【本編完結】白永くんはいっぱい食べたい ~転生したら食事の神だったので、すべて美味しくいただきます!~

縁代まと

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番外編章

【番外編】結婚式は秋風の中 後編

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 冷たくも真冬のような厳しさはない風が吹く。
 それはかつてハンナベリーとパーシモン師弟が天界から迎えにきた時に似ていた。
 あの時と異なるのは――今回は他にも沢山の神や人間たちを、会場で俺たちから出迎えるってところだな。

 こちらでも新郎新婦が揃って白い服を着るのは米を連想させるからだそうだ。
 ふたりで新たに家庭を築いた後も食事に感謝しながら共に生きていく、そんなことを誓う意図もあるらしい。
 それなら365日やってるぞと俺が零すと、コムギが「シロさんは感謝のプロですよね」と強く同意してくれた。だろ?

 それはそれとして、とコムギの姿を見る。

「……、純白のドレスも綺麗だなぁ」
「えへへ、母が着たものと似たデザインにしてもらったんです」
「そしてそれを着たコムギも綺麗だし可愛い。ミールさんもお母さんに同じことを思ったんじゃないかな」

 しみじみとしながら感想を伝えると、コムギは耳の先まで真っ赤になった。
 頭に付けた髪飾りも純白なので頬と耳の赤みが余計によくわかる。
 でも首から胸元にかけてメッシュ生地になった裾の広いドレスを着たコムギは本当に綺麗だったから、俺だってはっきり言わざるを得ないよな。
 そっと胸にしまっておける感想じゃない。

 コムギも負けじと「シロさんもよく似合っててカッコいいです! すごく!」と熱く語ってくれたが、その姿も可愛くてにこにこしていると何も言っていないのに再び照れて俯いてしまった。
 アホ毛もしなしなになっている。可愛い。

 そうこうしている間に結婚式の開始を告げる鐘が鳴ると、会場の広場へと次々と参列者が入ってきた。
 俺とコムギはふたりで大きなバスケットを持って出迎える。
 普段はもっと小さいものを使用するそうだが、俺が食事の神であることを鑑みてふたりでようやく持てる特注サイズをミールたちが作ってくれた。

 ただ多分これじゃ足りないな、サッカーゴールくらい欲しい。

「一番乗り! シロ、コムギさん、改めておめでとう。色々ととんでもない迷惑をかけたけれど……殿下共々、これからも宜しく頼む」
「こっちこそ! これからも顔を見せてくれよ。あと困ったことがあったらいつでも言ってくれ」

 タージュは微笑んで箱入りのキャロットケーキをバスケットに入れてくれた。
 柔らかくて美味しそうなケーキだ。それに白いクリームの上に色を付けたクリームでニンジンが描いてあって可愛らしい。
 お、使われているのはタージュが作ったニンジンだな?
 そう言い当てるとタージュは「自慢の秋ニンジンなんだ」と嬉しそうに笑う。

 タージュはよく自作の野菜や果物を持ってきてくれるが、それを使った料理を贈ってくれるのは珍しい。そのレアさに感謝しつつ食べると言うと「大袈裟だなぁ」と笑われてしまった。

 次に前へ進み出たのはフライデルだった。
 浮かせたベルトを器用に操り、リボンの巻かれた小さな包みをポスッとバスケットに入れてそれを指さす。

「ミルククッキーだ。俺が焼いたやつだぞ、ありがたく食えよ」
「手作りか! クッキーってシンプルだけど結構難しかったんじゃ……」
「ああ、失敗した失敗した。まあ焦げてはねぇし全部俺が食ったが」

 甘いもの好きなフライデルは失敗作の後始末も苦ではなかったみたいだ。
 半透明の袋の向こうに見えるミルククッキーは綺麗な色をしているし、形も崩れていない。フライデルの頑張りが見えるようで嬉しかった。

 フライデルはベルトではなく両腕を伸ばして俺たちの肩をぽんぽんと叩く。彼なりの祝福らしい。
 続けてハンナベリーとパーシモンがいそいそと前へ出る。
 何度か後ろを振り返っているのは……ああ、そうか。上位の神に順番を譲ってもらったからソワソワしてるのか。

 俺たちが笑顔で出迎えると、ふたりは頬を紅潮させてイチゴと柿を使ったショートケーキをバスケットに入れてくれた。こちらも潰れないように箱入りだ。

「こっ、このたびはご結婚おめでとうございます!」
「このようなめでたい日にお呼び頂けたこと、ぼくたちの一生の誇りです!」
「あはは、そう固くならないでくれよ」

 そう声をかけてもふたりは緊張していたが、コムギが「また一緒にもつ鍋を食べましょうね!」と言うと声を合わせて「ぜひ!」と笑っていた。
 そんなふたりの後ろからレイトがやってくる。

