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Episode#01 私がいる

#02 秘密のアプリ

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 一階に降りるとダイニングに朝ごはんが用意されていて、トーストと炒めたベーコンの良い香りがしてくる。

 「おはよう。遥花。」

 母が皿にパンを並べながら声をかけた。
 「おはようー。ベーコン、美味しそう~」

 「目玉焼きも、もうすぐ出来るからね。」

 「わーい、ありがとう。」
 遥花はそう言うと、冷蔵庫から醤油とマヨネーズを出した。

 「今日もありがと!いただきまーす。」
 いつものように手を合わせて頭を下げると、テーブルの味塩をトーストにパラパラと振っておもむろに、かじりついた。
 溶けたバターに塩っぱさが好きな遥花は目を細める。
  
 あぁ、幸せ~

 そこへ目玉焼きが焼き上がり、お皿に追加される。
 待ってましたと遥花はマヨネーズと醤油を目玉焼きにかけて、黄身を少し崩して混ぜると、箸でちぎってパンの上に乗せた。

 あとは半熟の黄身がトーストに流れた所を、大きな口を開けて全部を一気に味わう。

 野菜とベーコンも少しスピードアップさせて平らげると、ゴクゴクと甘めのコーヒー飲み干して

 「ご馳走さま~!美味しかった~!」

 と皿を流しに下げ、トイレに行って、洗面台で髪を軽くとかし、歯を磨くと用意されているお弁当を猫柄の袋に入れた。


 「おねーちゃん、おはよう~」と妹の彩音が目を擦りながら階段を降りてくる。

 「おはよー!あや昨日、脱いだ服そのままにしてねたでしょー!ちゃんとカゴに出しときなよ~!」

 「うーん、そーだっけー、?」
 と彩音が言い終わらないうちに遥花は
 「行ってきまーす!」とカバンとお弁当袋を持って玄関を後にした。


 ーーーーーーーーーーーーーー


  キーンコーンカーンコーン… 高校の予鈴がなる。
 ざわざわと教室が賑わうお昼の時間。

 「ねぇ。まひろと矢上が付き合ってるって~、」
 「えぇ?矢上って独身だったの?」
 「でもあの二人、10歳以上離れてるよねぇ、、」
 「無いわ~、アタシだったら他の若い人探すよ~、なんでよりによって、、矢上?」

 まひろ先生はこの一組の担任の教師で、矢上先生は三組の担任教師である。
 
 「教師って出会う時間もお金も無くて、やっぱり職場で見つけるしかなくなるのかなぁ~」と何でもハッキリ言っちゃうタイプの理恵が言う。
 「ちょっと、その言い方は、、、」と遥花が口を挟む。
 「えー、ちょっと、私、教職志望なんですけど~?」と美帆子が机にうなだれた。

 皆一様に、机にお弁当を広げながら話は続く。

 「でもさ、矢上先生は堅実で安定感はあるんじゃない?」遥花が箸で唐揚げを摘みながら言う。
 「安定した生活を望むなら、結婚には、有りなのかなー?」
 と言いながらも悩む様子の美帆子。
 「えー?地味だよ地味!絶対。もうちょっと顔が良ければなぁ、、、」と理恵はウインナーを頬張った。

 お弁当を食べながらそんな他愛もない話をしていると、美帆子の携帯のバイブが鳴る。携帯を手に取ると美帆子は左手でメッセージを打ち始めた。
 
 「美帆子、それって惑星の何とかってアプリ?」と理恵がモグモグしながら聞く。

 「うん、呟きアプリだよ。最近ハマってる。」と美帆子が食べていた卵焼きを飲み込んで話す。

 「出会い系とかとは違うの?」と続けて理恵。

 「知らない人とメッセージのやり取りは楽しいけど、まず会うことは無いかな~、怖いもん。」美帆子はメールの送信を済ませると携帯をポケットにしまってお弁当の続きのおにぎりを食べた。

 「遥花は?そうの使わないの?」
 美帆子にそう聞かれて、
 「うーん、、沢山あって、良くわからないかな?」と遥花は咄嗟に答える。

 「そうなんだよねー、呟くこともそんなにないしねぇ。、、」と理恵。

 「それより見てよ、最近のあたしの推し!」
 そう言うと理恵は自分のスマホ画面を唐突に見せる。
 
 「ハニマイだ、好きだねー。」美帆子は少し冷めた様子で理恵の熱狂ぶりを見ている。
 遥花もハニーマイクドッツだっけ?声優さんのグループ名かな?ぐらいの知識しか無いので、誰が誰なのかまでは全く分からずに、同じく距離を置いて理恵を見守っている状況。

 まぁ、ハマってるものがそれぞれあると楽しいよね。

 理恵が一人で盛り上がっているが、お弁当を食べ終わってしまった遥花は、「ちょっと先トイレ行ってくる」と早々に席を立った。



 トイレの個室に入った遥花は急いで、スマホの『時間の迷宮』のアプリを立ち上げる。

 画面は立ち上がるが、相変わらず ーーーメンテナンス中ーーー の文字が出たと思ったら、すぐにスマホのホーム画面に戻ってしまう。

 やっぱりダメかぁ。
 はぁ、、とため息をついた。

 ふとみんなとの話を思い出す。

 美帆子『惑星の呟き』アプリやってたんだ。
 それは遥花がしてるのと似たアプリで、以前やってみようか迷ったものだった。

 でも、実際に呟きアプリやってるって、私だったら言いたくないって思う。
 もしやってるって友達に知られたら、本音が呟けなくなりそうだからだ。ーーーだからさっきは咄嗟に知らないって誤魔化しちゃったんだよね。


 そう自分の考えを整理し終えると、遥花はスマホをポケットにしまってトイレから出ていった。


   
 

 
  
 


 
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