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第二章 新婚生活
10. いついかなる時も
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陸路に加えて、運河を渡った。長旅の果てに、俺たち一家はゼガルド領に着いた。
ガルヴァーン家の屋敷を訪ねると、アレス様が出迎えてくれた。魔王討伐に多大な貢献をしたため、アレス様には褒賞として金塊と王家伝来の武具が授与されたという。でも、アレス様をはじめガルヴァーン家のみなさんに驕ったところは感じられなかった。
「フィーラン殿。久しぶりですね。お会いしたかったです……」
アレス様が俺をじっと見つめた。レナートが脇腹をつついてくる。
「再会のキスはしなくていいのか?」
「なっ! 人前でそんなこと……」
「明日の結婚式でどうせキスしなきゃいけないんだからさ。予行演習をしてみたら」
「軽々しくそんな真似ができるかよ!」
俺はレナートの肩を小突いた。アレス様は俺たち兄弟のやりとりを目を細めて見守っている。
「長旅で疲れたでしょう。ゲストルームにご案内しますね」
「アレス様。フィーランはもうアレス様のものなんだから、一緒に眠ったら?」
レナートの提案をアレス様は笑顔で退けた。
「式が終わってからでないと、フィーラン殿に触れることはできません」
「お堅いなあ」
「レナート。アレス様をあまり困らせないでくれ」
「はーい!」
俺たちのやりとりを聞いていたお父様が、アレス様にお辞儀をした。
「息子をよろしくお願い致します」
「お任せください。必ずやフィーラン殿を幸せにします」
アレス様は優しく微笑むと、屋敷の中を案内してくれた。俺たちが泊まるゲストルームは広い館の南側にあった。
「ゆっくりしてください。すぐにお茶を持ってこさせます」
「お構いなく」
ふとした瞬間、アレス様と視線が合うたびに笑顔がこぼれてしまう。俺、アレス様のことが好きすぎてどうにかなりそうだ。
明日の結婚式が終わったら初夜が始まる。アレス様に喜んでこの身を捧げよう。
「お茶をお持ちしました」
ガルヴァーン家のメイドが銀のお盆にティーセットを載せて、俺たちの部屋にやって来た。俺たち一家はありがたくお茶とお菓子をいただいた。
やや傾いた日差しが窓を照らしている。じきに夜がやって来るだろう。
俺は家族との団らんを楽しんだ。
「フィーラン。辛い時にはいつでも帰って来なさい」
お父様が俺に転移石をくれた。瞬間移動ができる魔道具である。
「ありがとうございます。でも、これを使う日は来ないかと思われます」
「そうだな。アレス殿はおまえを大切にしてくれることだろう。だが、万が一ということもある。お守りだと思って、持っておきなさい」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は転移石をポケットにしまった。この石の出番がないことを祈るばかりだ。
◆◆◆
式の当日になった。
朝早く起きた俺はガルヴァーン家のメイドによって花嫁衣装に着替えさせられた。
光沢のある絹のローブ。手足を彩る無数の装飾品。そして花冠。どれをとっても煌びやかで、地味な俺には似合わないのではないかと不安になった。
控え室の鏡の前に立ち、表情を沈ませているとドアがノックされた。
「フィーラン殿。時間です。礼拝堂に参りましょう」
迎えに来てくれたアレス様を見て、俺はほうっと息を吐いた。
上下ともに白い服に身を包んだアレス様はまさに貴公子そのものだった。俺はこんなにかっこいい人と結婚するのか。
「緊張していますか」
「はい、とても……」
アレス様がかたわらに立つと、何やらいい匂いがした。ネロリのように甘くてさっぱりとしている。
「あの……。アレス様は香水をつけておられるのですか?」
「いえ。私は武人ですので、そういったものは使用しません」
「じゃあ、あなたのこの香りは……」
フェロモンというやつだろうか。アレス様は俺の運命の番なんだ。嬉しさのあまり頬が緩んでしまう。
「やっと笑顔が出ましたね」
アレス様に笑いかけられて、俺は嬉しさと恥ずかしさのあまり俯いた。
今夜俺はこの人に抱かれる。
裸を見られて、秘所に指を入れられて。乳首をつままれたり、舐められたりするのだろうか。そして最後にはアレス様の男らしい部分が俺のナカに入ってきて、濃くて熱いものを注がれるのだ。
