五煌剣 ―黎理詠唱―

桜井りゅうと

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五煌剣Ⅲ 〜時の虚を継ぐ者〜

プロローグ:「第零の記録」

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闇も光も、まだ生まれていなかった。
世界はただ、静寂の中に在った。
音も色もなく、時間さえ流れていない。

――だが、確かに

「鼓動」

はあった。
それは、かつて五つの理を創った

 “最初の意志”。

そしてその意志が再び、声を上げた。

「理はすでに満たされた。
だが、時はいまだ
不完全なまま眠っている。」

光が、世界の底から立ち上がる。
その中心に、一人の青年が倒れていた。
髪は白く、目を閉じたまま。
彼の周囲では、
無数の文字が光の粒となって漂っている。

『リュウト――

記録の名残。』

誰かが囁いた。
だが彼は、リュウトではなかった。
彼は

 “記録の影”

として生まれた存在。

名をリア。

世界の時間が再び揺らいだ時、
記録の残響が形をとって生まれた、
もう一つの

「可能性」。

青年は目を開け、手を伸ばす。
掌に触れたのは、割れた赤い結晶。

「これは……炎の理?」

瞬間、炎の記憶が彼の脳裏を焼いた。
ヴァルゼインの声。燃える王国。
滅びの中で誇りを掲げた男の姿。

「……理は、まだ終わっていない。」

彼の胸の奥で、光が脈打った。
同時に、周囲の空間が歪み始める。
空が逆さに落ち、大地が裂け、
時間の流れが上下逆転する。

「これが……時の虚(うつろ)か。」

光と闇が交錯する空間――

そこに、五つの影が現れた。

炎、水、雷、風、闇。

それぞれの理が、再び形を取り始める。

『リュウトの記録が揺らいでいる。
時が、自らを繰り返そうとしているのだ。』

声は重なり、世界が震える。

リアは立ち上がり、剣を抜いた。
それはリュウトの

“第六の煌剣”

《繋界(けいかい)》の残片。

「俺は……誰かの記録なんかじゃない。
ここで、

 “今”

を繋ぎ直す。」

世界の虚が、裂けた。
そこから現れたのは、

歪んだ王の影――

五理の均衡を崩壊させた

“偽の理”たち。

「再生の理は、輪を閉じた。
ならば、次は
 
 “始まり”

を創る番だ。」

雷鳴が轟き、
風が渦を巻き、
炎が舞い、
水が弾け、
闇が世界を包む。

そしてその中心に、リアは立っていた。

「リュウト――

あなたが選んだ

 “再生”

のその先を、
俺が証明する。」

空が砕け、光が爆ぜた。
その瞬間、
五つの理の象徴が一斉に消える。

残ったのは――

 “時間”

という名の、形なき理。

『第七の煌剣――

《虚(うつろ)》が目覚める。』

声が響き、世界が再び流れ始めた。
それは始まりか、終わりか。

まだ誰も知らなかった。

だが確かに――

五煌剣の物語は、再び幕を開けた。
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