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63パワハラ勇者カール 2

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「今、何と、おっしゃったのでしょうか?」 

「だから事件は解決されたのだ」 

この街の領主シュミット侯爵の説明に理解が及ばず勇者カールは混乱していた。 

カールがこのアマルフィの地に来たのは、独断だ。 

この地で起きている謎の冒険者、騎士団の失踪事件。そこに魔族が関与している事は疑いようがない。何故なら、アマルフィに突然魔族のダンジョンが現れていた為だ。 

しかし、その事件解決はアル達プロイセン=フランク王国勇者パーティの任務だった。 

彼は事件解決を自身で行い、任務を横取りして名声を得るつもりだったのだ。 

「事件はやはり魔族だったのだ。魔族はダンジョンでは無く、この街に潜み、人に憑依して、冒険者や騎士団の油断を誘い、彼らを密かに殺害していたのだ」 

「な、何と! それは一体誰が解決を?」 

「勿論、プロイセン=フランク王国勇者パーティだ。私も魔族に憑依され、危うい処を彼らに救われた。感謝に耐えない」 

シュミット侯爵の説明だと、同時にダンジョンの魔族も滅ぼし、街の安全が確保された。街の住人も侯爵も、この街の人々全てが、アル達を称賛していた。 
しかし、カールは自分が二の足を踏んでいたトゥールネのダンジョンを攻略されてしまい、更にアマルフィ事件まで解決されてしまったという現実を受け入れられないでいた。 

「そんな馬鹿なことは、あり得ん! これはなにかの間違いだ! この私が、あんなやつに及ばないはずがない!!」 

及ばないどころか、天と地ほどの差がある事に彼は気がついていない。 

「そうだ! シュミット侯爵は突然自身の婚約発表の場にあの忌々しいアルが乱入して、婚約者を横取りして、たまたま侯爵に憑依していた魔族に出会ったに過ぎない!」 

「その通りでございます。アル様達の勇者パーティは運が良かっただけです」 

騎士の一人がおべんちゃらを言う。また、この勇者が癇癪をおこしたらと考えての事だ。 

しかし……

「貴様! あのアイツらに様など敬称をつけるか! 無礼であろう!」 

何で無礼になるのかわからない。この勇者は国語が弱いのだ。 

「貴様! 騎士三十三号! 貴様は今すぐクビだ!」 

「そ、そんなぁー!!」 

また犠牲者が出る事になったが、このパーティの騎士団はあまりに人事の出入りが激しく、頭の悪い勇者カールが名前を覚えきれなくなり、遂に、騎士の鎧に番号を記し、名前ではなく、番号で呼ぶという事態になっている。無礼なのはカールの方だろう。 

「だが、私がせっかく、この灰色の頭脳で事件を解決してやろうとしていたのに、マグレで解決してしまったという訳か…全く、とんだ手柄の横取りだな」 

いや、そもそもアル達の任務だし、事件は魔族の方から挑んだのであって、カール達を先に狙わなかったのも、カール達が弱すぎたからなのだが……それに灰色の頭脳って何?  

だが、カールはアル達が自身の手柄を横取りした。それが彼の中では確定事項になった。 

彼の中でだけだが…… 

「しかし、アル達のパーティに運を呼び寄せたのも、お前達の調査が遅いからだ! 絶えず最新の情報を仕入れろ! 大抵の人はみんなやっているよね?」 

震えあがる騎士達、一体どんなパワハラの仕打ちを受けるか予想だにできない。 

「このままでは、私達アルザス王国勇者パーティの威信に関わる! 私の威信を取返す!」 

「あ、あのカール様、して、どうやって、威信を取り戻せば?」 

もっともな意見ではあるが…… 

「お前達が考えるに決まっているだろう? 普通するよね?」 

完全な無茶振りだったが、カールはそもそも頭が弱いのだ。 

「「「「しょ、承知しました!!!!」」」」 

結局、騎士達はアマルフィの隅々をお掃除しまくり、更に周辺の強力過ぎて冒険者では中々倒せない魔物を討伐した。アマルフィのSSS級冒険者や精強な騎士団の多くが失踪…殺害されてしまった為、この騎士達の考えは的を得たものだった。 

アマルフィの民はカール達勇者パーティへも感謝をした。 

もちろん、勇者カールは何一つ協力せず、街中で一日中遊び呆けていた。それを街の人々は見ていた為、カール以外の勇者パーティに感謝を捧げていたのだが、幸い、カールにそれが伝わる事がなかった。全く、この男には相応しくない優秀な騎士達であった。 
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