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第一章 出会い
04. 招かれざる者
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「俺……アレス様のおそばにいたいです」
己が発した言葉に照れてしまった。耳に熱が集まってくる。今の俺はホオズキのように真っ赤な顔をしていることだろう。
でも、大事なことは目を合わせて言わないとダメだ。
俺はアレス様を見上げた。視線が絡み合う。藍色の瞳が熱を帯びている。アレス様もまた、興奮しているようだった。
「では、婚約成立ということでよろしいですか?」
「はい。俺でよかったら……」
アレス様が俺の手を握った。
かくしてこの夜、俺はアレス様の婚約者となった。
◆◆◆
『前略
フィーラン殿、そちらはまだ夏の面影が残る気候でしょうか。ゼガルド領では早くも秋の訪れを感じます。
陽光を照り返す湖はまるで、大地にしつらえられた鏡のようです。
あなたをゼガルド領にご招待したい。野の花が風に揺れ、鳥が空を駆けるのどかな風景をあなたはきっと気に入ってくださることでしょう。
先日は琥珀のペンダントを贈っていただきありがとうございます。とても美しくて、身につけるのが勿体ないぐらいです。あなたの真心が具象化したものだと思って大事に致します。
騎士団の任務や日々の鍛錬は決して楽ではありません。しかし、私は今度あなたに会った時、強い自分をお見せしたい。誠心誠意、励みたいと思います。
私からはゼガルド織のストールを贈らせていただきます。気に入ってくださると嬉しいのですが。これからの季節、体を冷やさずにお過ごしください。
愛と敬意を込めて。
草々』
手紙の末尾に記されたアレス様のサインに俺は指を這わせた。アレス様への気持ちが込み上げてくる。
自室にひとりきりなのをいいことに、俺は口元を緩ませた。
婚約が決まってから、俺とアレス様は文通によって交流を深めていた。
俺はアレス様の深い愛情が詰まった手紙を封筒におさめた。そして白い封筒に軽くキスをした。
ゼガルド織のストールは軽くて、とても暖かかった。こんなに質の高い品を織り上げるだなんて、ゼガルド領の職人さんはすごい。
文箱に封筒をしまうと、自室のドアがノックされた。
「フィーラン。今、大丈夫か?」
レナートの声だった。「どうぞ」と応じると、レナートが部屋の中に駆け込んできた。
「そんなに慌ててどうしたんだ」
「決まったんだよ、縁談!」
「メイユーズ様との?」
「うん!」
俺はレナートを抱き締めた。
メイユーズ様は南部を統治する伯爵家の次男で、強力な魔法の使い手である。レナートは先日行われた舞踏会でメイユーズ様と出会い、恋に落ちた。
メイユーズ様がわが伯爵家に婿入りすることになるらしい。
レナートが誇らしげに微笑んだ。
「僕、世界で一番幸せなオメガになる!」
「レナートらしい言葉だな」
「フィーランはどう? アレス様から手紙が届いていたようだけど」
「ゼガルド織のストールを頂戴した」
「おお! これ? あったかそうだね」
ストールに軽く触れると、レナートがニヤニヤした。
「これがもし服だったら……あとで脱がせるという意味になるんだけどな」
「えっ!? そうなの」
「アレス様、あっちの方が強そうだね。武人だし、ひと晩で三回は余裕で発射しそう」
レナートのあけすけな物言いに、俺は面食らった。
「おまえ、アレス様に失礼だろ! そんな想像をするだなんて」
「だって結婚って、要するにあれをするってことじゃないか」
「そうかもしれないけど……今はまだ、そんなこと考えられないよ!」
「僕は早くメイユーズ様の赤ちゃんが欲しいな」
そう言ったレナートの瞳が潤む。双子の兄の艶っぽい表情に俺は戸惑った。
俺とアレス様も結婚したら、あれをいっぱいするんだろうか。アレス様が俺の秘所を覗き込んだり、舐めたり、指や性器を挿入したりするわけ!?