「親父、コムギさん、これからも末永くお幸せにな。……ふっふっふ、そしてこの日のために必死こいて作ってきたものがあるんや、貰ってくれるか?」
「! もちろん! 一体なに――」

 レイトは自然な動きでバスケットの中に即席麺を入れた。
 その自然さたるや母親の買い物カゴに好きなものを突っ込む子供の如し。
 品物も日常的なものだったが……それは前世の世界でのことだ。こちらの世界では一度もお目にかかっていない。

 ただ、以前レイトが即席麺の再現に成功したという話は聞いていた。
 あの時はもっと完成度を高めてからご馳走してくれるとのことだったが……。

「き、窮めたのか!? それにこれって……」
「そう、即席麺の元祖とも言えるチキンくんラーメンや! パッケージも味も僕の時代のもんを再現したから、親父には合えへんかもしれんけど――」
「いや、超限定復刻版で買ったやつと同じだ! ありがとうなレイト!」

 そっちも窮めとんな! とレイトは笑って最後に俺たちと握手していった。
 その次に現れたのはロークァットとビズタリートの兄弟だ。
 ふたりは「我々は気の利いたものは贈れないぞ」などと言ってから、なんと王家印の羊羹をどっさりとくれた。しかも小豆だけでなく芋羊羹や抹茶羊羹、みかん羊羹など様々な味が詰まっている。

「日持ちする上に栄養もある甘味だ」
「しかも! このボクの発案で十種も味を用意した! まあ食事の神が味に飽きるということはないだろうが、あー……お前の新たな家族はそうではないだろう?」

 ビズタリートはコムギにまで気を配ってくれたらしい。
 いや普通に気の利いたものをくれてるじゃんか、と笑うと「あれは前置きのようなものだ」とあっけらかんと言われてしまった。でも嬉しいな。
 そんなビズタリートたちの陰からひょっこりと顔を出したコゲが言う。

「前にレイトから習った。こういうの、ツンデレっていう」
「たしかにそうだけど、ビズタリートに採用したくないなそれ……」
「なんだ!? 意味は理解できんが不名誉なことを言われている気がするぞ!?」

 そう喚くビズタリートをよそに、コゲがトコトコと近寄ってバスケットの中になにかを入れた。――わさびモンブランだ!

 奇抜なチョイスに思えるが、これはコゲがまだ堕ちて反転し苦しんでいた時に行なったフードファイトで俺と食べたものだった。
 コゲは仄かに笑ってみせる。

「あのフードファイトの記憶、我の中にある。面白い味だった。……あの時、久しぶりにそう思えた。それをまたシロたちと味わいたい」
「コゲ……。ああ、ありがとう。あとで一緒に食べような!」

 俺がそう頷くと、コゲは心底嬉しそうにツインテールを揺らして頷き返した。
 その真上から大きな影が落ちる。見上げなくてもわかるぞ、レモニカだ。
 レモニカの隣にはソルテラも立っており、手には花束を持っている。ピンク色や赤色の花びらが目に鮮やかだった。

「おめでとう、ふたりとも。これ……食用の花なの。味という味はないけれど、料理の彩りとして使ってもらえるかしら」
「! はいっ、いただきます! デザートに合いそうですね」
「ふふ、じつはオマケだけどこんなのも作ってきたのよ」

 そう言ってソルテラが取り出したのは花びらの入ったアイスクリーム。
 食用の花っていうのはエディブルフラワーだ。存在は知っていたがこんな使い方もあるんだな、と思わず凝視してしまう。
 なんでも今回は氷の神の特製氷を入れてもらったそうで、しばらくはこのままでも溶けずに保存できるそうだ。

「花だけにしようと思ったのだけれど、こんな珍しいものを見ていたらなにか作りたくなってしまって……ふふ、楽しませてもらったわ」

 ソルテラは本当に楽しそうに笑う。
 贈る側も贈られる側も楽しめるなんて素敵なプレゼントだ。
 しみじみとそう思っていると、レモニカが「儂からはこれじゃ!」と肉まんを取り出した。
 来た時に棒付きバウムクーヘンをくれたが、あれはあくまでお土産だったので結婚式は結婚式で贈り物を用意してくれたらしい。

