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第一章 出会い
09. 青空を映す湖水
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「ふハハ。ふははハハっ!」
魔王の高笑いが戦場に鳴り響いた。
アレス様は膝をついて、がっくりとうなだれた。
「痛みト戦っているのカ? そんナ努力は無駄だ。わが眷属トなれば、永遠の命ヲ得られルぞ」
魔王がアレス様の髪を、むんずと掴んだ。
その時のことだった。
光の粒がアレス様の体を包み込み、あたりを白く染めた。突然輝き出したアレス様の体から魔王が離れようとする。
「私が貴様に屈するわけがなかろう!」
アレス様は腰から短剣を引き抜くと、魔王の右眼に切っ先を突き立てた。
ぶちゅりという音がして、魔王の眼球が潰れる。さすがの魔王も痛みには勝てないのか、巨体がわなわなと震えた。
これって、俺が昨晩捧げた加護の歌が効いたってことか?
固唾を飲みながら戦いを見守っていると、アレス様が叫んだ。
「エイゼン様! 今です!」
赤毛の第二王子が高くジャンプをした。刃が太陽を照り返して白く発光する。エイゼン第二王子は、魔王の首筋を剣で斬りつけた。
魔王の首から青黒い血が噴き出た。
「はあぁぁっ!」
エイゼン第二王子が雄叫びを上げながら、魔王の頭を斬り落とした。
ごとんと鈍い音がして、片目が潰れた大きな頭部が草むらに転がった。
「とどめだ!」
エイゼン第二王子が炎を召喚した。そして、魔王の骸を焼き払った。
アレス様は立っているだけで辛そうなエイゼン第二王子の背中を支えた。
魔王の眷属が集まってきたが、弓矢によって屠られた。残党を狩り終えた勇者一行は拳を突き上げて勝利を高らかに宣言した。
「万象の神々よ! 魔族の侵攻から大地を守りましたぞ!」
「われらがコクウォル王国に栄えあれ!」
「やった。やったぞー!」
エイゼン第二王子が不敵に笑った。
「愚かな魔王め。アレスが愛しいオメガをおいて、魔王の眷属になどなるわけがあるまい」
「おっしゃるとおりです」
「そうだ。アレスの婚約者は、遠映鏡でいまの戦いを見ていたかもしれんな。メッセージでも送ったらどうだ」
「フィーラン殿。見ておられますか? あなたが授けてくれた加護のおかげで、私はエイゼン第二王子をお助けする役目を果たせました。本当にありがとうございます」
アレス様が一礼した。
エイゼン第二王子がアレス様の肩をどつく。
「お堅いなぁ。この場の勢いで、『愛してるよ、ハニー』ぐらい言ってもいいんだぞ? このカタブツめ」
「愛の言葉は、ふたりきりの際にたっぷりと囁きます」
「だそうだ。フィーラン・アレクシスよ、覚悟をしておくといい。アレスときたら、口を開けば婚約者の話ばかりしているからな」
戦場に笑い声が響いた。
それを聞いて、俺は安心した。もう魔族の攻撃に悩まされることはないんだ。ノヴィス領に疎開してきた人々も、ふるさとに戻れるんだ。そしてアレス様も危険な目に遭わなくて済む。
こんなに嬉しいことはない。
遠映鏡は蓄積されていた魔力が尽きてしまったようで、画面が真っ黒になった。
お父様が俺とレナートを抱きしめた。
「よかったな……! これでおまえたちも幸せな結婚生活を始めることができる」
俺たち一家は抱き合って、喜びを噛みしめた。
◆◆◆
戦争が終わったあと、コクウォル王国は王族も国民も一丸となって復興に着手した。
わがノヴィス領も、ゼガルド領に職人を派遣したり、金銭的な援助を行った。食卓にのぼる料理は領民と同じものだし、服を新調することもできなかった。それでも俺は幸せだった。平和が一番の宝だ。
みんなが頑張ったおかげで、やがてゼガルド領に美しい景色が戻ってきた。
水がぬるくなり始めた頃にアレス様から届いた手紙には、喜びの声が綴られていた。
『フィーラン殿。戦争の犠牲者の血で赤く染まっていた湖水が、本来の輝きを取り戻しました。水面に映るのは戦いの風景ではなく、広々とした青空です。
ああ、すべてはあなたのおかげです。
私の天使。
愛しております。
あなたがいたから、私は過酷な戦いに打ち勝つことができました』
俺は急いでアレス様に返事を書いた。
『アレス様がご無事でよかったです。ゼガルド領に平穏な日々が戻って本当によかったです。
俺の力添えなど微々たるものです。
恐れることなく、火炎に取り囲まれた魔王に向かっていったアレス様の勇気の賜物ですよ。』
会えないあいだも、俺たちは文通によって絆を深めていた。
そして春を迎え、俺は十九歳になった。
十日後にアレス様との結婚式が待っている。俺はいよいよ、アレス様のものになるのか──。
魔王の高笑いが戦場に鳴り響いた。
アレス様は膝をついて、がっくりとうなだれた。
「痛みト戦っているのカ? そんナ努力は無駄だ。わが眷属トなれば、永遠の命ヲ得られルぞ」
魔王がアレス様の髪を、むんずと掴んだ。
その時のことだった。
光の粒がアレス様の体を包み込み、あたりを白く染めた。突然輝き出したアレス様の体から魔王が離れようとする。
「私が貴様に屈するわけがなかろう!」
アレス様は腰から短剣を引き抜くと、魔王の右眼に切っ先を突き立てた。
ぶちゅりという音がして、魔王の眼球が潰れる。さすがの魔王も痛みには勝てないのか、巨体がわなわなと震えた。
これって、俺が昨晩捧げた加護の歌が効いたってことか?
