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35悪侯爵ダニエル、貴族をクビになる

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場所は変わって、修練のダンジョンがある街の領主ダニエルの屋敷。 

「全く、無能一人のせいで、これ程私を困らせるとは」 

不機嫌な彼はストレスの為か高価なワインをがぶ飲みする。

アルベルトを殺して、勇者パーティのリストラを断行しようとしたが、そのアルベルトがまさかのステータス2倍の魔法を所有していた。おかげでかえってパーティが弱体化してしまった。 

「全く、余計なスキルを持ちよってからに」 

彼は国王の指示に逆らい、それどころかパーティの要を殺害するという暴挙、いや無能っぷりを晒しただけの事というには気がつかない。この種の人間はどんなに有能な人間でも無能に見えるが自身が無能な事には気がつかないのだ。 

まあ、だが、結局、勇者エルヴィンのレベルが上がれば解決するし、アルベルトには帰ってきてもらう様勇者エルヴィンに指示を与えた。あれはあくまで不幸な事故にすればいい、あるいは勇者エルヴィンの独断そう考えを帰結させる。 

「全く私に骨折りをさせるとは…」 

アルベルトは幸い生きており、あとは勇者パーティへ帰還させればいいだけだ。勇者パーティへの帰還だ。ヤツも喜んで帰還するだろう。だが、何かヤツに罰を与えんとな。 

「そうだ。ヤツの目の前でヤツの婚約者か妹にわしの夜伽を申し付けよう」 

アルベルトの情けない顔が思い浮かぶ。『ざまぁみろ』と嗜虐心を湛えた笑みが漏れる。 

「わしの不興をかったものはそうなるのだ」 

アルベルトの前で婚約者と妹に夜伽の命令を出して、情けない顔に変わるヤツの顔を思い浮かべて、恍惚とした表情を浮かべるダニエル。正しくクズである。 

だが、そんな彼の気分は木っ端みじんに打ち砕かれた。 

「ダニエル様!! 大変です!」 

部屋へノックも無く部下が入ってきた。 

「貴様、貴族への礼を欠いて、無断で部屋に入ってくるなぞ、不敬がすぎるぞ!!」 

しかし、そう一喝されても部下は言葉を続ける。 

「大変です! こ、国王陛下からダニエル侯爵様に、王宮へただちに出頭せよとの勅命が!」 

「ちょ、勅命?」 

「至急来いとの事です!!」 

ダニエルはあまりに突然のことに動揺を隠せなかった。しかも、勅命なのである。 

…ま、まさかアルベルトを殺そうとした事がバレたのか? 
い、いや。しかし証拠なぞ無い筈。エルヴィンの独断にすればいい。 
いや、意外とわしの勇者パーティ強化への労いかもしれない。