 しかしこの肉まん、めちゃくちゃ派手だ。
 具体的に言うと真っ赤だ。それになんだかスパイシーな香りがしている。

「これは……カレーの匂い?」
「そう! じゃが、あくまで主役は肉。カレー味のミンチ肉を激辛生地で包んだホカホカ肉まんじゃ。秋とはいえ少し肌寒いと思ってな、これで温まれ!」

 ちなみに冷めても辛さで一気に温まるぞ、とレモニカは親指を立てた。
 コムギがさっきとは別の意味で真っ赤にならないかちょっと心配だな……!
 お茶もいっぱい用意して楽しませてもらうと伝えると、レモニカは満足そうに「そうしろそうしろ」と頷いた。

 次にスイハがババンッと効果音がしそうな勢いで現れ、バスケットに入らないほど大きなプレゼントボックスをドドンッと置く。ドドンッの音はマジで聞こえた。

「食事の神! このスイハが数多の星屑のような飴を作ってきましたよ!」

 手作りが多いのは手土産に手作り品を持っていく文化も関わってるんだろうか。
 嬉しいがスイハの圧がいつもと同じく強すぎてコムギが仰け反っている。
 その腰を支えながらプレゼントボックスの中を確認すると、星型ラムネが封入された丸い飴が沢山詰まっていた。ご丁寧に個別包装されている。
 多分これはレイトに手伝ってもらったな?

 スイハはその中から一粒摘まみ上げると、それをバスケットに入れた。
 結婚式の流れは大切にしてくれるらしい。
 そのまま俺との出会いからここに至るまでの話を語り始めたので、これは長くなるぞ! っと身構えていると「このままじゃ日が暮れるぞ」と声がかかった。

 セリヌンティウスとミンティークを連れたバージルだ。

「! なんということでしょう、ついつい熱くなってしまいました。食事の神、旧食事の神の巫女、おふたりの良き未来を夜の女神も願っていますよ。そのことをお忘れなきよう!」
「あはは、これは絶対に忘れられそうにもないな」

 一礼して去っていったスイハの後ろから改めてバージルたちが近寄り、三本のペン型チョコが入った箱をバスケットに入れる。
 これはミンティークがペンの神だからだろうか?
 そう眺めているとバージルが口を開く。

「天界には三本のペンという逸話があってね」
「三本のペン……?」
「そう。ある神が眷属に一本ずつペンを与えて世界のことを記録させた。しかし一本のペンでは書ききれない情報が現れ、三柱が協力して初めて記録できたという話だ」
「さ、三子教訓状!?」

 なんだそれは? という顔をしているバージルに「気にしないでくれ」と咳払いして先を促す。

 バージルは「これはその逸話になぞらえて作ったんだよ」とチョコを指した。
 どうやら一本ずつバージルたちが作ったらしい。

「君には協力することを教えられたからね」
「我々は貴方に酷いことをしました。しかし貴方はバージル様を救う方法を示してくださった」
「そんな感謝の気持ちも籠めてあります」

 セリヌンティウスとミンティークもそう言って微笑む。
 前よりも角が取れて良かった。やっぱりあの時はバージルが限界だったのもあって、ふたりも余裕がなかったんだろうな。

「お前もこれからは巫女と――コムギと協力して生きていくといい」
「ああ、もちろん」
「そしてボクにも好きな時に頼れ。管理の神の持つ情報が食事の神の役に立つこともあるだろうから」

 そう言い残してバージルたちは俺たちの前から退いた。
 次に進み出たのはニッケだ。今日は女性の姿をしている。ニッケの姿は男女両方見たことがあるが、最初に目にしたのが女性のほうだったからか、やっぱりこっちがしっくりくるな。

 ニッケはカラフルなマカロンをぽいっとバスケットに入れると、贈り物の主役はこちらだとでも言わん勢いで一枚の絵を差し出した。

「本当はオレ様も一番乗りを狙っていたんだが、ギリギリまでこれを描いていたら微妙な順番になってしまったな」
「……! これって、あのっ、私たちですか!?」
「他のものに見えるような描き方はしていないはずだが?」

 コムギの反応にニッケはにやりと笑う。

 絵に描かれていたのは結婚式を迎える俺とコムギだった。つまり今現在の姿だ。
 ニッケは下界に着いてからずっとこれを描いていたらしい。
 またなにか興味をくすぐるものを見つけて、それを自由気ままに描いているんだと思ってたんだが……まさか俺たちだったとは。
 しかもいつもの短時間のスケッチではなく、色がしっかりとついたものだった。