「フィーラン。おまえ今、ものすごくいやらしい想像をしただろう」
「してない!」
「嘘だ。僕には分かるぞ」
レナートは軽やかに笑った。
「オメガが閨事に積極的だからといって、嫌がるアルファなんていないよ」
「……そうかな?」
「今度、きわどい言葉を綴った手紙を送ってみたら?」
「そんな真似はできない!」
「フィーランは潔癖だなー」
おしゃべりに夢中になっていると、部屋のドアがノックされた。規則正しく刻まれる音。おそらく扉の向こうにいるのは家令のワードナーだ。
「ワードナーか? どうした。入ってくれ」
レナートが促すと、ワードナーが姿を見せた。
「恐れ入ります。旦那様がおふたりにお話があるとのことで、お呼びに参りました」
「話? なんだろう」
「まあ、行ってみようぜ」
俺とレナートはお父様が待つ書斎へと向かった。
書斎のドアは分厚くて、ノックをすると鈍い音が響いた。
「お父様、参りました」
「入りなさい」
一礼して、室内に足を踏み入れる。
書斎に設置された書架には立派な装丁の本がぎっしりと並んでいる。
伯爵家らしい威容を誇るこの部屋の主であるお父様は、沈痛そうな面持ちをしていた。何か悪い知らせがあるのだろうか。
まさか、婚約を破棄されたとか!?
「……レナート、フィーラン。動揺せずに聞いてほしい」
お父様が俺たちに、重々しく告げた。
「魔族との戦争が始まった」
「えっ!? まさか人魔不可侵協定が破られたのですか」
レナートが疑問を呈すると、お父様は目を伏せた。
「ああ。アレス殿とメイユーズ殿はおそらく戦争に駆り出されることになるだろう」
「そんな……っ!」
レナートが顔面蒼白になる。
俺はレナートの体を支えた。俺たち兄弟の肩は、真冬の荒野に放り出された迷子のように震えていた。
己が発した言葉に照れてしまった。耳に熱が集まってくる。今の俺はホオズキのように真っ赤な顔をしていることだろう。
でも、大事なことは目を合わせて言わないとダメだ。
俺はアレス様を見上げた。視線が絡み合う。藍色の瞳が熱を帯びている。アレス様もまた、興奮しているようだった。
「では、婚約成立ということでよろしいですか?」
「はい。俺でよかったら……」
アレス様が俺の手を握った。
かくしてこの夜、俺はアレス様の婚約者となった。
◆◆◆
『前略
フィーラン殿、そちらはまだ夏の面影が残る気候でしょうか。ゼガルド領では早くも秋の訪れを感じます。
陽光を照り返す湖はまるで、大地にしつらえられた鏡のようです。
あなたをゼガルド領にご招待したい。野の花が風に揺れ、鳥が空を駆けるのどかな風景をあなたはきっと気に入ってくださることでしょう。
先日は琥珀のペンダントを贈っていただきありがとうございます。とても美しくて、身につけるのが勿体ないぐらいです。あなたの真心が具象化したものだと思って大事に致します。
騎士団の任務や日々の鍛錬は決して楽ではありません。しかし、私は今度あなたに会った時、強い自分をお見せしたい。誠心誠意、励みたいと思います。
私からはゼガルド織のストールを贈らせていただきます。気に入ってくださると嬉しいのですが。これからの季節、体を冷やさずにお過ごしください。
愛と敬意を込めて。
草々』
手紙の末尾に記されたアレス様のサインに俺は指を這わせた。アレス様への気持ちが込み上げてくる。
自室にひとりきりなのをいいことに、俺は口元を緩ませた。
婚約が決まってから、俺とアレス様は文通によって交流を深めていた。
俺はアレス様の深い愛情が詰まった手紙を封筒におさめた。そして白い封筒に軽くキスをした。
ゼガルド織のストールは軽くて、とても暖かかった。こんなに質の高い品を織り上げるだなんて、ゼガルド領の職人さんはすごい。
