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27フィーネの死 (フィーネ目線)

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アルが生きていた。私は胸が弾んだ。だけど、一方で、例えアルが許してくれたとしても、私はアルの元へ戻るべきじゃないと思った。アルは私を見るたびに私の汚れた過去を思いだすだろう。アルは優しい。それを飲み込んで、私に戻って来いと言ってくれている。 

正直嬉しい…こんな私を…アルの優しさが身に染みる。だけど、アルの元からも勇者パーティからも離れよう。

勇者パーティに入って魔王を討伐する…アルと私の夢…でも…アルを裏切ってまで、私は一体何がしたかったのか? 最愛の人を裏切り、傷つけて…私はどうしてこんなに流されてしまったんだろう?

全ては私が悪い。アルにパーティを一緒に抜けるよう言うべきだった。それなのに、私はアルの命と引き換えに自分の身体を差し出してしまった…私は最低だ。アルに対する裏切り…アルが許してくれても、きっと私はアルを苦しめる。何処か辺境の村でひっそり生きよう。故郷には帰れない。アルと再会する可能性があるから。 

でも、その前にやっておく事がある。アルの妹シャルロッテと剣豪のアンネリーゼさん。彼女達をパーティから逃さなければ。私がいなくなったら、彼女達がエルヴィンの犠牲になるかもしれない。 

そんな思いで、宿舎に戻ると、何故か子供の声がした。 

「お兄ちゃん、カッコイイ!!」 

無邪気な小さな女の子の声、あれは? アンネリーゼの一番下の妹だ。何故ここに? 

「うん、フィーネか? 何処へ行っていたんだ?」 

エルヴィンだ。女の子と遊んでいた彼がこちらを向く。私は嫌な予感がした。 

「どうして、アンネリーゼさんの妹さんが?」 

「決まっているだろ。これ以上パーティからの離脱者が出ないようにする為だ」 

私の顔面は蒼白だろう。それはつまり、 

「逃げたら、わかっているよな? 俺も子供をどうこうしたくはないからな、多分な…意外と楽しいかもしれんけどな」 

ザーと血の気が引く気がした。この男はナディヤの様にパーティを離脱する者が増える事を防止するために、人質を! 何処まで卑怯なの!  

私がこの男と関係を続けているのも、精神的に壊れていた事もあるけど、相手をしないとアルの妹さんを無理やり手籠めにすると言われて…ああ、私はなんて心が弱いんだろう…みなでパーティを抜ければいいだけだったのに…でも、もう今更遅い。

「これから、街の中央のダンジョンに潜る。さっさと準備しろよ」 

こうして、私達は逃げる機会を失った。 

ダンジョンに潜るが、明らかに普通のダンジョンではなかった。第1層からロイヤル・オークなどなかなり強力な魔物が出現した。騎士団は普段より多く、10人が参加していたけど、心もとない。 

「エルヴィン様、このダンジョンは危険です。直ぐに帰還した方が宜しいかと?」 

「黙れ、お前ごときの意見なぞ必要ない。未だ、騎士団も一人も死んでいないではないか」 

ぎりりと歯噛みする。この男は人の命を何だと思っているのだ? こんな男が勇者なのか? 

それでも必死に先に進み、遂に第1層から第2層へと続く階段が見える。 

「エルヴィン様、第2層への攻略は禁止されています。ここで引き返すしかないです」 

「何を馬鹿な事を言っているのだ。だからこそ、俺達プロイセン勇者パーティの出番だろう」 

「しかし、エルヴィン殿、第2層以降からSSS級の冒険者も騎士団も帰還した者は誰もいません。危険すぎるのではないですか?」 

「だからこそ、目立つだろう?」 

エルヴィンは直接戦いに参加していない。だから体感的のこのダンジョンの魔物の強さが理解できていない。それに第2層から帰還した者が一人もいないのだなど、何かあるとしか思えない。危険なその役割を勇者パーティが実践するのだなど、気狂いざたなのに… 

第2層へ進むと、先頭の斥候役の騎士から、声が上がる。 

「ロイヤル・オーガです。ひぃ!?」 

騎士は出会いがしらの魔物に瞬殺された。並みの魔物じゃない。 

剣を抜き放ち、戦いの準備をする。そして、 

騎士団の前衛と連携をとり戦うが…強い、この魔物は試練のダンジョンとは桁違いだ。 

騎士達が一人、二人と倒れていく。引き際だ。このままでは、全滅してしまう。 

「駄目です。エルヴィン殿、とても太刀打ちできません」 

「た、助けてくれ!!!!!!!!!!」 

流石の騎士団も音をあげる。 

その時、私の腹から突然光り輝く剣が生えた。その剣は…聖剣、勇者エルヴィンの剣。後ろから刺されたのだと理解した私は思わず声が出た。 

「お、お腹の赤ちゃんが…」 

「俺の為に死ね!」 

エルヴィンから冷たい声が投げかけられた。堕ろすつもりではあったが、自身の子だ。全く愛情が湧かない訳ではなかった。なのに、自身の父親にこんな風な殺され方をするのだなんて… 

腹から剣が引き抜かれる。一気に血が噴き出す。 

「お姉ちゃんが!?」 

「フィーネさん!!」 

アルの妹シャルロッテとアンネリーゼの声が聞こえる。急激に身体が寒くなっていった。 

「お前ら、逃げるぞ!」 

エルヴィンは私達を置いて、ダンジョンの一階への階段に向かって逃げていくようだ。 

「エルヴィン殿、いくら何でも、これは!」 

「そいつがオーガに食われている間に逃げるんだ」 

「そ、そのような!?」 

「やむをえん、撤退するぞ!」 

「しかし、た、隊長!!」 

「我ら騎士は護衛対象を守るのが役目、心を鬼にせよ」 

騎士団の隊長の声は震えていた。彼の心は羞恥に染まっているのだろう。 

「私は残ります」 

「私も!!」 

シャルロッテさんとアンネリーゼさんが残る? 私の為に? 駄目! 私なんかの為に死んじゃ駄目! 私はどうせ生きる価値の無い女、でもあの二人は違う。私の為にそんな危険な事を… 

だが、私の意識はあいまいになり、気を失いそうになる。 

私、死ぬんだ。情けない人生だったな。いや、違う、アルと出会えたんだ。それだけで私は幸せだった。でも、心残りは、私が死んだ事を知ったら、アルが悲しい思いをするに違いない…優しい人だから…どうせ死ぬなら、誰にも知られる事無く死にたかった… 

最後の想いも消え行きそうな時、声が聞こえた。 

「フィーネ!!」 

これはアルの声? 幻聴だろうか? そうして私の意識は遠のいて行った。
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