【完結】新婚のオメガですが、旦那様が処女厨のため抱いてもらえません!

古井重箱

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第一章 出会い

03. まさかの展開

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 バルコニーに出ると、春の朧月が夜空を淡く照らしていた。
 新鮮な空気を肺に取り込み、気分をリフレッシュさせる。俺がくつろいだ表情になると、かたわらに立っていたアレス様が「よかった」と微笑んだ。

「せっかくの舞踏会です。フィーラン殿には楽しい思い出を作っていただきたい」
「……アレス様のことをもっと知りたいな。ゼガルド領では父君の仕事を手伝っておられるのですか?」
「そうですね。騎士団の運営を任されております」
「あの……失礼ですがご年齢は?」
「今年の夏、二十一歳になります」

 若くして騎士団の指揮を執っているのか。チラリとアレス様の上腕を盗み見る。雄々しく盛り上がっていて、見るからに腕っぷしが強そうだ。

「フィーラン殿は? ノヴィス領でどのようにお過ごしなのですか」
「母の後ろにくっついて、孤児院を訪問しています。貴族のツラなんて見たくないって拒絶されることもあるけど、なんとか続けてます」
「左様ですか。私の母も活動的で、町の織物工場や救貧院に出入りしていますよ」 

 アレス様が微笑む。
 キリッとしているお顔に甘さが加わって、なんというか最高だ。この笑顔を独り占めしたくなってしまう。
 周囲から視線を感じた。
 令嬢たちがアレス様をじっと見つめている。扇で隠れているため、彼女たちの口元は分からない。ただ、ひそひそと囁く声が聞こえた。

「ゼガルド辺境伯のご嫡男は、随分と変わったご趣味をお持ちのようですわね」
「本当。あんなベータみたいなオメガのどこがいいのかしら」

 俺の心は沈んだ。
 そうだよな、みんなそう思うよな。俺は骨太で、ベータとそう変わらない体格をしている。顔立ちだって花に例えられるような可憐さは無い。
 うつむきかけた俺の肩にアレス様が触れた。トンと軽くタッチされただけで夢心地になってしまう。

「なぜそんなに悲しそうな表情をしているのですか? 私といるのがお嫌ですか」
「まさか! すごく嬉しいです。ただ、周りの人が言うとおり、俺はアレス様には不釣り合いだなあって思って」
「私は遊び相手を見繕いに来たわけではありません。わがゼガルド領の未来をともに作ってくれる伴侶を探しているのです」

 アレス様はひざまずくと、俺の手の甲に軽くキスをした。アレス様の唇は震えていた。耳たぶも赤くなっている。アレス様にとってこのキスは大きな意味を持つことがうかがえた。

「国王陛下の前で歌を披露する度胸。イルギノ様の卑劣な行いに屈しない強さ。フィーラン殿、私はあなたに心を射抜かれました」
「えっ? 俺には双子の兄がいて、そいつの方が華奢で可愛いですよ」
「……あなたがいいんです」

 じっと訴えかけるような視線を向けられて、俺の鼓動は高鳴った。アレス様は一夜限りの遊び相手を探しているわけではない。
 でも、俺なんかが伴侶で本当にいいのかな? 俺はオメガらしい中性的な容姿ではない。アレス様は男そのものな見た目をしている俺に、欲情できるのだろうか?

「唇にキスをしないと信じてもらえませんか?」
「あっ、あの、アレス様! 俺、突然のことなので心の準備が……」
「恥じらうあなたも可愛らしいですね」
「からかわないでくださいっ」

 アレス様が俺の手を取った。
 
「一緒に踊ってくださいませんか?」
「……はい」

 俺たちは大広間に戻った。
 管弦楽団が新たな曲を演奏し始めたタイミングで、俺とアレス様は輪舞曲を踊った。
 ステップを刻んでいるうちに呼吸が弾んだ。アレス様のリードはとても紳士的で、ダンスがそこまで得意ではない俺でも楽しむことができた。
 何よりも至近距離で浴びるアレス様の視線といったら。俺のことが愛おしくてたまらないという風にとろけている。誰かからこういった目を向けられるのは初めてなので、俺は嬉しさよりも戸惑いがまさった。
 最後のターンを決めようと思った瞬間、女性の悲鳴が聞こえた。

「痛いっ!」

 フロアにいた令嬢がその場にかがみ込んでいる。足を押さえているところを見ると、靴擦れを起こしたのだろう。女物の靴は窮屈にできていることが多い。
 俺はアレス様に一礼すると、令嬢のもとに近づいた。

「足を痛めてしまわれたのですか」
「はい……。履き慣れない靴で踊ったから……」
「光の神よ、俺に力を」

 聖句がトリガーとなって、俺の手の甲に聖紋が浮かんだ。白い光が俺を包み込む。

「憂いよ去れ。人の子に憐れみを」

 賛美歌を歌い上げると、令嬢の表情が晴れていった。

「……痛みが引きましたわ」
「それはよかったです」
「見ず知らずのわたくしのために魔法を使っていただいてありがとうございます」
「困っている方を放ってはおけません」

 神々からの授かり物である魔法は無限に使えるわけではない。
 魔法を発動させるには、祈りの時間を積み重ねる必要がある。聖職者ではない一般人の場合、魔法を使えるのは一日につき、およそ三回までだ。
 令嬢は深々とお辞儀をして、パートナーと一緒に隣の部屋へと去っていった。

「フィーラン殿も魔法を使えるのですね」
「はい。賛美歌を歌うことによって、傷や疲労を癒すことができます」

 大広間に集った男性陣が俺に注目している。

「胸に花を挿しているということは、彼はオメガか?」
「ベータと遜色のない体格をしているが……」
「魔法が使えるオメガか。わが血統に欲しい」
「だが、見るからに男らしい容姿がなぁ……」

 アレス様は男性陣をひと睨みすると、俺の背中に腕を回した。
 えっ? これってもしかして、独占欲を発揮しているのか?
 俺は口元が緩んでいった。それに対してアレス様は険しい表情を崩そうとしない。

「ここは目立ちます。バルコニーに戻りましょう」
「はい……」

 バルコニーに向かうと、厳かな空気を纏った男性が俺たちを待っていた。

「私の父、ゼガルド辺境伯です」
「お初にお目にかかります。フィーラン・アレクシスと申します。生家はノヴィス伯爵領を統治しております」
「フィーランくん、初めまして。きみの父君とは貴族院でご一緒しているよ」
「父がお世話になっております」
「アレスよ。見つけたのだな」

 ゼガルド辺境伯の問いかけに対して、アレス様が胸を張って答えた。

「はい。私はフィーラン殿と生涯添い遂げたいです」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は心臓が止まりそうになった。アレス様、俺に本気なんだ……。夢じゃないよな?
 アレス様が俺の手を握った。
 温かなぬくもりが伝わってくる。うん。夢ではない。
 俺はのぼせそうになった顔を、空いている方の手であおいだ。

「フィーラン殿のお返事を聞かせていただけませんか?」

 アレス様が真剣な表情で俺を見つめている。
 俺の答えは……。
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