【本編完結】白永くんはいっぱい食べたい ~転生したら食事の神だったので、すべて美味しくいただきます!~

縁代まと

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番外編章

【番外編】薬の神ショウリクは悩んでいた 前編

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※本編の第三章後のエピソードです。三章までの内容に触れています

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 わたしは薬さえあればそれでいいと思っていた。

 衣食住を整え、その上で調薬をしたり薬効を調べたり、新たな薬の材料になりそうなものを探して回る。そんな生き方が楽しく、他者と接するのは処方したり治験をする時のみ。
 だから友達なんていなかったし、これからも作ることはないと思っていた。

 しかしある日、旧食事の神を支持する目標を掲げた神――管理の神バージルの派閥に入ったことで転機が訪れた。ただしそれは決して良いことではない。
 なぜなら、わたしは罪を犯したからだ。

 調薬に適した環境の提供。
 過去の薬の神が発見した薬に関する情報提供。
 それにつられて、とんでもないことの片棒を担いでしまった。

 未だかつて実現した者などいなかった神の力を抑える薬。これは提供された過去の薬の神の情報に案が含まれており、それをベースにわたしが完成させたものだ。
 無味無臭で、どんな神でもこれを飲むと神の力を発揮できなくなる。
 限られた時間しか効果がないというネックはあるが、これも改良を重ねていけばどんどん延びていくだろう。そう思うとわくわくした。

 そう、わたしはこれが罪であるという自覚がありながら楽しんでいたのである。
 薬を作ること自体は罰されることではない。人間たちはどうかわからないが、わたしは薬の神なのだから。
 しかしそれを悪用し、フードファイトを汚したこと……そして管理の神の真なる目的を手伝ってしまったことは罪に他ならなかった。

 今ならわかる。
 過去にこの薬を考案した者は、わたしと違い途中で思い止まったのだと。
 だから未完成だったし、実現した者などいなかったのだ、と。

(――その結果がとんでもない裁判フードファイトに繋がった。食事の神たちはわたしも、管理の神のことも赦したが……)

 前代未聞のフードファイトを繰り広げ、最後には和解するという懐の深さを見せた食事の神たちを目の当たりにし、わたしはようやく自分の過ちに気がついた。

 薬は悪事にも人助けにも使える。
 そして、そのどちらに使おうが薬は薬だ。

 しかし……だからといってわたしが薬を究めるために罪を犯していいわけがなかった。恥ずかしくてもう人前に出ることすらできない。
 静かに法廷を去り、日を改めて裁いてもらおうかと考えたが、その時に旧食事の神の巫女がわたしを祭りじみたフードファイトの会場へと連れ出したのである。
 彼女もまた被害者だったにも関わらず、一緒に料理を作った仲だからという理由だけで。

 そうしてわたしは犯罪の幇助をしたにも関わらず、食事の神たちの意向もあって不問となった。管理の神のように天から罰も与えられていない。

 悩んでいるのはそのせいだ。
 誰にも罰されていないことが気まずくて仕方ない。

(ど、どんな顔をして会えばいいんだ……!?)

 旧食事の神の巫女、コムギはわたしと友達になった。向こうからの申し出だ。
 彼女と食事の神の結婚式には祝い事として出席したが、それも恐る恐るである。
 だがとても楽しく、受け入れてもらえたことも嬉しかったのを覚えている。だからだろうか、なにか行事がなくても下界へ降りて会いに――遊びに行きたくなったのは。

 司っているものによるが、天界の神は基本的に下界への興味が薄い。
 それは我々が下界の概念に影響されるのではなく、我々が影響を及ぼす側だという自覚があるからだ。
 それ故に下界を侮っている。必要なものはすべて天界にある気さえしてくる。――かつてわたしもそうだった。
 だが、食事の神との縁で下界にたびたび降りては様々なものを満喫している神がここのところ散見されていた。

 わたしも行きたい。
 しかしどの面下げて行けばいいのか!

