1 / 6
プロローグ
しおりを挟む「もう! お兄ちゃん! また私の話聞いてないでしょ!」
そう言って目の前の少女は頬を膨らませながらとうとう俺の手からテキストを引きはがした。
「ああ、ごめんごめん。でもお兄ちゃんだって期末考査が近いんだよ」
言葉尻を弱めながら弁解の言葉を述べてみるが、それでも少女の表情は緩まない。それどころか、あからさまに眉間にしわを寄せ終始こちらを睨みつけてくる。
休日の昼下がり、期末考査を再来週に控えた俺は今まさに勉強に明け暮れている最中だった。
……なのに、どうしてこうなったのか。
うちの両親は共働きで、家に帰宅するのは時計の針も十二時を回る頃だ。そのため、六歳下の妹の面倒を見るのは俺ぐらいしかいなかった。
だとしてもテスト前くらいはさすが一人にさせてほしい……なんて、いつも疲労困憊といったような姿で帰ってくる両親にはそんなこと、口が裂けても言えない。
それでも親は親なりに子供のことを考えているのか。両親は妹のために度々ゲームを買って与えていた。
……ゲームを与えても教育にはあまり良い影響はないような気がするが……。まあこの際、それは置いといて。
しばらくして、ついにいたたまれなくなった俺はしょうがないなぁという心の声を漏らすことなく、ペンをテーブルに置いた。
そして手を挙げて降参のポーズをとる。
すると少女……もとい妹はパッと花が咲いたように顔を綻ばせた。
妹は今現在、とあるゲームにハマっている。
そのゲームのタイトルは『白薔薇の君に焦がれて』。
このゲームは所謂、乙女ゲームというやつで、簡単に言えば主人公の女の子が攻略対象であるイケメンと仲を深め、最終的には結ばれることを目指すといった女性向け恋愛ゲームである。
妹は今までにもいくつかの乙女ゲームをプレイしてきているようだが、このゲーム……通称『白バラ』にハマりこむ様子は尋常じゃなかった。
一週間ほど前から大量のグッズを買い込み、メルヘンな女の子らしかった妹の部屋は、すでにオタクのそれと同じだ。昨日見たときは祭壇まであった気がする……。
加えて自宅での唯一の話し相手である俺に、おはようからおやすみの挨拶も忘れてゲームについて語りだすほどだ。
話を聞く限りゲームだって詳しくない、ましてや男の俺には女性向け恋愛ゲームなんてよくわからない部分も多かったが、それでもキャラクターの名前やストーリーなどを覚えてしまうほどに妹は延々と話してくる。
そんなわけで妹は今も、俺が勉強している場を占拠し『白バラ』について語っていた。
父さん、母さん。期末考査の結果は期待しないでください。
「お兄ちゃん聞いてる?」
物思いに耽っている間に、話が進んでいたようだ。
「聞いてる聞いてる。第二王子の話だろ?」
「ちがうー! エセルバート様の話!」
「ああ。由紀奈はそのキャラ好きなんだっけ?」
「もー! そうだよ! はぁーあ、私も異世界トリップとか転生して、白バラの世界に行けたらなぁ~」
妹よ、またなにかに影響されたのか。
「……そこでやりたいことでもあるのか?」
妹の現状に、痛くなる頭を抱えながら聞く。すると一転、うっとりとした表情がふくれっ面に変わった。
「むー! あるもん! 誰だって一度は憧れの世界に行って恋愛とか、冒険とかしたいじゃん。お兄ちゃんだってそういうのあるでしょ?」
「俺か? いや、俺は――」
――――
――――――
――――――――
1
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる