとりをそんな危険な場所に放り込むわけにはいかない。それとなく君を見守れるよう、私の手の者をその前に潜入させる。そのための準備期間だ」
「それは心強いけれど…。そんなことまでしてもらうなんて…」
公爵子息に払えるような対価はない。
「そんな怯えた目をしなくても大丈夫だ。この件で君に見返りを求めたりしない。それではフェアじゃないからね」
「でも、それではジュード様には何の益もありません」
「そんなこと、気にしなくていいんだけどね。君の役に立てれば私はそれでいいんだよ。でも、そうだな。君がそれでもと気にするなら、この件が落ち着いたら私とのことを真剣に考えると約束してくれないか?」
「わたしなんかジュード様のお相手にふさわしくありません。ほかにもっと―――」
「―――私は君がいいんだ。そうずっと言っているつもりだけれど伝わっていなかったかい? 君に妻になってほしいというのは、嘘じゃない。君は私が冗談で言っていると思っているだろう?」
「それは、その…」
全くその通りだ。そんな考えまで読まれている。
「わかってるさ。君がそう思うのも無理はないとね。ただ、毎回冗談だと思われるのは、それはそれで私もつらい。こちらは大真面目の本気なんでね。そうでなければ王都へ来るたび足しげく通ったりしない。だからこの件が落ち着いたなら私とのことを真剣に考えると約束してくれないか?」
受け入れろ、ではなく考えてほしい。
貴族でありながら平民のフィオナに対して居丈高な態度は決してとらない。考えた末、お断りしてもジュードはきっとすんなり身を引いてくれるに違いない…。
フィオナに否やはなかった。ジュードの条件をのんでも、フィオナに損は一つもない。それに一人で潜入するのは、正直怖かった。ジュードが後ろ盾となって見守ってくれるのなら、これほど心強いことはない。
フィオナはジュードとの約束通り、約一月の後にアレクシス邸のメイドとなった。
誰がジュードの送り込んだ「味方」なのか。ジュードは教えてくれなかった。その代わり、頻繁に「兄」宛で手紙を書くようフィオナに提案した。
「メイドの手紙は、メイド長ベラのところで検閲されるから、屋敷内の、特に主人アレクシスの名は出してはいけないよ。私のところまで届かなくなってしまうからね」
アレクシス・コールドウェルは秘密主義だ。内々のことが外に漏れ出ることを嫌う。
アレクシスのことをよく知っているかのようなジュードの口ぶりだ。同じ貴族なのだから、顔を合わせることもあるのだろう。フィオナがそう言うと、
「向こうは私の顔は知らないかもしれないがね。私は君の知っている通り、辺境伯なのでね。王都にはたまにしか顔を出さないから、私の顔を知らない者は大勢いるさ」
ジュードはそう言ったが、人の目を引き付ける容姿の持ち主が、こっそりと王都を出入りできているとは思えない。本人が思う以上に、ジュードの顔を知る者は多いのではないか。フィオナはジュードの端正な顔を見上げながら、密かに考えた。
「手紙での決まり事を作っておこうか。私は君のことはフィオナと呼び捨てに、君は私のことはお兄様と書くと良い。あとはそうだな―――」
ジュードはアレクシス邸内の大まかな人物たちを紙に書き出していった。
アレクシス・コールドウェル 黒
アレクシス・アンジェリカ 紫
コリン・コールドウェル 猫
ベラ メイド長 赤
ルーカス執事 茶
ケイシー メイド ピンク
ピーター 庭師 白
シンディー メイド 黄
セシリア メイド うさぎ
クリス 料理人 つばめ
「いつも君に監視が付くよう手配したが、君も自分から危険な真似はしないようにね。君のことは必ず私が守る」
ジュードとの約束通り、フィオナはメイドとして潜入してから欠かさず「兄」宛てで手紙をしたためた。
潜入してから三月経つが芳しい情報も得られぬまま、日々メイドとしての仕事をこなす毎日。ジュードへの手紙を書いたり読んだりする時間は、今のフィオナの支えだった。
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