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私がコートと結婚した経緯を説明すると、マリアンヌはまずい物でも食べたような顔になった。
「つまり……コートと関係を結べば慰謝料と違約金が発生すると……そういうことですね?」
私は頷く。
「ええ、その通りよ。もちろんコートに一番多くの金額が請求されると思うけど、あなたにもある程度の額の請求がいくと思うわ」
「ま、待て!!!」
コートが焦ったように口を開いた。
彼の顔は真っ青で汗が額から噴き出していた。
おそらく今まで契約のことはずっと忘れていたのだろう。
「ティナ! こんな契約はあんまりじゃないか! とても人の所業とは思えない。今すぐ破棄してもらおう!」
「そんなこと言っても、無理だと思うわよ。大体あなただってこれを説明されて納得した上で私と結婚したのでしょう。違う?」
「うぅ……だが、せっかく真実の愛に目覚めたというのに、こんなことはあってはいけない! それに慰謝料と違約金の二重でお金を払うシステムもおかしい!」
確かにそれは私も少し可哀そうに思うが、契約上そうなっているのだから仕方ない。
きっとコートの両親が、何が何でも息子を誰かと結婚させたかったのだろう。
コートの将来というよりかは、公爵家としての体裁を守るためだと思うが。
「とにかくこの件はまた話し合わせてもらう! 来週に両家で会議を開こう! それでいいな!」
「ええ、私に異論はないわ。マリアンヌさんも同席してくださるならね?」
マリアンヌの方をチラッと見ると、彼女は慎重に頷いた。
それを見てコートは立ち上がると、出かけてくるといい、マリアンヌの手を引いて応接間を出ていった。
「全く……」
呆れのため息をはくと、彼等と入れ違いにコートの弟であるアラルドが入ってくる。
コートよりも端正な顔立ちだが、大人しい性格の彼は、私を見つけると、心配そうに近づいてくる。
「ティナ。大丈夫かい? また兄さんに何かされたのかい?」
コートと結婚してから、思い描いた夫婦になることが出来ずに苦悩していた私を、アラルドはよく励ましてくれた。
今もこうして私とコートの様子を見に、屋敷を訪れてくることがあるのだ。
「アラルド。実はね……」
私が今までのことを全部説明すると、アラルドは眉間にしわを寄せ、怒気の籠った声で言う。
「兄さんはとんでもない人だ……本当にすまない、ティナ。君をたくさん傷つけてしまって」
「いえ、いいのよ。来週の会議でも決まると思うけど、私たち離縁すると思うから。愛人がいて、しかも子供まで作って、そのまま夫婦として生活することなんてできないしね。もちろん契約書にも、不貞をした場合は即時離婚って書いてあるし」
「確かに契約上はそうなると思うけど、僕が心配しているのは君の気持ちの方だよ……ずっと兄さんを信じてやってきたのに、裏切られて……本当は泣きたいほどに悲しいだろう?」
やっぱりコートよりもアラルドの方が数倍も魅力的だ。
私の表面には現れない心の声に気づき、こんなにも心配してくれるのだから。
いっそのこと彼と結婚できたらなと思い、すぐにかぶりを振って、その思いを振り払う。
「ありがとうアラルド。でも大丈夫。私なら大丈夫だから」
正直、アラルドのことが好きだった。
しかし好きだからこそ、私みたいな人間は彼には似合わないと思ってしまう。
先ほどマリアンヌという美女を目の当たりにしたことに感化され、アラルドにはもっと素敵で美人な女性がいいだろうと思ったのだ。
「本当に?」
アラルドの水晶のような綺麗な瞳が私を見つめていた。
私は頷く。
「うん。本当よ。そ、それより昼食にしようと思うんだけど、あなたも一緒にどう?」
アラルドは私を探るように見つめていたが、息をはくと、口角を上げた。
「分かった。ごちそうになるよ」
「よかった。じゃあ食堂に行きましょう。案内するわね」
アラルドと共に応接間を出る私。
食堂までの長い廊下はいつもより暗く、寂しく見えた。
