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棘花 ―イゲバナ―
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しおりを挟む用意された紅茶を一口飲み、渇いた喉を潤す。
暫し、伯爵の思惑について考えを巡らせていたが、黒髪のかわいらしいご令嬢がほどなくして現れ、思考の中断を余儀なくされた。
「ジェスター様、初めてお目にかかります。ベリル家の娘、ローザです。父にお相手をするように仰せつかりました。同席してもよろしいですか?」
「どうぞ」
僕が笑みを向けると彼女も表情を柔らかくし、僕と向かい合う形でソファーに座る。
「こちらのお菓子はお勧めですのよ」
ローザ嬢はケーキスタンドの上段に乗っているタルトを勧めた。ベリーがたっぷりのった赤い色が印象的なタルトだ。
綺麗なタルト……クラリスが喜びそうだな。
僕は幸せそうにお菓子を頬張るクラリスの姿を頭に浮かべ、頰を緩ませる。
クラリスはベリー系のお菓子やドリンクには目がないから、このベリータルトを見たら喜ぶだろう。ぜひ我が家で作って、クラリスに贈りたいものだ。
「美味しそうですね」
「今、菓子職人にベリーのお菓子を勉強してもらってますの。こちらは渾身の作ですわ」
にこやかに微笑むローザ嬢の笑顔は、男ならばドキリとしてしまうであろう華やかさをまとっている。
悔しいな。アルベルトかミカエルにお似合いのご令嬢なんだけどな。
これだけ華があるご令嬢ならば、結婚相手もよりどりみどりだろうに……伯爵はローザ嬢の縁談に興味がないらしい。
僕以外の男とは。
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