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第一章 出会い
06. あなたを癒したい
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人間と魔族の戦争が始まった。
俺が住むノヴィス領は、最前線のゼガルド領からは遠い。ゼガルド領のみなさんが善戦してくれているおかげで、ノヴィス領に魔族がやって来ることはなかった。
その代わり、ノヴィス領には他地域の領民が押し寄せるようになった。お父様は簡易式の住居を建て、疎開してきた民を受け入れた。
わがアレクシス家の食卓にのぼる料理は日に日に品数が減っていった。
「レナート、フィーラン。不便をかけるな」
「大丈夫です、お父様。前線にいる方はもっと苦労をされています」
食事を終えた俺は、自室に下がった。
そして湯浴みを済ませてから万象の神々に祈りを捧げた。聖句を唱えるあいだ、俺はアレス様の面影を思い浮かべた。
「その人がきみの想い人なんだね」
精霊が現れて、くすくすと笑った。
「なんで笑うんだ」
「だって彼、死にかけているから」
目の前にビジョンが映し出された。
アレス様が血を吐いて地面に倒れている。魔族の青い血に混じって、鮮血が鎧を赤く染めている。
俺は叫びたくなる衝動を必死で堪えた。
アレス様の周りには魔族の死骸が積み上げられていた。おそらくアレス様は魔族の群れとの戦いに勝ったものの、深手を負ってしまい帰陣できなくなったのだろう。
アレス様が苦しむ姿を看過できない。
俺の頭に血が昇った。精霊の半透明の体に手を突き出す。
「今すぐ癒しの歌を届けたい!」
「じゃあ、喉が擦り切れるぐらい歌っておくれよ」
命じられるがままに、俺は賛美歌を歌った。魔法が発動される。俺は熱を帯びた体を支えることができず、床に膝をついた。荒い息が漏れる。
──癒しの歌よ、アレス様の元に届け!
強く念ずると、ビジョンの中のアレス様が身を起こした。信じられないというような顔で腹部に手を添えている。
「傷が塞がっている……? 誰かが私を助けてくれたのか?」
アレス様があたりを見渡す。
「先ほど歌声が聞こえた……。もしかしてフィーラン殿なのですか?」
「アレス様、俺です! フィーランです」
ビジョンに語りかける。
すると、アレス様が目を見張った。
「フィーラン殿……!」
「立てますか?」
「はい、おかげさまで」
アレス様が微笑んだ。
俺は戦場にいても変わらない柔和な笑顔に胸が締め付けられる思いだった。この方は武人だが、魔族との戦いなんて望んではいない。一日も早く、侵攻が止まればいいのだが……。
「こんな遠隔地に魔法を飛ばすとは。無理をされているんじゃないですか?」
「気にしないでください。協力者を見つけましたから」
「……危ない橋を渡ったわけではないのですね? フィーラン殿の身に何かあったら、私は正気を保てなくなってしまう」
アレス様はご自分の怪我を顧みず、俺の心配ばかりしている。本当に優しい方だな。そういう人だから俺は惚れた。
「フィーラン殿。ノヴィス領は無事ですか」
「はい。疎開してきた人々のための仮住まいを建てているところです」
「ノヴィス領にまで被害が及ばないように、私がここで魔族の侵攻を食い止めます」
「アレス様……」
「ご心配なく。私は人よりも頑丈にできておりますから」
冗談を言って笑わせようとするアレス様の気遣いが嬉しかった。俺は素晴らしい人と婚約したな。
「この戦い、負けるわけにはいきません。平和な世の中を取り戻して、フィーラン殿と祝言をあげたい」
「俺も後方支援、頑張ります!」
触れられる距離にいないのに、アレス様を近く感じる。ふたりが目指しているものが同じだからだろう。
俺たち、両想いなんだな。すごく幸せだ。
喜びを噛み締めていると、荒々しい靴音が聞こえてきた。
「アレス! 無事か!?」
ビジョンに赤毛の若者の姿が映った。
彼がまとっている白銀色に照り輝いている鎧は、胸の部分に王家の紋章が刻まれている。整った顔に見覚えがある。第二王子のエイゼン様だ。肖像画で見るよりもずっと凛々しい。
アレス様はエイゼン様に支えられて闇の中を歩き出した。どうやら帰陣するようだ。
俺はホッと息を吐いた。
アレス様が砦に入り、眠りについた瞬間を見届けた俺は、自室のベッドに倒れ込んだ。肩で息をしながら、枕を抱きしめる。
「あーあ。身の丈以上の魔力を使ったものだから、きみ、ボロボロだね」