この廊下も、あと一週間で見納めになるのかなとふと思った。
「つまり……コートと関係を結べば慰謝料と違約金が発生すると……そういうことですね?」
私は頷く。
「ええ、その通りよ。もちろんコートに一番多くの金額が請求されると思うけど、あなたにもある程度の額の請求がいくと思うわ」
「ま、待て!!!」
コートが焦ったように口を開いた。
彼の顔は真っ青で汗が額から噴き出していた。
おそらく今まで契約のことはずっと忘れていたのだろう。
「ティナ! こんな契約はあんまりじゃないか! とても人の所業とは思えない。今すぐ破棄してもらおう!」
「そんなこと言っても、無理だと思うわよ。大体あなただってこれを説明されて納得した上で私と結婚したのでしょう。違う?」
「うぅ……だが、せっかく真実の愛に目覚めたというのに、こんなことはあってはいけない! それに慰謝料と違約金の二重でお金を払うシステムもおかしい!」
確かにそれは私も少し可哀そうに思うが、契約上そうなっているのだから仕方ない。
きっとコートの両親が、何が何でも息子を誰かと結婚させたかったのだろう。
コートの将来というよりかは、公爵家としての体裁を守るためだと思うが。
「とにかくこの件はまた話し合わせてもらう! 来週に両家で会議を開こう! それでいいな!」
「ええ、私に異論はないわ。マリアンヌさんも同席してくださるならね?」
マリアンヌの方をチラッと見ると、彼女は慎重に頷いた。
それを見てコートは立ち上がると、出かけてくるといい、マリアンヌの手を引いて応接間を出ていった。
「全く……」
呆れのため息をはくと、彼等と入れ違いにコートの弟であるアラルドが入ってくる。
コートよりも端正な顔立ちだが、大人しい性格の彼は、私を見つけると、心配そうに近づいてくる。
「ティナ。大丈夫かい? また兄さんに何かされたのかい?」
コートと結婚してから、思い描いた夫婦になることが出来ずに苦悩していた私を、アラルドはよく励ましてくれた。
今もこうして私とコートの様子を見に、屋敷を訪れてくることがあるのだ。
「アラルド。実はね……」
私が今までのことを全部説明すると、アラルドは眉間にしわを寄せ、怒気の籠った声で言う。
「兄さんはとんでもない人だ……本当にすまない、ティナ。君をたくさん傷つけてしまって」
「いえ、いいのよ。来週の会議でも決まると思うけど、私たち離縁すると思うから。愛人がいて、しかも子供まで作って、そのまま夫婦として生活することなんてできないしね。もちろん契約書にも、不貞をした場合は即時離婚って書いてあるし」
「確かに契約上はそうなると思うけど、僕が心配しているのは君の気持ちの方だよ……ずっと兄さんを信じてやってきたのに、裏切られて……本当は泣きたいほどに悲しいだろう?」
やっぱりコートよりもアラルドの方が数倍も魅力的だ。
私の表面には現れない心の声に気づき、こんなにも心配してくれるのだから。
いっそのこと彼と結婚できたらなと思い、すぐにかぶりを振って、その思いを振り払う。
「ありがとうアラルド。でも大丈夫。私なら大丈夫だから」
正直、アラルドのことが好きだった。
しかし好きだからこそ、私みたいな人間は彼には似合わないと思ってしまう。
先ほどマリアンヌという美女を目の当たりにしたことに感化され、アラルドにはもっと素敵で美人な女性がいいだろうと思ったのだ。
「本当に?」
アラルドの水晶のような綺麗な瞳が私を見つめていた。
私は頷く。
「うん。本当よ。そ、それより昼食にしようと思うんだけど、あなたも一緒にどう?」
アラルドは私を探るように見つめていたが、息をはくと、口角を上げた。
「分かった。ごちそうになるよ」
「よかった。じゃあ食堂に行きましょう。案内するわね」
アラルドと共に応接間を出る私。
食堂までの長い廊下はいつもより暗く、寂しく見えた。
この廊下も、あと一週間で見納めになるのかなとふと思った。
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