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棘花 ―イゲバナ―
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さて、どうしたもんか……と考えているとローザ嬢の視線に気づき、僕はニコリと微笑み掛けた。
「どうかしましたか?」
ローザ嬢は視線を落とし、紅茶をスプーンで優しくゆっくり回す。
「……はっきり申し上げますが、私、ジェスター様と結婚する気はございませんの」
顔を上げ、黒真珠のような輝きを持つ瞳を僕に真っ直ぐ向けながら、ローザ嬢はきっぱりと言い放った。
へぇ……それは助かる。
僕はその言葉を聞いて少し安堵する。あれこれ手を打たなくてもすみそうだ。
女性から断ってくれるのなら、こんなにありがたい事はない。
「そうですか」
「はい。私、想い人がおりますので」
ぽっと染めた頬を恥ずかしそうに両手で隠すローザ嬢の姿は、可憐で微笑ましい。
「その方は幸せ者ですね。こんなに美しいご令嬢と恋仲なんて。もし、お父上に言いづらいのでしたら、僕が取り計らいましょうか?」
僕の提案にローザ嬢は手に持ったティーカップをじっと見つめ、かわいらしい顔を曇らせた。
「残念ながら、その方とは想いが通じておりませんの。その方は私の存在すらご存じないと思いますわ」
ローザ嬢の片思いか……相手はローザ嬢を知らないなんて、辛いだろうな。
クラリスを探し続けた経験がある僕は、自分とローザ嬢を重ねて胸が痛くなる。
「そうですか……それは苦しいでしょうね。僕はローザ嬢を応援しますよ。その男性と出会うきっかけがあれば、想いが通じるかもしれませんしね」
憂い顔でティーカップを見つめていたローザ嬢は、小さく溜息をつくと僕の目をじっと見た。
「私、殿方は好きではありませんの」
「どうかしましたか?」
ローザ嬢は視線を落とし、紅茶をスプーンで優しくゆっくり回す。
「……はっきり申し上げますが、私、ジェスター様と結婚する気はございませんの」
顔を上げ、黒真珠のような輝きを持つ瞳を僕に真っ直ぐ向けながら、ローザ嬢はきっぱりと言い放った。
へぇ……それは助かる。
僕はその言葉を聞いて少し安堵する。あれこれ手を打たなくてもすみそうだ。
女性から断ってくれるのなら、こんなにありがたい事はない。
「そうですか」
「はい。私、想い人がおりますので」
ぽっと染めた頬を恥ずかしそうに両手で隠すローザ嬢の姿は、可憐で微笑ましい。
「その方は幸せ者ですね。こんなに美しいご令嬢と恋仲なんて。もし、お父上に言いづらいのでしたら、僕が取り計らいましょうか?」
僕の提案にローザ嬢は手に持ったティーカップをじっと見つめ、かわいらしい顔を曇らせた。
「残念ながら、その方とは想いが通じておりませんの。その方は私の存在すらご存じないと思いますわ」
ローザ嬢の片思いか……相手はローザ嬢を知らないなんて、辛いだろうな。
クラリスを探し続けた経験がある僕は、自分とローザ嬢を重ねて胸が痛くなる。
「そうですか……それは苦しいでしょうね。僕はローザ嬢を応援しますよ。その男性と出会うきっかけがあれば、想いが通じるかもしれませんしね」
憂い顔でティーカップを見つめていたローザ嬢は、小さく溜息をつくと僕の目をじっと見た。
「私、殿方は好きではありませんの」
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