固唾を飲みながら戦いを見守っていると、アレス様が叫んだ。
「エイゼン様! 今です!」
赤毛の第二王子が高くジャンプをした。刃が太陽を照り返して白く発光する。エイゼン第二王子は、魔王の首筋を剣で斬りつけた。
魔王の首から青黒い血が噴き出た。
「はあぁぁっ!」
エイゼン第二王子が雄叫びを上げながら、魔王の頭を斬り落とした。
ごとんと鈍い音がして、片目が潰れた大きな頭部が草むらに転がった。
「とどめだ!」
エイゼン第二王子が炎を召喚した。そして、魔王の骸を焼き払った。
アレス様は立っているだけで辛そうなエイゼン第二王子の背中を支えた。
魔王の眷属が集まってきたが、弓矢によって屠られた。残党を狩り終えた勇者一行は拳を突き上げて勝利を高らかに宣言した。
「万象の神々よ! 魔族の侵攻から大地を守りましたぞ!」
「われらがコクウォル王国に栄えあれ!」
「やった。やったぞー!」
エイゼン第二王子が不敵に笑った。
「愚かな魔王め。アレスが愛しいオメガをおいて、魔王の眷属になどなるわけがあるまい」
「おっしゃるとおりです」
「そうだ。アレスの婚約者は、遠映鏡でいまの戦いを見ていたかもしれんな。メッセージでも送ったらどうだ」
「フィーラン殿。見ておられますか? あなたが授けてくれた加護のおかげで、私はエイゼン第二王子をお助けする役目を果たせました。本当にありがとうございます」
アレス様が一礼した。
エイゼン第二王子がアレス様の肩をどつく。
「お堅いなぁ。この場の勢いで、『愛してるよ、ハニー』ぐらい言ってもいいんだぞ? このカタブツめ」
「愛の言葉は、ふたりきりの際にたっぷりと囁きます」
「だそうだ。フィーラン・アレクシスよ、覚悟をしておくといい。アレスときたら、口を開けば婚約者の話ばかりしているからな」
戦場に笑い声が響いた。
それを聞いて、俺は安心した。もう魔族の攻撃に悩まされることはないんだ。ノヴィス領に疎開してきた人々も、ふるさとに戻れるんだ。そしてアレス様も危険な目に遭わなくて済む。
こんなに嬉しいことはない。
遠映鏡は蓄積されていた魔力が尽きてしまったようで、画面が真っ黒になった。
お父様が俺とレナートを抱きしめた。
「よかったな……! これでおまえたちも幸せな結婚生活を始めることができる」
俺たち一家は抱き合って、喜びを噛みしめた。
◆◆◆
戦争が終わったあと、コクウォル王国は王族も国民も一丸となって復興に着手した。
わがノヴィス領も、ゼガルド領に職人を派遣したり、金銭的な援助を行った。食卓にのぼる料理は領民と同じものだし、服を新調することもできなかった。それでも俺は幸せだった。平和が一番の宝だ。
みんなが頑張ったおかげで、やがてゼガルド領に美しい景色が戻ってきた。
水がぬるくなり始めた頃にアレス様から届いた手紙には、喜びの声が綴られていた。
『フィーラン殿。戦争の犠牲者の血で赤く染まっていた湖水が、本来の輝きを取り戻しました。水面に映るのは戦いの風景ではなく、広々とした青空です。
ああ、すべてはあなたのおかげです。
私の天使。
愛しております。
あなたがいたから、私は過酷な戦いに打ち勝つことができました』
俺は急いでアレス様に返事を書いた。
『アレス様がご無事でよかったです。ゼガルド領に平穏な日々が戻って本当によかったです。
俺の力添えなど微々たるものです。
恐れることなく、火炎に取り囲まれた魔王に向かっていったアレス様の勇気の賜物ですよ。』
会えないあいだも、俺たちは文通によって絆を深めていた。
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