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推しの情報収集はプロ級
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尊く麗しいグレイシア様のために、断罪イベントを回避する。そのために二人は記憶にある伝手を使って、あらゆる情報を調べた。まずは正確なストーリーの進み具合、ヒロインのルート選択、各キャラの好感度、グレイシアの動きなど確認するところはたくさんあるからだ。
善は急げと、授業が終わった二人は同じ馬車でそのままザッケンベルト家に帰り、サロンで作戦会議をすることにした。一緒に馬車に乗って来たミレアに、ザッケンベルト家の使用人たちは驚いたようだったが、二人はお茶とお菓子の用意だけしてもらうと人払いをして話し合う。そして情報を合わせた結果……。
「ヒロインいないって、どういうこと?」
「しかも、第一王子がかなりチャラいんだけど」
だいたいはゲームのストーリーと同じように進んでいたのだが、大きな違いが二つあった。それが、ヒロインがいないことと、第一王子の性格が違うことだ。他の攻略キャラはおおむね同じであり、それぞれすでに婚約者がいたり、学園生活を満喫していたりしていた。
「誰もヒロインの名前を知らなかったし、記憶にある限りの茶会や夜会でも見てないの」
首をひねるミレアと腕を組んで唸るユーリオ。
「プレイヤーがいないから、ヒロインがいないってことか?」
「う~ん、わかんないけど、王子よりは問題じゃないと思う」
「だよな……」
ヒロインのことは軽く流して、話は王子へと移る。ラブ鐘の攻略キャラで断トツ人気だったのが、第一王子のフーリスだった。ヒロインより二つ上で、学園の三年生である。さらさらの金髪に、青色の目、タイトル画面の中心を飾る微笑の王子様で、優しく常にキラキラしていたのだが。ユーリオが宙に視線を飛ばし、聞いた話を思い出しながら口を開く。
「あんなに女好きで、あっちこっちの女の子に声かける奴だとは思わなかった……しかも、婚約者がいる子にも手を出したみたいで、男たちの恨みの声がすごかったぜ」
「うん……そのせいで、王子の婚約者のグレイシア様が火消しに走り回ってるって」
グレイシアはどのルートでも王子の婚約者であり、その立場を使ってヒロインの邪魔をしてくるストーリーだった。それが今回は苦労をされているようで、ミレアが茶飲み友だちから話を聞いた時は、涙ぐんでしまったほどだ。
「俺が聞いた中にも、グレイシア様じきじきに謝りにこられて、恐縮したって。婚約解消をする場合は、良縁を紹介してもらったってよ……まじ神かよ」
二人が聞きまわった感じでは、王子に対する評価は最悪で、グレイシアと親密にしている人はいないものの、同情や感謝の気持ちを寄せる人が多かった。これもゲームとは違うところで、気をよくした二人はここぞとばかりにグレイシアの素晴らしさを熱く語ってしまい周りを驚かせていたのだが、二人は気づいていないことである。
そして明らかになった問題が一つ。
「ヒロインがいないなら、断罪イベントは回避できるかもって思ったけど、なんかやばそうなのがいるのよね」
「あぁ、最近王子とずっと一緒にいる子だろ? 確か……エヴィリーっていう。王子が入れ込んでいるみたいで、本気にしているんじゃないかって噂になってた。あんなの、ゲームにはいなかったよな」
「いないわよ。今日ちらっと見たけど、あんなあからさまに媚びを売ってるような子のせいでグレイシア様のお心が晴れないなんて、腹が立つ!」
「俺達でグレイシア様をお守りしよう!」
「うん!」
二人はしっかりと頷きあい、話がひと段落したところで用意してもらったケーキのお皿を近くに寄せる。チョコレートケーキとシフォンケーキ。どちらもおいしそうだ。ミレアはチョコレートケーキを選び、フォークで大きく切ってぱくりと食べる。ご令嬢たちがいるお茶会では品がないと眉を顰められるが、今はユーリオだけ。
「おいし~」
口の中にチョコレートの味わいが広がり、ほろ苦いチョコクリームがまたいい。少し洋酒の香りもして、ミレアは笑みがこぼれた。ユーリオもシフォンケーキを食べ、「うまい」と頷く。
「乙女ゲームの世界だからか、食事はうまいよな」
「ね~。学食に普通にそばとかうどんあったもんね。なんでもありって感じ」
元日本人の二人にとってはありがたいが、考えてみれば近世ヨーロッパ風の世界なのに不思議な話だ。ミレアはチョコレートケーキを半分くらい食べたあたりで、じっとユーリのシフォンケーキに視線を向けた。わかりやすく矢印がでており、ユーリオは「しょうがないなぁ」と大きめに切り分けてフォークで刺した。
「ほらよ」
そうして口を開けて待っているミレアに向ければ、魚のごとくパクリと食らいつく。はしたないと窘められる行いだが、幸いここには二人しかいない。前世では自然なことで、これが二人の距離感だった。
「まったくお前は~」
「おいし~。シフォンケーキもいいよね。おいしいケーキが毎日食べられるなら、ザッケンベルト家にお嫁に入ってもいいかも」
ザッケンベルト家はケーキ作りで有名で、王都内に有名ケーキ屋をいくつか展開している。当然屋敷で働いているパティシエも超一流で、ミレアはザッケンベルト家を訪れるたびにおいしいケーキに舌鼓を打っていたのだ。
そして小腹も満ちた二人は、今後のストーリーと問題の女の子が取りそうな行動とありそうなストーリーを話し合っていく。