「モデルにする許可取りが事後承諾になってしまったが、まあ祝いの席だ。大目に見てくれ」
「いやいや、むしろありがとう! 結婚式の記念撮影って憧れてたんだ」

 写真じゃないが写真と同じくらい精巧な出来だ。これはもう記念撮影と言っても差し支えない。というか写真より出来が良いかもしれないな。
 また飾らせてもらうよ、と頭を下げるとニッケは「他にも描いてほしいものがあれば言え。対価は頂くが!」と笑って去っていった。
 その時は面白ポーズだけは回避したいところだな。

 ニッケの後は村人たちが続き、それぞれ思い思いの食べ物を入れてくれた。
 美味しそうなしっとり系の焼き芋や三色団子があったかと思えば銀杏の詰め合わせだったり鴨肉の燻製だったりとバリエーション豊かだ。
 コムギの伯父であるムールの姿もあり、なにやらデカい袋をくれたが中身は巨大わたがしだそうだ。食べ甲斐がありそうだな……!

 タバスコメントサーカスのみんなは、なんと人数分のコロッケを作ってきてくれた。そう、人数分だ。最高の量だ。
 前に少し話した際、サーカスで作ったコロッケが懐かしいと言ったのを覚えていてくれたらしい。さすがにバスケットには入りきらなかったので、スイハと同じく代表の一個だけを入れてもらった。

 そしてビストとバルも現れ、誓いの言葉を問う前にバスケットへとハート形のチョコをそれぞれが入れていく。
 箱にはキラキラのラメが入っており、リボンも可愛らしくてちょっと雰囲気がバレンタインっぽい。

 他の神々も思い思いのものをバスケットに入れてくれる。
 そして最後に現れたのは――コムギの父、ミールだった。

「シロさん、娘のことを宜しくお願いします……!」
「うわぁ! 一言目から涙が決壊してる! 大丈夫ですよミールさん、俺が絶対に幸せにしてみます。だってコムギにはすでにこんなに幸せにしてもらってるんで」
「シ゛ロ゛さ゛ん゛……!!」
「更に決壊した!!」

 ぼろぼろと涙をこぼすミールの顔をコムギがハンカチで拭く。
 しかしその思いやりが余計に刺さったのかミールは鼻水まで流し始めた。――奥さんを亡くしてずっとひとりで育ててきた娘なんだ、こうなってもおかしくはないよな。

 良い義父ができたと思う。
 そう思うと前世の父親が脳裏に浮かんで少し胸が締め付けられた。
 父さんは母さんのように生まれ変わりはしなかったようだけれど……今もずっと、俺の父さんだと思っている。心配をかけないようにしっかりと生きていかないといけない。

 ミールは落ち着いたところでバスケットにサンドイッチを入れてくれた。
 そう、芽キャベツのサンドイッチだ。
 コムギを助けに王都レイザァゴへ向かった際に持たせてくれたもので、俺が気に入ったもののひとつだった。あの時のことはミールにとっても様々な意味で印象深かったため、今回改めて作ってくれたのだという。
 嬉しいなとお礼を言うとまた泣かれてしまった。涙腺が壊れたんだな……!

 ミールに俺の分のハンカチも使ってもらった後、ビストとバルが揃って式場に用意された台の前に立つ。
 台の上には盃に注がれたお酒がのっていた。
 言葉の最後にこれをお互いに飲むことで結婚式は完了する。ここは神前式の三々九度みたいだ。

 ビストたちは落ち着いた声音で俺たちに問い掛けた。

「新婦コムギ、新郎シロ。お前たちは共に食卓を囲み、愛を育み、日々の一皿を大切にするか?」
「はい」
「互いに差し出すものを拒まず、苦しい日も祝いの日も、すべての時を共にすることを惜しまないか?」
「はい」
「お前たちは今日、愛という名の果実を手にした。その果実を分かち合いながら、新たな恵みを求めて歩むことを――」

 そこでビストとバルが互いの肩をがっしりと組み、声を張って言い放つ。

「――この愛の神ビストと恋の神バルが!!」
「全力を以て成功を祈ろう!!」

 ……最後になんかアレンジされたぞ!?

 いや、でもこのふたりなら逆にご利益がありそうだ。
 俺とコムギは互いに笑い合い、盃を持って口をつける。

 それが終わった瞬間、レモニカの「そいや!」という掛け声と共に沢山の花火が打ち上がり、色とりどりの光を周囲に降り注がせた。

 地面に伸びた俺とコムギの影が重なっている。
 その影と同じように、これからも最後の瞬間まで寄り添って生きていこう。
 そんな決意と共に――

「コムギ! これからも宜しくな!」
「……! 私こそ、これからも宜しくお願いします、シロさんっ!」

 ――コムギを抱き上げてくるりと一回転すると、参列者席から大きな拍手が沸き起こった。
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