【完結】新婚のオメガですが、旦那様が処女厨のため抱いてもらえません!

古井重箱

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第一章 出会い

07. 試練

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 昼間はお父様の仕事を手伝い、夜はアレス様に癒しの歌を届けるという日々がかれこれ二週間ほど続いた。
 疲れが溜まってきたのだろう。日中、気を抜くとウトウトしてしまう。濃いめに淹れた紅茶を飲んで、なんとか睡魔をやり過ごした。
 レナートは俺の顔が青白いと言って心配している。

「フィーラン。今夜はアレス様との交信をお休みしたら?」
「嫌だ。アレス様は前線で命を賭けて戦っているんだぞ。なんとしてでも、あの方の力になりたい」
「分かったよ。おまえはこうと決めたら頑固だからな」

 そして、夜になった。
 俺は精霊の力を借りて、アレス様に歌を届けた。精霊が出現させたビジョンにはアレス様が映っている。
 アレス様は砦の一室で、目を閉じて俺の歌に聞き入っていた。
 やがて演奏が終わった時、アレス様が言った。

「フィーラン殿。あなたは私の天使です」
「えっ。俺はそんな大層な者じゃありませんよ」
「いいえ。あなたは毎日、私のために身を削ってくださるでしょう? ありがたいことです……」

 アレス様は傷が癒えたらしくて、表情が明るくなった。アレス様の微笑みを見るだけで苦労が報われた気分になる。

「この戦いが終わったら、あなたをゼガルド領にお迎えしたい」
「俺……湖水地帯を見てみたいです」
「ご案内しますよ。信じて待っていてください。私たちの勝利を」

 ノヴィス領に伝わってきた戦況報告によると、いまのところ人間側がやや優勢らしい。魔王はまだ覚醒しきってはおらず、圧倒的な力を発揮せずにいるのだとか。このまま有利な状況が続けばいいと願わずにはいられない。

「私の天使……。あなたの笑顔を守るために明日も頑張ります」
「アレス様だって、俺の天使ですよ! あなたのことを想うと、力が湧いてくるんです」
「フィーラン殿……」

 ああ、もう。
 アレス様がそばにいたら抱きつくのにな。ふたりを隔てている距離が憎い。
 そう思った時、精霊が俺の耳元で囁いた。

「きみを彼のところに連れて行ってあげようか?」
「そんなことできるのか」
「僕を誰だと思ってるの。精霊だよ」
「じゃあ頼む! 少しだけでいいから、アレス様のいる場所へ……」
「いいよ。欲深い人間くん」

 ちょっと引っかかる物言いだと思ったが、俺は請われるがままに精霊と手のひらを合わせた。すると体が発熱したかのように火照りはじめた。
 俺は光の柱に包まれた。
 その後、しばし間を置いてから白い輝きが収まった。
 俺の視界には誰かの足が映っていた。足? なんで目線がそんなに下にあるんだ? 俺はオメガにしては背が高い方なのに。
 恐るおそる顔を上げる。
 視線の先には俺がいま一番会いたい人がいた。

「アレス様!」

 声を発した瞬間、俺は違和感を覚えた。声がまるでヒキガエルのように潰れている。これでは喋るだけでアレス様に不快感を与えてしまう。
 俺が沈黙していると、精霊が囁いた。

「鏡を見せてあげる」

 精霊の手が発光して、丸い鏡が現れた。鏡に映ったものを見て、俺は固まった。
 そこには一匹のヒキガエルがいた。

「きみたちの愛が本物ならば、このぐらい試練でもなんでもないでしょう?」

 精霊がケタケタと笑う。
 そうだ。こいつには善悪という物差しが通じない。面白いか面白くないかだけで動く、子どものような存在なのだった。精霊はいたずらのつもりで、俺の姿をヒキガエルに変えたのだろう。

「さあ、想い人に癒しの歌を歌ってあげなよ、フィーラン・アレクシス。もっともゲコゲコ、ゲロゲロとしか聞こえないだろうけどね!」

 精霊が高笑いをした。
 アレス様は険しい表情でヒキガエルになった俺を見つめている。

「あなたは……フィーラン殿なのですか?」

 誤魔化しても仕方がない。俺は「はい」と潰れた声で返事をした。
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