(首謀者である管理の神は遠慮なく赴いているようだが、あ、あいつは食事の神と打ち解けているようだった。つまり手本にはならない)

 友達などいらないと思っていたのに、いざ出来てみるとこの有様である。
 こうして悩んでいる間に結婚式から数年が経っていた。これはまずい。人間はすぐに老いて死んでしまうのだ。
 コムギに会いに行きたいなら早くしなくては。

(……)

 鏡をちらりと見る。
 生姜色の髪と目。コムギと異なり貧相だが背丈だけはある体。耳に付けた錠剤型の耳飾りも含め、生まれ落ちた時から一切変わっていない。
 しかしコムギは違う。結婚式の時でさえ初めて会った時よりも少し成長していた。
 それを怖いと思うなら、それこそ急がねば。

 わたしは頭の中で自分の背を叩き、家の外へと一歩踏み出す。

 さあ――気が変わらないうちに、と、友達に会いに行こう。

     ***

「わあ! ショウリク様、いらっしゃいませ!」
「ショウリクが来るなんて珍しいな、どうしたんだ?」

 テーブリア村にある食事処デリシア。
 その扉を開くとコムギと食事の神が揃って声をかけてきた。
 向かいのテーブルでは旧食事の神がツナマヨのホットサンドをこれでもかと両頬に詰め込んでいる。恐らく詰まっているのは一個分ではない。

 それにしても……コムギはともかく食事の神とは親しくしていなかったというのに、結婚式以降も顔と名前を憶えていたらしい。
 ――ということはわたしの黒歴史も覚えているということだ。
 ついついそんなことを考えてしまい、回れ右して天界へと帰りたくなる。

 しかし蚊の鳴くような声で「少し様子を見にきただけだ」と伝えると、張り切った様子のコムギにイスへと座らされてしまった。
 しかもよりにもよって食事の神の向かい側だ。せめて五席は離してほしかった。

「丁度これからお昼ご飯を作るところだったんです、賄いになりますがショウリク様も食べていきませんか?」
「わ、わたしも?」

 すでに旧食事の神が食べているホットサンドだろうか、と視線をやると、言いたいことを察したコムギが「あれは間食ですよ」と笑いながら言う。
 そしてあれよあれよという間にわたしも昼食を頂くことになった。
 あんな楽しげな目で見られて断りきれるはずがないだろう。

 しかし待ち時間が気まずすぎる。
 なにか話題に出すべきか、それとも大人しく黙っておくべきか。そう迷っている間に食事の神のほうから口を開いた。

「元気にしてたか? 俺たちって天界にあんまり行かないだろ、フライデルたちはしょっちゅう遊びにきてくれるけど天界から出ない神の近況が全然わかってなくてさ」
「ま、まあ、変わらずといったところだ」

 折角話しかけてくれたというのに素っ気ない返答になってしまった。
 違う、こんな返答ではなくもっと気の利いたことを言いたいというのに……!
 必死になって考えていると食事の神が声を潜めて「ちょっと相談があるんだが」と言った。旧食事の神には聞こえているだろうが、そちらは問題ないらしい。

「本人は隠してるみたいだけど、最近コムギの体調が良くないみたいで」
「……!?」
「でもああやって料理は自分で作るって譲らないんだ。それは嬉しいんだけど心配でさ、なにかよく効く薬ってないか?」

 それは由々しき事態だ。

 季節は夏。下界の――フルーディア王国の夏は暑い。
 南国の本格的な暑さと比べればそうでもないかもしれないが、四季がある国なら慣れない暑さで体調を崩すこともままあるだろう。

「先ほど見た感じでは熱にやられたようではない様子だったが……他にも様々な原因が思い浮かぶ。後で本人から話を聞いてもいいだろうか」
「ああ、頼む」
「調薬のために必要な知識でどれほど診れるかわからないが、全力を尽くそう。だが急を要すると判断したら医学の神のもとへ連れていくぞ?」

 医学の神アイスレームは引き籠り体質な神で、天界どころか家からも出てこない。
 ただし来る者は拒まないので本人を直接連れて行けば診てもらうことが可能だ。わたしとも面識があるので橋渡しもできる。
 そう伝えると食事の神は感謝した様子で両手を合わせた。

「ありがとう、恩に着るよ!」
「お、恩など……」

 恩を感じてもらえるような立場ではないのに。
 思わずそんなことを言いそうになって口を引き結ぶ。困らせるだけだ。

 するとそこへコムギが「できましたよ!」と明るい声と共に戻ってきた。
 声だけ聞くと体調不良などとはとてもじゃないが思えない。コムギはわたしと食事の神の前へと皿を置く。

 それはほうれん草とベーコンを使ったトマトパスタだった。
 彩りの鮮やかさだけでなく香りも食欲を刺激する。わたしの皿にはその食欲を満たせるほどの量がのっていたが――食事の神の皿は段違いだ。塔だ。なぜそんなバランスでのせられるんだ。しかもこれを運んできたのか。

 曲芸でも見たような気分になっていると、食事の神が向かいの席でにっこりと笑った。美味しそうな料理を前にして心底嬉しそうである。

「よし、それじゃあ食べるか。いただきます!」
「い……いただきます」

 こうして、まったく予想していなかった食事の神との昼食が始まったのだった。
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