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まるで闇の中で生きている気がした。
周りを見渡しても光なんて一切なくて、私は深い闇の中で必死にもがくだけだ。
「お父様! このままいけば新記録ですよ! 1分……あっ、もう終わりか……」
私は水が入ったバケツから顔を上げた。
息が激しく乱れ、必死に顔を手で拭いた。
しかし私が落ち着くのを妹のマーサは待ってくれず、悔しそうに私の胸ぐらを掴んだ。
「メルダ、あと少しで新記録だったのよ。あと5秒、5秒だけその中に顔をつけていればよかったのに。おかげで賭けに負けたじゃない! どうしてくれるのよこのゴミ女!」
「ご、ごめんなさい……でも……」
「言い訳するな!!!」
マーサはおもむろに手を後ろに引くと、私の頬をぴしゃりと叩いた。
鋭い痛みが走り、顔についた水滴が空中をはねた。
その様子を見て、父はゲラゲラと笑い声を上げる。
「おいおいマーサ、顔はだめだろ。こんな奴でも一応は女なのだから。嫁の貰い手がいなくなってしまう。それにそんなことよりも先にすることがあるんじゃないかい?」
「くそっ……!」
マーサは私を床に投げるように胸ぐらから手を離すと、ポケットから銀貨を数枚取り出して、父に渡した。
「お父様。次は負けないからね」
「おう、望むところだ」
二人は私で賭けをしていた。
バケツに張られた水の中でどれくらい息を止めていられるか……もちろんそれをやったのは私だ。
……本当のお父様が死んでお母様がこの二人を家に連れて来たのが全ての始まりだった。
最初は優しい父と人懐っこい妹だと思っていた。
しかし病弱な母が死んだ時、それは私の愚かな勘違いであったことが判明した。
二人はすぐに本性を現わした。
父は母の遺産をギャンブルに使って全部無くすと、怒り狂って私に暴力を振るい始めた。
それを見たマーサも一緒になって、私を叩いた。
最初は見かねて心配してくれる使用人やメイドもいたが、次の日には彼女は家から消えていた。
次第に私を助けてくれる人は消えて、毎日のように暴力を振るわれる日々を過ごした。
父は金遣いが荒く、金に汚かった。
領地経営の不正は日常茶飯事で、他にも違法なことをいくつかやっているみたいだった。
しかし父が怖くて、誰も告発することは出来なかった。
マーサもその父の邪悪な素質を受け継いでいるのか、私の物を奪うようになった。
母の形見にまで手を出してきた時は、私も思わず声を上げてしまったが、マーサは父に言いつけて、私は制裁を受けた。
……家族に虐げられる日々が続いて、もう一年になる。
この闇の中できっと私は一生を終えるのだろう。
二人の賭けの対象にされて、まるで見世物のように笑われるだけの人間になるのだろう。
真夜中に私は窓から月を見上げていた。
数時間前に水に顔をつけた時の感覚がまだ残っていた。
それを拭おうと手をやるも、目からとめどなく涙が溢れてくる。
煌々と輝く月が憎らしく思えた。
しかし月には何の罪もないと知ると、途端に自分が愚かで惨めな人間に思えてくる。
次の日。
父から結婚相手が告げられた。
この家を出られると一瞬期待したものの、それはすぐに打ち砕かれる。
「結婚相手はあのブラック公爵だ。良かったな、メルダ」
ブラック公爵には悪い評判しかなかった。
使用人や妻を奴隷のように扱い、違法スレスレのことまでやっていると聞いたことがある。
実際、彼の妻となった二人の女性は既にこの街から姿を消していた。
不安がる私を見て、父は不気味な笑みを浮べていた。
周りを見渡しても光なんて一切なくて、私は深い闇の中で必死にもがくだけだ。
「お父様! このままいけば新記録ですよ! 1分……あっ、もう終わりか……」
私は水が入ったバケツから顔を上げた。
息が激しく乱れ、必死に顔を手で拭いた。
しかし私が落ち着くのを妹のマーサは待ってくれず、悔しそうに私の胸ぐらを掴んだ。
「メルダ、あと少しで新記録だったのよ。あと5秒、5秒だけその中に顔をつけていればよかったのに。おかげで賭けに負けたじゃない! どうしてくれるのよこのゴミ女!」
「ご、ごめんなさい……でも……」
「言い訳するな!!!」
マーサはおもむろに手を後ろに引くと、私の頬をぴしゃりと叩いた。
鋭い痛みが走り、顔についた水滴が空中をはねた。
その様子を見て、父はゲラゲラと笑い声を上げる。
「おいおいマーサ、顔はだめだろ。こんな奴でも一応は女なのだから。嫁の貰い手がいなくなってしまう。それにそんなことよりも先にすることがあるんじゃないかい?」
「くそっ……!」
マーサは私を床に投げるように胸ぐらから手を離すと、ポケットから銀貨を数枚取り出して、父に渡した。
「お父様。次は負けないからね」
「おう、望むところだ」
二人は私で賭けをしていた。
バケツに張られた水の中でどれくらい息を止めていられるか……もちろんそれをやったのは私だ。
……本当のお父様が死んでお母様がこの二人を家に連れて来たのが全ての始まりだった。
最初は優しい父と人懐っこい妹だと思っていた。
しかし病弱な母が死んだ時、それは私の愚かな勘違いであったことが判明した。
二人はすぐに本性を現わした。
父は母の遺産をギャンブルに使って全部無くすと、怒り狂って私に暴力を振るい始めた。
それを見たマーサも一緒になって、私を叩いた。
最初は見かねて心配してくれる使用人やメイドもいたが、次の日には彼女は家から消えていた。
次第に私を助けてくれる人は消えて、毎日のように暴力を振るわれる日々を過ごした。
父は金遣いが荒く、金に汚かった。
領地経営の不正は日常茶飯事で、他にも違法なことをいくつかやっているみたいだった。
しかし父が怖くて、誰も告発することは出来なかった。
マーサもその父の邪悪な素質を受け継いでいるのか、私の物を奪うようになった。
母の形見にまで手を出してきた時は、私も思わず声を上げてしまったが、マーサは父に言いつけて、私は制裁を受けた。
……家族に虐げられる日々が続いて、もう一年になる。
この闇の中できっと私は一生を終えるのだろう。
二人の賭けの対象にされて、まるで見世物のように笑われるだけの人間になるのだろう。
真夜中に私は窓から月を見上げていた。
数時間前に水に顔をつけた時の感覚がまだ残っていた。
それを拭おうと手をやるも、目からとめどなく涙が溢れてくる。
煌々と輝く月が憎らしく思えた。
しかし月には何の罪もないと知ると、途端に自分が愚かで惨めな人間に思えてくる。
次の日。
父から結婚相手が告げられた。
この家を出られると一瞬期待したものの、それはすぐに打ち砕かれる。
「結婚相手はあのブラック公爵だ。良かったな、メルダ」
ブラック公爵には悪い評判しかなかった。
使用人や妻を奴隷のように扱い、違法スレスレのことまでやっていると聞いたことがある。
実際、彼の妻となった二人の女性は既にこの街から姿を消していた。
不安がる私を見て、父は不気味な笑みを浮べていた。
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