「明日もアレス様に歌声を届ける」
「ふうん。それが人間の愛ってやつか。面白いね」
精霊が新しいおもちゃを見つけたかのような楽しげな笑い声を上げた。
俺が住むノヴィス領は、最前線のゼガルド領からは遠い。ゼガルド領のみなさんが善戦してくれているおかげで、ノヴィス領に魔族がやって来ることはなかった。
その代わり、ノヴィス領には他地域の領民が押し寄せるようになった。お父様は簡易式の住居を建て、疎開してきた民を受け入れた。
わがアレクシス家の食卓にのぼる料理は日に日に品数が減っていった。
「レナート、フィーラン。不便をかけるな」
「大丈夫です、お父様。前線にいる方はもっと苦労をされています」
食事を終えた俺は、自室に下がった。
そして湯浴みを済ませてから万象の神々に祈りを捧げた。聖句を唱えるあいだ、俺はアレス様の面影を思い浮かべた。
「その人がきみの想い人なんだね」
精霊が現れて、くすくすと笑った。
「なんで笑うんだ」
「だって彼、死にかけているから」
目の前にビジョンが映し出された。
アレス様が血を吐いて地面に倒れている。魔族の青い血に混じって、鮮血が鎧を赤く染めている。
俺は叫びたくなる衝動を必死で堪えた。
アレス様の周りには魔族の死骸が積み上げられていた。おそらくアレス様は魔族の群れとの戦いに勝ったものの、深手を負ってしまい帰陣できなくなったのだろう。
アレス様が苦しむ姿を看過できない。
俺の頭に血が昇った。精霊の半透明の体に手を突き出す。
「今すぐ癒しの歌を届けたい!」
「じゃあ、喉が擦り切れるぐらい歌っておくれよ」
命じられるがままに、俺は賛美歌を歌った。魔法が発動される。俺は熱を帯びた体を支えることができず、床に膝をついた。荒い息が漏れる。
──癒しの歌よ、アレス様の元に届け!
強く念ずると、ビジョンの中のアレス様が身を起こした。信じられないというような顔で腹部に手を添えている。
「傷が塞がっている……? 誰かが私を助けてくれたのか?」
アレス様があたりを見渡す。
「先ほど歌声が聞こえた……。もしかしてフィーラン殿なのですか?」
「アレス様、俺です! フィーランです」
ビジョンに語りかける。
すると、アレス様が目を見張った。
「フィーラン殿……!」
「立てますか?」
「はい、おかげさまで」
アレス様が微笑んだ。
俺は戦場にいても変わらない柔和な笑顔に胸が締め付けられる思いだった。この方は武人だが、魔族との戦いなんて望んではいない。一日も早く、侵攻が止まればいいのだが……。
「こんな遠隔地に魔法を飛ばすとは。無理をされているんじゃないですか?」
「気にしないでください。協力者を見つけましたから」
「……危ない橋を渡ったわけではないのですね? フィーラン殿の身に何かあったら、私は正気を保てなくなってしまう」
アレス様はご自分の怪我を顧みず、俺の心配ばかりしている。本当に優しい方だな。そういう人だから俺は惚れた。
「フィーラン殿。ノヴィス領は無事ですか」
「はい。疎開してきた人々のための仮住まいを建てているところです」
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「アレス様……」
「ご心配なく。私は人よりも頑丈にできておりますから」
冗談を言って笑わせようとするアレス様の気遣いが嬉しかった。俺は素晴らしい人と婚約したな。
「この戦い、負けるわけにはいきません。平和な世の中を取り戻して、フィーラン殿と祝言をあげたい」
「俺も後方支援、頑張ります!」
触れられる距離にいないのに、アレス様を近く感じる。ふたりが目指しているものが同じだからだろう。
俺たち、両想いなんだな。すごく幸せだ。
喜びを噛み締めていると、荒々しい靴音が聞こえてきた。
「アレス! 無事か!?」
ビジョンに赤毛の若者の姿が映った。
彼がまとっている白銀色に照り輝いている鎧は、胸の部分に王家の紋章が刻まれている。整った顔に見覚えがある。第二王子のエイゼン様だ。肖像画で見るよりもずっと凛々しい。
アレス様はエイゼン様に支えられて闇の中を歩き出した。どうやら帰陣するようだ。
俺はホッと息を吐いた。
アレス様が砦に入り、眠りについた瞬間を見届けた俺は、自室のベッドに倒れ込んだ。肩で息をしながら、枕を抱きしめる。
「あーあ。身の丈以上の魔力を使ったものだから、きみ、ボロボロだね」
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