【完結】新婚のオメガですが、旦那様が処女厨のため抱いてもらえません!

古井重箱

文字の大きさ
18 / 47
第二章 新婚生活

18. 決意

しおりを挟む
 耳元で苦しそうな声が聞こえてきて、俺は目を覚ました。
 あたりは真っ暗である。鳥の声も聞こえてこない。まだ朝は遠いようだ。
 今の声、アレス様だよな。どうしたんだろう。寝苦しいのかな。
 
「アレス様?」

 呼びかけると、暗闇の中でアレス様が俺を抱き寄せた。手のひらがじっとりと汗ばんでいる。

「……少しこうさせて貰ってもよろしいですか?」
「もちろん」
「夢を見ました。仲間が魔族に惨殺される夢です」
「お辛かったですね」
「実際にあったことです。魔族は私の心を折るために、仲間にむごい真似を……」

 俺はアレス様の広い背中をさすった。
 
「フィーラン殿は温かいですね。あなたは生きているから……」

 消え入りそうな声でつぶやかれて、俺はハッとなった。
 アレス様にとっては、魔族との戦いはまだ続いているんだ。魔王を倒したから、めでたしめでたしではない。
 心の復興には時間がかかる。アレス様は一生、仲間を救えなかった苦しみを抱えていくに違いない。
 アレス様。
 あなたの苦しみを少しでも軽くしたいです。
 俺に何ができることはあるかな?
 少なくともセックスがしたいと迫るのは、慎むべきだろう。アレス様は性的なことに嫌悪感を抱いている。

「アンジェラは……惨殺された魔法戦士はとても勇敢な人でした。彼女は私をかばって命を落としたのです」
「……アレス様」

 ぽたりと温かい雫が俺の頬に落ちた。アレス様の涙だった。
 俺は啜り泣くアレス様の肩を両手で包み込んだ。

「アレス様も温かいですよ。あなたも生きている」
「フィーラン殿……」
「泣くの、我慢しないでください。ここには俺しかいません」
「ありがとうございます……っ」

 アレス様は感情が決壊してしまったようで、声を上げて泣いた。

「アンジェラ、ネイト、ジェラール。エルネストも……っ! 他にもたくさんの仲間が私のせいで命を失った……! ああ、どうか許してほしい」

 俺は慟哭するアレス様を必死になって抱きしめた。俺のぬくもりがアレス様の心の慰めになりますように。アレス様は溺れている人のように俺の体にしがみついた。
 ひとしきり涙を流したあと、アレス様が言った。

「……私、情けないですよね。武人ならば仲間の死を乗り越えて当然なのに」
「そんな風に思い詰めないでください! 大事な仲間を失ったら、誰だって辛いです」
「あなたはこんな私も受け入れてくれるのですか? やはり天使だ……」

 また神聖視されてしまった。俺の胸の奥はつきんと痛んだ。生身の俺を見てほしいと心が叫んでいる。
 でも俺はアレス様の天使になろうと決めた。
 セックスレスがなんだというのだ。俺はアレス様に尽くしたいし、アレス様も俺を大事にしたいと思ってくれている。俺たちは相思相愛じゃないか。

「アレス様。歌いましょうか」
「お願いします」

 俺は静かに歌い出した。
 柔らかな歌声でゆったりとしたメロディを繰り返す。故郷のノヴィス領に伝わる子守唄だ。

「お行きなさい、眠りの待つ夜へ。お行きなさい、優しい夢の中へ」

 アレス様はぎゅっと俺を抱きしめながら、歌に聞き入っていた。
 最後まで歌い終えると、アレス様が言った。

「あなたの歌声は、天使の歌声ですね」

 俺は微笑んだ。アレス様の髪を撫でる。
 これでいいんだよな。
 夜の営みがなくても構わない。アレス様が元気でいてくれたら、俺はそれで本望だ。


◆◆◆


 翌朝、俺が目覚めるとアレス様はすでに動きやすい服装に着替えていた。

「朝の稽古に行って参ります」

 深い海のような藍色の瞳が、もう大丈夫だと言っている。アレス様はとても強い人だなと俺は思った。

「いってらっしゃい」
「では」

 アレス様が去ったあと、俺は引き出しの奥からヒート抑制剤を取り出した。そして小瓶を開けて、中身を喉に流し込んだ。独特の苦味と酸味が混ざり合った、とろみのある液体をなんとか嚥下する。
 これでヒートの件は考えなくていい。
 だって最低だもんな。フェロモンで誘ったりしたら。アレス様はセックスをしたくないのだから。
 ヒート抑制剤の不味さと、副作用の頭痛ぐらい我慢してみせる。アレス様が抱えている苦しみに比べたら屁のようなものだ。
 俺は新しい俺になる。
 エッチに興味津々なオメガから、アレス様の天使へと生まれ変わってみせる。
 それが俺が考える、夫夫ふうふの愛だ。





- - - - - - - - - - -
作者より
入院&療養のため、しばらくお休みをいただきます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ
BL
「晴にいさま、大好き」 アルファばかりのエリート一家の四人兄弟の末っ子に生まれた 亜季。 思春期の第二性検査を受けるまで、誰もがアルファだと信じて疑っていなかったが、結果は「オメガ」だった。確かに他の息子たちに比べて、身体も小さく、性格もおっとりしていた末っ子オメガ。親戚を含めてアルファばかりで、オメガがいないゆえに扱いがわからない。 だが、はじめは家族の誰一人として末っ子がオメガであることを疎むことなく可愛がっていた。 ある日、転機が訪れる── 末っ子オメガに発情期(ヒート)が訪れ、事故が起こってしまう。それを理由に亜季はひとり家族と離れて暮らすことになった。 そして末っ子は──男娼になって……長男 晴臣と再会する。 すれ違いオメガバース。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

処理中です...