俺……どうしよう。
日が高いうちからこんなことばかり考えている。
アレス様は俺の脳内でエロ妄想が繰り広げられているとは知らず、慈しむようなまなざしを俺に向けた。や、やめてください! 俺はそんな風に優しくされることに値する人間じゃないです。
「では、礼拝堂に行きましょう」
「はい……」
俺は堂々たる足取りのアレス様のあとをついていった。
礼拝堂に入ると、大きな拍手によって出迎えられた。堂内には左右に会衆席が配置されている。そして、会衆席と会衆席のあいだに祭壇へと至る道が敷かれている。
俺とアレス様は祭壇に向かって歩いていった。
祭壇には恰幅のいい神官がいて、俺たちを笑顔で見守っている。
緊張しながらもなんとか祭壇までたどり着いた。
「これより結婚の儀を執り行います」
神官が朗々と結婚式の始まりを告げた。
結婚は神聖なものであるということを説いたあと、神官は俺とアレス様に誓いの文句を述べるよう促した。
「いついかなる時もフィーラン・アレクシスを愛すると誓います」
アレス様の言葉を聞いて、俺は涙ぐみそうになった。俺たちは人魔戦争という試練を乗り越えて、今日結ばれるんだ。アレス様はヒキガエルになり、潰れた声しか出なくなった俺のことも受け入れてくれた。こんなに情が深い方の伴侶になれるだなんて、俺は何て幸せ者だろう。
「全身全霊を賭けて、アレス・ガルヴァーンを支えます」
「新郎新夫よ。誓いの言葉をゆめ忘れるなかれ。さて、続いては誓いのキスを」
俺の背中にアレス様の腕が回された。大きな手のひらから、アレス様のぬくもりが伝わってくる。俺はそれだけで胸がいっぱいになった。
緊張のあまり、まつ毛と唇が震えてしまう。アレス様はそんな俺の頭を優しく撫でた。
そしてアレス様の美しい顔が近づいてきて、俺はついばむような軽いキスをされた。唇と唇が触れ合っただけなのに瞳が潤んでしまう。俺は心の底からアレス様のことが好きなんだな。
絶対にアレス様と幸せになろう。
卑屈になってしまう時も多々あるけど、アレス様に愛されている自分にもっと自信を持とう。
「これにて結婚の儀は成立しました。参列者は起立してください」
神官がハンドベルを鳴らした。
すると、礼拝堂の鐘もまた荘厳な音を奏でた。参列者から温かい拍手が送られる。
かくして俺とアレス様は夫夫になった。
ガルヴァーン家の屋敷を訪ねると、アレス様が出迎えてくれた。魔王討伐に多大な貢献をしたため、アレス様には褒賞として金塊と王家伝来の武具が授与されたという。でも、アレス様をはじめガルヴァーン家のみなさんに驕ったところは感じられなかった。
「フィーラン殿。久しぶりですね。お会いしたかったです……」
アレス様が俺をじっと見つめた。レナートが脇腹をつついてくる。
「再会のキスはしなくていいのか?」
「なっ! 人前でそんなこと……」
「明日の結婚式でどうせキスしなきゃいけないんだからさ。予行演習をしてみたら」
「軽々しくそんな真似ができるかよ!」
俺はレナートの肩を小突いた。アレス様は俺たち兄弟のやりとりを目を細めて見守っている。
「長旅で疲れたでしょう。ゲストルームにご案内しますね」
「アレス様。フィーランはもうアレス様のものなんだから、一緒に眠ったら?」
レナートの提案をアレス様は笑顔で退けた。
「式が終わってからでないと、フィーラン殿に触れることはできません」
「お堅いなあ」
「レナート。アレス様をあまり困らせないでくれ」
「はーい!」
俺たちのやりとりを聞いていたお父様が、アレス様にお辞儀をした。
「息子をよろしくお願い致します」
「お任せください。必ずやフィーラン殿を幸せにします」
アレス様は優しく微笑むと、屋敷の中を案内してくれた。俺たちが泊まるゲストルームは広い館の南側にあった。
「ゆっくりしてください。すぐにお茶を持ってこさせます」
「お構いなく」
ふとした瞬間、アレス様と視線が合うたびに笑顔がこぼれてしまう。俺、アレス様のことが好きすぎてどうにかなりそうだ。
明日の結婚式が終わったら初夜が始まる。アレス様に喜んでこの身を捧げよう。
「お茶をお持ちしました」
ガルヴァーン家のメイドが銀のお盆にティーセットを載せて、俺たちの部屋にやって来た。俺たち一家はありがたくお茶とお菓子をいただいた。
やや傾いた日差しが窓を照らしている。じきに夜がやって来るだろう。
俺は家族との団らんを楽しんだ。
