【完結】新婚のオメガですが、旦那様が処女厨のため抱いてもらえません!

古井重箱

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第三章 愛妻日記(アレス視点)

20. あなたの喜ぶ顔が見たい

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 雨が上がった翌日、私、アレス・ガルヴァーンは町はずれにある鍛治工房を訪れた。
 職人たちはみな、作業に集中している。私が姿を現しても「どうもっす」と軽い挨拶を寄越しただけだった。辺境伯の嫡男におべっかを使うよりも、自分の腕を磨くことを優先する職人たちを私は好ましく感じた。

「アレス様。試作品が完成しましたよ」

 工房長のティルゴが片手剣を差し出してきた。
 私は一礼すると、真新しい片手剣の柄を握った。初めて触れるのに、長い戦いを共に駆け抜けてきたかのような心地になる。それほどまでに、白銀しろがね色に輝く片手剣は私の手に馴染んだ。

「どうっすか。気に入りました?」

 ティルゴは胸を張った。工房にいる他の職人たちも誇らしそうな表情である。私はティルゴに笑顔を向けた。

「素晴らしい出来栄えだ。攻撃力を損なわない、ギリギリのラインまで軽量化を追求したのだろう? 随分と試行錯誤を重ねたのではないか?」
「まあ、それなりに」
「量産は可能か? 騎士団の標準装備にしたい」

 私はティルゴと武器の増産計画について語り合った。

「ラディアン鉱石の採掘が順調らしいんで。騎士団の部隊長全員に行き渡るぐらいの本数は作れると思います」
「そうか。引き続き頼んだぞ」
「はいよ。お任せください」

 ティルゴは親指を立てて、ニカッと笑った。
 本当はもう少し職人の技を見学したかったが、次の予定がある。私は従者のリネルを引き連れて、工房の外に出た。
 昨日とは打って変わって、澄み切った青空が広がっている。
 馬車の中で、リネルが騎士団の財政状況に関する報告書を読み上げた。私は車窓に映る景色を眺めながら、リネルの言葉に耳を傾けた。
 私は辺境伯の嫡男として、国土と領民の命を守らなければいけない。
 街角では市場が開かれていた。南方から届いたとおぼしき色鮮やかな果実の山に、人々が列を成している。珍しい果物を手に入れた少年の喜びの声が馬車の中まで届いた。
 リネルもまた報告書から顔を上げて、街の風景を眺めた。

「平和ですね」
「そうだな」
「魔族の侵攻を受けた時はどうなるかと思いましたが、復興が叶ってよかったです」
「リネルよ。隣国の動向はどうだ?」
「昨年即位した若き王は実利主義者のようでして。わがコクウォル王国と交戦して国威を示すよりも、交易を活発化させて自国を豊かにしたいと考えているようです」
「なるほど」
「ただ、隣国も一枚岩ではありませんからね。コクウォル王国の領土を狙っている一派もいることでしょう。ラディアン鉱石が採れるゼガルド領は、いつ攻め込まれてもおかしくはない」

 私は姿勢を正した。
 わが命を賭けて、ゼガルド領を守り抜かなければならない。
 フィーラン殿。
 私はいつ果てるとも知れない身です。あなたと一緒に過ごす時間は、どんな貴石よりも輝いている、私の宝物です。
 フィーラン殿。
 私の天使。
 あなたの笑顔は私の糧です。
 一日でも長くあなたのそばにいられますように──。

「道が思ったよりも空いていますね。このペースだと、予定よりも早く騎士学校に着きそうだなあ。せっかく町に来たんですから、途中下車してお買い物でもいかがですか?」
「特に欲しいものはないが」
「若奥様へのプレゼントは?」
「それは……是非とも用意したい」

 リネルが御者に指示を出した。馬車が停まる。
 私は降車すると、外の空気を吸い込んだ。うららかな日差しを浴び、目を細める。

「それで? 何にするんですか。アクセサリーですか? それともエッチな下着ですか」
「リネル。フィーラン殿に性的な目を向けるのは許さない」
「冗談ですってば! そんなに怒らないでくださいよぅ」

 リネルが嬉しそうに笑った。

「どうした。随分と顔が緩んでいるぞ」
「いえ。アレス様はとうとう半身を見つけたんだなーって思ったら感慨深くて」

 青空を眺めながら、リネルが言った。

「アレス様は辺境伯の嫡男として、人である前に武器であるように育てられた。さだめというものは残酷ですね。人生を縛ってしまうんだから」
「国防は誰かがやらねばならないことだ」
「俺はね、あなたが剣の腕を上げるたび、喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなくなったものです。迷いのないあなたの剣筋はまるで芸術品のようで。美しすぎるがゆえに、怖かった」
「……リネル」
「でも、いまのあなたは、ひとりの男ですね。俺と同じように恋女房に夢中の、ただの男だ」

 幼い頃から私を見守ってくれたリネルの言葉が、胸の奥に沁み込んでいく。私の宿命は戦うことだ。だが同時に、フィーラン殿を愛するという使命を背負っている。
 私は生き延びなければならない。

「ここにしよう」

 リネルと私は魔道具の販売店に立ち寄った。
 店内にはさまざまな品が陳列されている。私は遠くにいる相手と音声で会話できる魔道具、交音器こうおんきを二つ購入した。
 交音器は円筒形で、私の手のひらに収まるほどの大きさである。
 魔道具屋の店員が言った。

「一つの交音器に対して、遠隔で会話をできる対象はひとりまでと決まっておりますが、構わないですか?」
「ああ」

 リネルが首を傾げた。

「アレス様は若奥様と一緒に暮らしているのに。どうして交音器を?」
「片方はフィーラン殿の双子の兄上、レナート殿に贈るつもりだ」
「ああ、なるほど。兄弟の会話ができるようにしたいんですね」
「フィーラン殿は喜んでくれるだろうか……」
「大丈夫ですよ! 俺が保証します」

 綺麗に包装された交音器をかかえて、私は馬車に乗り込んだ。
 フィーラン殿の笑顔を想像して甘い気持ちになったが、このあと騎士学校の視察が控えている。見習い騎士たちの前で、だらしない表情を見せるわけにはいかない。
 私は頭を切り替えた。
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