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28フィーネの死(アル目線)

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僕はいつまでたっても帰ってこないフィーネの事が心配になった。あの悪辣なエルヴィンが無理やり引き止めているのかもしれない。しまった。僕が一緒に行くべきだった。いや、今からでも遅くない。フィーネ達の宿舎に乗り込もう。 

そんな決意をしていた時にミュラー騎士団長が現れた。 

「突然すまない。君達の力を借りたい、頼む」 

「一体どうしたのですか? 突然?」 

普段ならこの人の訪問は歓迎すべきだ。だが、今は。しかし、僕の考えはミュラーさんの一言で変わった。 

「プロイセン王国の勇者パーティがダンジョンに挑んでしまった。だが、気になる証言がダンジョンの守衛から寄せられてしまったんだ」 

「どういう事ですか?」 

僕は嫌な予感がした。プロイセン王国の勇者パーティがダンジョンに挑んでいる。それはフィーナ達がダンジョンにいるという事ではないか? 

「勇者一行はダンジョンの第2層に挑むと言っていたっそうだ。危険すぎる」 

「確かダンジョンの第2層から帰還した人は誰もいないのでしたよね?」 

「そうだ、こんな事は今までなかった。原因が把握できるまで、第2層への侵入は禁止していたのだが…SSS級の冒険者は勇者パーティに近い実力だ。そのSSS級の冒険者でさえ帰還できなかった」 

僕は大きく頷くと、ミュラーさんの依頼を受ける事にした。いや、フィーネ達を助けに行く。理由はわからないけど、フィーネ達は未だパーティから脱退できず、ダンジョンの中としか思えない。 

僕は皆がそろうのが待ちきれず、単身、ダンジョンに潜った。 

そして、直ぐに第1層から第2層への階段に行きついた。ダンジョンの中を探査のスキルで見たが、この階にはいない。ならば、やはり2階か? 

迷わず2階へ進む、そこで、 

「た、助けてくれぇえええええ!!」 

情けない声が聞こえた。エルヴィンだ。彼らは逃げてきたのか? しかし、フィーネ達の姿が見えない。こいつはフィーネ達を置いて、逃げたのか? 

必死だったのか、エルヴィンは僕に気がつかないで行き過ぎた。捕えて尋問したいが、今はその時間がない。おそらくフィーネ達は死地にある。 

僕は急いで2階に降りた。 

2階の最初の部屋へ入ると、最初に目に入ったのは血まみれで倒れているフィーネだった。それにぎりぎりの戦いを続けるシャルロッテとアンネリーゼ。 

「フィーネ!!」 

僕は思わず大声で怒鳴った。血まみれのフィーネ、早く治癒魔法を唱えないと! だが、とりあえず目の前のロイヤル・オーガを倒さないと!! 

僕は魔剣を現出させると、ロイヤル・オーガを一刀のもとに斬り捨てた。 

「フィーネ、今、治癒魔法をかけてあげるからね!」 

僕はメガヒールの治癒魔法を唱えた、でも、 

「……え?」 

フィーネには治癒魔法が効かなかった。フィーネの顔を覗きこむ、血の気のない真っ白な顔。目は虚ろで、半開きの口からは涎が垂れる。それでもフィーネは綺麗だ、そう思えた。 

「フィーネ?」 

僕はフィーネに声をかけた。だが、目についたのは、腹から滴る赤い血。傷の具合は剣によるもの? 鮮血がフィーネを染めていく。 

「ねえ、フィーネ、返事をしてよ」 

無理なお願いだという事はわかっている。だけど、 

「うそだぁああああああああああああっ!?」 

返事をして欲しかった。神様、お願いだから。でもフィーネの首がかくんと力なく曲がってしまった。まるで人形みたいに。 

慌ててフィーネの頭を抱きしめる。フィーネの血がついていたが、今はそんな事はどうでもいい。 

「…フィ、フィーネ、ねえ、フィーネ?」 

何度も、何度もフィーネの名前と治癒魔法を唱える。でも、フィーネが返事をする事はなかった。 

「お願い、フィーネ……フィ、ィネ……どうして、どうして……」 

意味がわからなかった、状況が理解できなかった。どうして、フィーネは剣でお腹を刺されて死んでいるんだ? オーガは剣なんて持っていなかった。それは、つまり、 

少し、理解できてきた。フィーネは死んでしまったという事…そして、誰かに剣で刺されたという事。そして、それはおそらくはあの勇者エルヴィンが… 

「フィーネぇ、お願いだから返事をしてよ、ねえ、お願いだから……フィーネッエ、フィーネぇええっ!」 

エルヴィンだ、あいつがやったんだ。あいつが、あいつがあああぁっ! 

こんな事ができるヤツはあいつしかいない。 

やっぱり殺すべきだった。例え罪に問われても、フィーネが死ぬ位なら、迷わず殺すべきだった。死ぬより辛くて無様に殺してやるべきだった。どうして僕は自分の欲望に忠実になれなかったんだ? 死刑になってもいい、あいつを無様に殺せるなら、そうすべきだった。ましてやフィーネが殺されてしまうのなら、さっさと殺すべきだった。 

あのクズに生きる権利なんてない、そうだ、卑怯な方法でフィーネを汚して、僕を殺そうとして! 世界の為に僕はアイツを殺すべきだった。 

どうして、どうして僕は、あいつを殺さなかったんだ!! ちくしょう、ちくしょう。 

冷たくなったフィーネを抱きしめながら、僕は何度も、何度も叫んだ。 

「エルヴィン!? 殺してやる、殺してやる、ころころころころころ……」 

出来うるならば、何度も何度も殺してやりたい。何度も何度も地獄の責め苦を与えてやりたい。僕の心が闇に染まりかけた時、 

「お兄ちゃん! 止めて! 人殺しだけは止めて! それじゃ、エルヴィンと同じになるよ!」 

妹のシャルロッテの声が耳に入る。 

「エルヴィンと同じ?」 

「今のお兄ちゃんは怖い。お願い、いつものお兄ちゃんに戻って…そんなお兄ちゃんを見たら、フィーネお姉ちゃんが悲しむ…」 

「フィ、フィーネが…」 

そうだ。そうだった。フィーネがそんな事を望む筈がない。僕もフィーネも魔王討伐を目指す位正義感が強かったんだ。フィーネが人殺しの復讐なんて望む筈がない。そう、エルヴィンは法で裁かれるべきなのだ。 

妹は僕の背中にすがってきた。 

「お願い、お兄ちゃん、昔のお兄ちゃんに戻って…」 

「ありがとう。ロッテ。僕はフィーネに顔向けできない事をするところだったよ」 

正気に戻った僕はフィーネの亡骸を抱いて持ち上げた。亡骸を弔ってやりたい。しかし、 

「えっ?」 

フィーネは黒い粒子に包まれて、その姿が消えて行った。まるで、最初から存在していなかったかのように… 
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