文箱に封筒をしまうと、自室のドアがノックされた。
「フィーラン。今、大丈夫か?」
レナートの声だった。「どうぞ」と応じると、レナートが部屋の中に駆け込んできた。
「そんなに慌ててどうしたんだ」
「決まったんだよ、縁談!」
「メイユーズ様との?」
「うん!」
俺はレナートを抱き締めた。
メイユーズ様は南部を統治する伯爵家の次男で、強力な魔法の使い手である。レナートは先日行われた舞踏会でメイユーズ様と出会い、恋に落ちた。
メイユーズ様がわが伯爵家に婿入りすることになるらしい。
レナートが誇らしげに微笑んだ。
「僕、世界で一番幸せなオメガになる!」
「レナートらしい言葉だな」
「フィーランはどう? アレス様から手紙が届いていたようだけど」
「ゼガルド織のストールを頂戴した」
「おお! これ? あったかそうだね」
ストールに軽く触れると、レナートがニヤニヤした。
「これがもし服だったら……あとで脱がせるという意味になるんだけどな」
「えっ!? そうなの」
「アレス様、あっちの方が強そうだね。武人だし、ひと晩で三回は余裕で発射しそう」
レナートのあけすけな物言いに、俺は面食らった。
「おまえ、アレス様に失礼だろ! そんな想像をするだなんて」
「だって結婚って、要するにあれをするってことじゃないか」
「そうかもしれないけど……今はまだ、そんなこと考えられないよ!」
「僕は早くメイユーズ様の赤ちゃんが欲しいな」
そう言ったレナートの瞳が潤む。双子の兄の艶っぽい表情に俺は戸惑った。
俺とアレス様も結婚したら、あれをいっぱいするんだろうか。アレス様が俺の秘所を覗き込んだり、舐めたり、指や性器を挿入したりするわけ!?
「フィーラン。おまえ今、ものすごくいやらしい想像をしただろう」
「してない!」
「嘘だ。僕には分かるぞ」
レナートは軽やかに笑った。
「オメガが閨事に積極的だからといって、嫌がるアルファなんていないよ」
「……そうかな?」
「今度、きわどい言葉を綴った手紙を送ってみたら?」
「そんな真似はできない!」
「フィーランは潔癖だなー」
おしゃべりに夢中になっていると、部屋のドアがノックされた。規則正しく刻まれる音。おそらく扉の向こうにいるのは家令のワードナーだ。
「ワードナーか? どうした。入ってくれ」
レナートが促すと、ワードナーが姿を見せた。
「恐れ入ります。旦那様がおふたりにお話があるとのことで、お呼びに参りました」
「話? なんだろう」
「まあ、行ってみようぜ」
俺とレナートはお父様が待つ書斎へと向かった。
書斎のドアは分厚くて、ノックをすると鈍い音が響いた。
「お父様、参りました」
「入りなさい」
一礼して、室内に足を踏み入れる。
書斎に設置された書架には立派な装丁の本がぎっしりと並んでいる。
伯爵家らしい威容を誇るこの部屋の主であるお父様は、沈痛そうな面持ちをしていた。何か悪い知らせがあるのだろうか。
まさか、婚約を破棄されたとか!?
「……レナート、フィーラン。動揺せずに聞いてほしい」
お父様が俺たちに、重々しく告げた。
「魔族との戦争が始まった」
「えっ!? まさか人魔不可侵協定が破られたのですか」
レナートが疑問を呈すると、お父様は目を伏せた。
「ああ。アレス殿とメイユーズ殿はおそらく戦争に駆り出されることになるだろう」
「そんな……っ!」
レナートが顔面蒼白になる。
俺はレナートの体を支えた。俺たち兄弟の肩は、真冬の荒野に放り出された迷子のように震えていた。
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