無能な彼はそんな訳がないだろうという事さえわからないのである。 

ダニエル侯爵は意気揚々として王宮目指して馬車を走らせた。 
王宮に着くと、国王陛下が厳しい顔で待ち受けていた。 

「勇者パーティ強化担当ダニエル侯爵。今日呼ばれた理由は理解しているだろうな?」 

国王陛下は厳しい口調でダニエルに詰問する。 

「い、一体どうされたのですか? 国王陛下。突然のおよびだしに、ただただ驚いております」 

ダニエルは本気で呼び出しの理由がわからなかった。しかし、それが国王陛下の怒りを買う。 

「いい加減にせよ。ダニエル侯爵、そなた、アルベルト殿殺害未遂に関わっておるな!」 

「わ、私は何も知りません。一体 何の事でしょう?」 

しかし、シラを切るダニエルの事なぞ、既にお見通しの国王は、 

「元勇者エルヴィンをここへ連れて参れ!」 

国王陛下の指示のもと、謁見の間に、みすぼらしい格好をした、あの勇者エルヴィンが引き連れられてきた。 

「……なッ!!」 

勇者エルヴィンを見てダニエルは目を見開く。 

勇者エルヴィンはボロボロな顔、姿をしていた。勇者なら当然治療されて、衣服も新しい物が与えられる筈だ。しかし、目の前のエルヴィンには奴隷の烙印が、 

「そ、そんな馬鹿な!!」 

勇者エルヴィンの扱いに驚きを隠せないダニエル。 

「全てはアルザス王国の騎士団長ミュラー殿からの書状、及び元勇者エルヴィンの証言で判明しておる」 

ダニエルは冷や汗がじっとり肌にしみる。 

「貴様はパーティの要であるアルベルト殿を殺害せんとエルヴィンめに讒言をろうし、実際にアルベルト殿は修練のダンジョンの奈落に落とされてしまった。許しがたい重罪だ」 

「お、お待ちください。確かにアルベルト殿の死亡のご報告は怠りましたが、決して私めが画策した事ではございません。エルヴィンからは事故だったと聞いております」 

あくまでシラを切ろうとするダニエル、しかし、 

「シラを切るのも大概にせよ!? 証拠は全てあがっておる」 

「な、何かの誤解です!?」 

「これはアルザス騎士団長からの書状、そしてこちらがアルベルト殿の書状、そして、これはエルヴィンの自白調書じゃ! それに元騎士団員からの供述も得ておる」 

国王陛下自ら書状と供述を読み上げる。ここにダニエルの罪の全てが暴かれた。 

「こ、こっ、 国王陛下……こ、これは……」 

ダニエルの冷や汗は既に滝の様に流れ落ちていた。しかし観念して、少しでも自分の罪が軽くなる事を計算し、 

「大変、申し訳ございませんでした……」  

ダニエルは手慣れたように、頭を地にこすりつけて、土下座した。もう、顔面を地面にこすりつけている。ドン引きする位、見事な土下座だった。そして、涙と鼻水を床に垂れ流しながら、頭を何度も床に擦り付ける。 

「お、お、おゆるし…を!? か、か、かんだいな、かんだいな処分を、へ、へいかぁあ!」 

全てが遅すぎた。彼は無能な上、国王陛下の信頼も裏切った。早く事実を報告し、謝罪していれば、国王陛下の怒りもこれ程ではなかっただろう、そう、もう遅すぎたのだ。 

「貴様は最後までシラを切ろうとした。しかし、そんなことをしても、もう遅すぎる。自ら罪を認めようとはしなかった。情状酌量の余地はない。貴様は貴族をクビだ」 

「き、貴族をクビ? 貴族をクビだなんて、私は一体どうなるのですか?」 

ダニエルは自身が貴族をクビになるなど、考えた事もなかった。自分は特別な存在、そう信じて疑らなかった。しかし、 

「貴族籍剥奪に際して、2つの選択肢があります。ひとつは死罪を受け入れ、侯爵家を守る方法、そしてもう一つは死罪を免除にする代わりに、侯爵家はおとり潰し、一族郎党、全員奴隷となる方法がございます」 

例の切れ者の官吏がダニエルの選択肢を伝える。 

「そちはどちらを希望する? そなたの家族に罪はあるまい、慈悲を与えよう」 

陛下の寛大な言葉に、ダニエルは迷う事無く言った。 

「ど、奴隷に、奴隷にしてください。し、死に…死にたく…死にたくはありましぇーん!!」 

陛下は自身の寛大な措置を台無しにするダニエルに思わず眉間を押さえる。 

「この男をエルヴィン同様底辺奴隷に身分を落とせ!! そして一族郎党も奴隷だ!!」 

そして、国王陛下が手をあげ、処分が決まった事を示唆する。騎士達がダニエルの腕を掴んで無理やり立ち上がらせ、引き連れられて行く。行先は…もちろん牢獄だ。  

「そ、そんな馬鹿な! 貴族のワシが奴隷だなぞ、そんな馬鹿な事があっていい筈がない!」 

ダニエルの叫びが虚しく王宮にこだまする。しかし、誰もが不快を感じて顔をしかめる。  
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