「美しくて優しいグレイシア様のために、頑張るわよ」
「あぁ、影からグレイシア様をお守りしよう!」
二人はやる気に満ちた顔をしており、グレイシア断罪イベント回避に向け動き出すのである
善は急げと、授業が終わった二人は同じ馬車でそのままザッケンベルト家に帰り、サロンで作戦会議をすることにした。一緒に馬車に乗って来たミレアに、ザッケンベルト家の使用人たちは驚いたようだったが、二人はお茶とお菓子の用意だけしてもらうと人払いをして話し合う。そして情報を合わせた結果……。
「ヒロインいないって、どういうこと?」
「しかも、第一王子がかなりチャラいんだけど」
だいたいはゲームのストーリーと同じように進んでいたのだが、大きな違いが二つあった。それが、ヒロインがいないことと、第一王子の性格が違うことだ。他の攻略キャラはおおむね同じであり、それぞれすでに婚約者がいたり、学園生活を満喫していたりしていた。
「誰もヒロインの名前を知らなかったし、記憶にある限りの茶会や夜会でも見てないの」
首をひねるミレアと腕を組んで唸るユーリオ。
「プレイヤーがいないから、ヒロインがいないってことか?」
「う~ん、わかんないけど、王子よりは問題じゃないと思う」
「だよな……」
ヒロインのことは軽く流して、話は王子へと移る。ラブ鐘の攻略キャラで断トツ人気だったのが、第一王子のフーリスだった。ヒロインより二つ上で、学園の三年生である。さらさらの金髪に、青色の目、タイトル画面の中心を飾る微笑の王子様で、優しく常にキラキラしていたのだが。ユーリオが宙に視線を飛ばし、聞いた話を思い出しながら口を開く。
「あんなに女好きで、あっちこっちの女の子に声かける奴だとは思わなかった……しかも、婚約者がいる子にも手を出したみたいで、男たちの恨みの声がすごかったぜ」
「うん……そのせいで、王子の婚約者のグレイシア様が火消しに走り回ってるって」
グレイシアはどのルートでも王子の婚約者であり、その立場を使ってヒロインの邪魔をしてくるストーリーだった。それが今回は苦労をされているようで、ミレアが茶飲み友だちから話を聞いた時は、涙ぐんでしまったほどだ。
「俺が聞いた中にも、グレイシア様じきじきに謝りにこられて、恐縮したって。婚約解消をする場合は、良縁を紹介してもらったってよ……まじ神かよ」
二人が聞きまわった感じでは、王子に対する評価は最悪で、グレイシアと親密にしている人はいないものの、同情や感謝の気持ちを寄せる人が多かった。これもゲームとは違うところで、気をよくした二人はここぞとばかりにグレイシアの素晴らしさを熱く語ってしまい周りを驚かせていたのだが、二人は気づいていないことである。
そして明らかになった問題が一つ。
「ヒロインがいないなら、断罪イベントは回避できるかもって思ったけど、なんかやばそうなのがいるのよね」
「あぁ、最近王子とずっと一緒にいる子だろ? 確か……エヴィリーっていう。王子が入れ込んでいるみたいで、本気にしているんじゃないかって噂になってた。あんなの、ゲームにはいなかったよな」
「いないわよ。今日ちらっと見たけど、あんなあからさまに媚びを売ってるような子のせいでグレイシア様のお心が晴れないなんて、腹が立つ!」
「俺達でグレイシア様をお守りしよう!」
「うん!」
二人はしっかりと頷きあい、話がひと段落したところで用意してもらったケーキのお皿を近くに寄せる。チョコレートケーキとシフォンケーキ。どちらもおいしそうだ。ミレアはチョコレートケーキを選び、フォークで大きく切ってぱくりと食べる。ご令嬢たちがいるお茶会では品がないと眉を顰められるが、今はユーリオだけ。
「おいし~」
口の中にチョコレートの味わいが広がり、ほろ苦いチョコクリームがまたいい。少し洋酒の香りもして、ミレアは笑みがこぼれた。ユーリオもシフォンケーキを食べ、「うまい」と頷く。
「乙女ゲームの世界だからか、食事はうまいよな」
「ね~。学食に普通にそばとかうどんあったもんね。なんでもありって感じ」
元日本人の二人にとってはありがたいが、考えてみれば近世ヨーロッパ風の世界なのに不思議な話だ。ミレアはチョコレートケーキを半分くらい食べたあたりで、じっとユーリのシフォンケーキに視線を向けた。わかりやすく矢印がでており、ユーリオは「しょうがないなぁ」と大きめに切り分けてフォークで刺した。
「ほらよ」
そうして口を開けて待っているミレアに向ければ、魚のごとくパクリと食らいつく。はしたないと窘められる行いだが、幸いここには二人しかいない。前世では自然なことで、これが二人の距離感だった。
「まったくお前は~」
「おいし~。シフォンケーキもいいよね。おいしいケーキが毎日食べられるなら、ザッケンベルト家にお嫁に入ってもいいかも」
ザッケンベルト家はケーキ作りで有名で、王都内に有名ケーキ屋をいくつか展開している。当然屋敷で働いているパティシエも超一流で、ミレアはザッケンベルト家を訪れるたびにおいしいケーキに舌鼓を打っていたのだ。
そして小腹も満ちた二人は、今後のストーリーと問題の女の子が取りそうな行動とありそうなストーリーを話し合っていく。
「美しくて優しいグレイシア様のために、頑張るわよ」
「あぁ、影からグレイシア様をお守りしよう!」
二人はやる気に満ちた顔をしており、グレイシア断罪イベント回避に向け動き出すのである
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