「フィーラン。辛い時にはいつでも帰って来なさい」
お父様が俺に転移石をくれた。瞬間移動ができる魔道具である。
「ありがとうございます。でも、これを使う日は来ないかと思われます」
「そうだな。アレス殿はおまえを大切にしてくれることだろう。だが、万が一ということもある。お守りだと思って、持っておきなさい」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は転移石をポケットにしまった。この石の出番がないことを祈るばかりだ。
◆◆◆
式の当日になった。
朝早く起きた俺はガルヴァーン家のメイドによって花嫁衣装に着替えさせられた。
光沢のある絹のローブ。手足を彩る無数の装飾品。そして花冠。どれをとっても煌びやかで、地味な俺には似合わないのではないかと不安になった。
控え室の鏡の前に立ち、表情を沈ませているとドアがノックされた。
「フィーラン殿。時間です。礼拝堂に参りましょう」
迎えに来てくれたアレス様を見て、俺はほうっと息を吐いた。
上下ともに白い服に身を包んだアレス様はまさに貴公子そのものだった。俺はこんなにかっこいい人と結婚するのか。
「緊張していますか」
「はい、とても……」
アレス様がかたわらに立つと、何やらいい匂いがした。ネロリのように甘くてさっぱりとしている。
「あの……。アレス様は香水をつけておられるのですか?」
「いえ。私は武人ですので、そういったものは使用しません」
「じゃあ、あなたのこの香りは……」
フェロモンというやつだろうか。アレス様は俺の運命の番なんだ。嬉しさのあまり頬が緩んでしまう。
「やっと笑顔が出ましたね」
アレス様に笑いかけられて、俺は嬉しさと恥ずかしさのあまり俯いた。
今夜俺はこの人に抱かれる。
裸を見られて、秘所に指を入れられて。乳首をつままれたり、舐められたりするのだろうか。そして最後にはアレス様の男らしい部分が俺のナカに入ってきて、濃くて熱いものを注がれるのだ。
俺……どうしよう。
日が高いうちからこんなことばかり考えている。
アレス様は俺の脳内でエロ妄想が繰り広げられているとは知らず、慈しむようなまなざしを俺に向けた。や、やめてください! 俺はそんな風に優しくされることに値する人間じゃないです。
「では、礼拝堂に行きましょう」
「はい……」
俺は堂々たる足取りのアレス様のあとをついていった。
礼拝堂に入ると、大きな拍手によって出迎えられた。堂内には左右に会衆席が配置されている。そして、会衆席と会衆席のあいだに祭壇へと至る道が敷かれている。
俺とアレス様は祭壇に向かって歩いていった。
祭壇には恰幅のいい神官がいて、俺たちを笑顔で見守っている。
緊張しながらもなんとか祭壇までたどり着いた。
「これより結婚の儀を執り行います」
神官が朗々と結婚式の始まりを告げた。
結婚は神聖なものであるということを説いたあと、神官は俺とアレス様に誓いの文句を述べるよう促した。
「いついかなる時もフィーラン・アレクシスを愛すると誓います」
アレス様の言葉を聞いて、俺は涙ぐみそうになった。俺たちは人魔戦争という試練を乗り越えて、今日結ばれるんだ。アレス様はヒキガエルになり、潰れた声しか出なくなった俺のことも受け入れてくれた。こんなに情が深い方の伴侶になれるだなんて、俺は何て幸せ者だろう。
「全身全霊を賭けて、アレス・ガルヴァーンを支えます」
「新郎新夫よ。誓いの言葉をゆめ忘れるなかれ。さて、続いては誓いのキスを」
俺の背中にアレス様の腕が回された。大きな手のひらから、アレス様のぬくもりが伝わってくる。俺はそれだけで胸がいっぱいになった。
緊張のあまり、まつ毛と唇が震えてしまう。アレス様はそんな俺の頭を優しく撫でた。
そしてアレス様の美しい顔が近づいてきて、俺はついばむような軽いキスをされた。唇と唇が触れ合っただけなのに瞳が潤んでしまう。俺は心の底からアレス様のことが好きなんだな。
絶対にアレス様と幸せになろう。
卑屈になってしまう時も多々あるけど、アレス様に愛されている自分にもっと自信を持とう。
「これにて結婚の儀は成立しました。参列者は起立してください」
神官がハンドベルを鳴らした。
すると、礼拝堂の鐘もまた荘厳な音を奏でた。参列者から温かい拍手が送られる。
かくして俺とアレス様は夫夫になった。
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