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棘花 ―イゲバナ―
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しおりを挟む自分で言うのもなんだが、ベリル家にとって僕ほど良い縁談相手はいない。シトリン家との結束も強まり、ベリル家も安泰。
「アルベルト王子とアルフォント家のミカエルと懇意にしてますので、ご紹介しますよ?」
2人のどちらかと縁談をまとめてはどうかと、暗に伝えた事もあったものの、伯爵は2人の事はまったく眼中になかった。
家柄、容姿、性格、どれをとっても申し分なく、娘を持つ家門ならば両手を挙げて喜ぶはずの2人だ。悪い話ではない。
「大切な娘には、坊っちゃんしか考えられませんから」
何度、断ってもニコニコと顔合わせの場を設けようとする伯爵。
断る僕に諦めない伯爵。
平行線である。
そして、今日、とうとう伯爵の思惑に乗ってしまい、ローザ嬢と向かい合ってしまっているこの状況に可笑しさが込み上げてきた。
伯爵もなかなかしぶとい。
まぁ、どんなに望まれても僕が結婚すると決めている相手は、たった1人だけど。
ローザ嬢はベリータルトを一口食べて頷くと、メイドに淹れてもらった紅茶を口にし、僕に穏やかに微笑んだ。
「ジェスター様……単刀直入に言いますね。父が私とジェスター様の縁談を進めたいと思っている事、ご存知ですよね?」
「……はい」
笑顔を崩さず、返事をする。
まさかローザ嬢からこの話を直接されるとは思っていなかった為、少し僕は驚いた。
……ご令嬢を傷つけるのは本意ではない。男から断られたら傷つくだろうし。
伯爵は慎重に物事を進めるタイプで、僕の意思を確認せずにローザ嬢に話すのは伯爵らしくな……い…………ああ、そうか。
珍しく強引なやり方の伯爵の目論みに思い至る。
僕が女性を傷つけない事を見据えて、外堀を埋めていくつもりだな。これは。
なるほど。少し後手に回ってしまったか。
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