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第三章 愛妻日記(アレス視点)
19. 雨の日の約束
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大きな雨粒がガラス窓を叩いている。
あいにくの天気のため、私、アレス・ガルヴァーンは屋敷に閉じこもっていた。
私の執務室の机には、辺境伯である父から渡された書類が山積みになっている。隣国とのいざこざはしばらく起きていないとはいえ、有事に備える必要がある。私は鉱山の開発状況をまとめた資料に目を通した。
軽くて丈夫なラディアン鉱石は、順調に掘り出されているようだった。今度、鉱山に視察に出かけるとしよう。
必要な項目にサインをして、次の書類を机に広げる。
頭を使うよりも体を動かす方が好きな私にとって、事務作業は苦行だが、仕事を怠るわけにはいかない。
騎士団の人事計画に関する意見をまとめたところで、執務室のドアがノックされた。
「どうぞお入りください」
「アレス様。フィーランです。そろそろお茶にしませんか?」
私の口元はだらしなく緩んだ。
フィーラン殿は今日も可愛らしい。質素な服装に身を包み、控えめな笑顔を浮かべる姿はまさに天使そのものだ。
「ただいま参ります」
「お仕事お疲れ様です」
「フィーラン殿も母様とゼガルド織に取り組んでいたのでしょう?」
「ようやく簡単なものが織れるようになりました」
「素晴らしい!」
私が賞賛すると、フィーラン殿は照れくさそうに目を伏せた。なんて奥ゆかしい方なのだろう。フィーラン殿と一緒にいると、心が浄化されていく。
「立派な書架ですね」
フィーラン殿が壁を覆っている書架を見渡した。
「気になる本があれば、お貸ししますよ」
「じゃあ、アレス様の机の上にある本がいいな。いまお読みになってるんでしょう? 終わったら貸してください。一緒に感想を語り合ったりできたら嬉しいな」
臙脂色の装丁の本を指差されて、私は狼狽した。
「これはお貸しできません」
「秘密の資料なのですか?」
「……私の日記です」
フィーラン殿が目を丸くした。
「アレス様、日記をつけてたんですね」
「私は文章の方が想いを表現しやすい性質でして」
「俺のことも書いてくれました?」
「……ええ。毎日」
私は日記を手に取ると、ページをめくった。そして、フィーラン殿に捧げる詩が書かれたページを開いた。慣れない文語調で綴った詩をフィーラン殿に見せる。
フィーラン殿の頬がほんのりと赤くなった。
「情熱的な詩ですね。アレス様にそういう一面があったんだ……」
「武人らしくないでしょうか」
「そんなことないですよ! 文武両道なんてすごいじゃないですか!」
「……いつか、私の書いた詩に曲をつけて歌ってくれませんか」
私のリクエストをフィーラン殿は快諾してくれた。
「面白そうですね。すごくいいものになると思います!」
「フィーラン殿……。口づけをしてもよろしいですか?」
「……はい」
椅子から立ち上がり、恥じらうように笑った愛しい人を抱きしめる。
私はフィーラン殿の唇を吸った。かすかに開いている口の中に舌を差し入れる。フィーラン殿の肌が上気していく。私は夢中になってフィーラン殿の口腔を舐め回した。
「あんまり激しいキスは……そのっ。兆してしまいます」
「失礼しました。あなたへの愛しさが募るあまり、暴走してしまいました」
「……アレス様は俺のこと、好きですか」
「大好きですよ」
「よかった。俺も、あなたを愛してます」
ちゅっと頬にキスをされた。それだけで胸がいっぱいになる。
アンジェラをはじめ、死別した仲間たちは生き残った私の幸せを喜んでくれるだろうか。
「アレス様。それでは、食堂に参りましょう」
「はい」
私とフィーラン殿は手をつないで、屋敷の広い廊下を歩き始めた。
あいにくの天気のため、私、アレス・ガルヴァーンは屋敷に閉じこもっていた。
私の執務室の机には、辺境伯である父から渡された書類が山積みになっている。隣国とのいざこざはしばらく起きていないとはいえ、有事に備える必要がある。私は鉱山の開発状況をまとめた資料に目を通した。
軽くて丈夫なラディアン鉱石は、順調に掘り出されているようだった。今度、鉱山に視察に出かけるとしよう。
必要な項目にサインをして、次の書類を机に広げる。
頭を使うよりも体を動かす方が好きな私にとって、事務作業は苦行だが、仕事を怠るわけにはいかない。
騎士団の人事計画に関する意見をまとめたところで、執務室のドアがノックされた。
「どうぞお入りください」
「アレス様。フィーランです。そろそろお茶にしませんか?」
私の口元はだらしなく緩んだ。
フィーラン殿は今日も可愛らしい。質素な服装に身を包み、控えめな笑顔を浮かべる姿はまさに天使そのものだ。
「ただいま参ります」
「お仕事お疲れ様です」
「フィーラン殿も母様とゼガルド織に取り組んでいたのでしょう?」
「ようやく簡単なものが織れるようになりました」
「素晴らしい!」
私が賞賛すると、フィーラン殿は照れくさそうに目を伏せた。なんて奥ゆかしい方なのだろう。フィーラン殿と一緒にいると、心が浄化されていく。
「立派な書架ですね」
フィーラン殿が壁を覆っている書架を見渡した。
「気になる本があれば、お貸ししますよ」
「じゃあ、アレス様の机の上にある本がいいな。いまお読みになってるんでしょう? 終わったら貸してください。一緒に感想を語り合ったりできたら嬉しいな」
臙脂色の装丁の本を指差されて、私は狼狽した。
「これはお貸しできません」
「秘密の資料なのですか?」
「……私の日記です」
フィーラン殿が目を丸くした。
「アレス様、日記をつけてたんですね」
「私は文章の方が想いを表現しやすい性質でして」
「俺のことも書いてくれました?」
「……ええ。毎日」
私は日記を手に取ると、ページをめくった。そして、フィーラン殿に捧げる詩が書かれたページを開いた。慣れない文語調で綴った詩をフィーラン殿に見せる。
フィーラン殿の頬がほんのりと赤くなった。
「情熱的な詩ですね。アレス様にそういう一面があったんだ……」
「武人らしくないでしょうか」
「そんなことないですよ! 文武両道なんてすごいじゃないですか!」
「……いつか、私の書いた詩に曲をつけて歌ってくれませんか」
私のリクエストをフィーラン殿は快諾してくれた。
「面白そうですね。すごくいいものになると思います!」
「フィーラン殿……。口づけをしてもよろしいですか?」
「……はい」
椅子から立ち上がり、恥じらうように笑った愛しい人を抱きしめる。
私はフィーラン殿の唇を吸った。かすかに開いている口の中に舌を差し入れる。フィーラン殿の肌が上気していく。私は夢中になってフィーラン殿の口腔を舐め回した。
「あんまり激しいキスは……そのっ。兆してしまいます」
「失礼しました。あなたへの愛しさが募るあまり、暴走してしまいました」
「……アレス様は俺のこと、好きですか」
「大好きですよ」
「よかった。俺も、あなたを愛してます」
ちゅっと頬にキスをされた。それだけで胸がいっぱいになる。
アンジェラをはじめ、死別した仲間たちは生き残った私の幸せを喜んでくれるだろうか。
「アレス様。それでは、食堂に参りましょう」
「はい」
私とフィーラン殿は手をつないで、屋敷の広い廊下を歩き始めた。
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